金民錫首相(韓国政府の公式サイトより)

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韓国政府に緊張が走っている。メモリー半導体大手・サムスン電子の労使交渉が不調に終わり、大規模なストライキ突入の懸念が高まっているためだ。韓国メディアも連日トップニュースとして報じている。

ストが実施された場合、サムスンに依存する度合いの高い韓国経済は大打撃を受け、半導体市場での競争力低下を招く可能性がある。李在明政権と与党は労組の権利擁護に努めてきたが、ここに来て労組の動きに対して強硬対応を迫られるジレンマに直面している。

首相が匂わせた「緊急調整」

労組側は、サムスンはAI特需による過去最高益を記録しているのに、競合他社に比べて従業員の「成果給」と呼ばれる賞与の水準が著しく低いと主張して、成果給の大幅引き上げを求めている。一方会社側は、今後の投資などに負担となるとして要求を受け入れない姿勢だ。

21日に予告されているストを前に、金民錫首相は17日、ストには、「緊急調整権」を含むあらゆる対応手段を講じると警告した。「緊急調整権」とは聞き慣れない言葉だが、国民経済を保護する名目で、ストなどの争議行為を30日間強制的に中断させる非常手段のことだ。

韓国では過去に4件発動されており、いずれも航空など基幹産業に関連するストが対象だった。サムスン電子のようなテクノロジー企業のストに対して緊急調整権を発動するのは異例だ。

売上高はGDPの12.5%

韓国政府が強い危機感を抱き、介入まで匂わせている背景には、ストライキがもたらす深刻な予測がある。

サムスン電子は売上高が韓国の国内総生産(GDP)の約12.5%に相当し、国家経済の中核を担っている。さらに1700社を超える協力企業が同社の稼働に依存しており、全面ストによる生産ラインの停止は、1日最大1兆ウォン(約1100億円)の損失を生むと地元メディアは伝えている。

海外メディアは、ストにより、メモリー供給で世界規模の混乱が起きるとも伝えている。一方、安定供給先として台湾や中国のメーカーに注目が集まっている。

政治対立に発展も

今回のスト問題は、政治対立の様相も帯びている。与党「共に民主党」は伝統的に労働者の権利擁護を掲げるリベラル政党だ。「黄色い封筒法」(改正労働組合法)の立法化も主導してきた。これは、争議行為を行う労働者に対する企業の損害賠償請求を制限する法律だ。

このため最大野党の「国民の力」は、この黄色い封筒法こそがストライキを助長しており、国家経済を人質に取る「労組の無法化」を招いたと批判し、6月に予定されている全国同時統一地方選挙を意識して、攻勢を強めている。

労使双方が妥協点を見出すことができるのか、今後の行方に国内外の関心が高まっている。

文/五味洋治 内外タイムス