成松由紀夫容疑者(八代市議会HPより)

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 熊本県八代市の新庁舎建設を巡る汚職事件で、警視庁と熊本県警の合同捜査本部は5月7日、同市議会議員の成松由紀夫容疑者(54)ら3人をあっせん収賄容疑で逮捕した。逮捕前の会見では、その強面な態度が話題なったが、果たして地元での彼の評判はどのようなものか――。

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【写真を見る】賄賂6000万円は何に使われたのか… 周囲は「お金に余裕があるようには思えなかった」

 官製談合の舞台は2016年の熊本地震で被災した八代市庁舎の建て替え事業だった。19年7月に入札が公告され、東京に本社を置く前田建設工業を中心とする共同企業体が約118億円で落札。予定価格に対する落札率は99・9%で、ドンピシャと言っていいものだった。ただし、市との契約はその後、129億8000万円に跳ね上がった。また、追加工事などが加えられたため、22年に開庁した新庁舎の総事業費は171億円にまで膨らんだ。

成松由紀夫容疑者(八代市議会HPより)

 新庁舎は地上7階・地下1階、延べ床面積は2万7422平米と旧庁舎の2倍を超える。この建て替え事業に一肌脱いだといわれているのが、市議の成松容疑者である。前田建設が落札できるよう便宜を図った見返りに現金6000万円を受け取ったとして、あっせん収賄容疑に問われているのだ。

 成松容疑者は05年の八代市議会議員選挙に無所属で出馬して初当選、現在は自民党所属で6期目を数える。議長や副議長などを歴任し“市議会のドン”との呼び声も高い。

 何よりこの方、市議になる前は力士だった。地元・八代から日本大学に入学して相撲部に入部。日大相撲部といえば全国学生相撲選手権大会で歴代最多となる30回の優勝を誇る名門である。また、学生横綱から日大理事長に上り詰めるも、大学に対する背任事件で有罪となった田中英壽氏を思い浮かべる人も少なくないだろう。成松容疑者をよく知る地元住民は言う。

強面とは裏腹

「成松さんも一見、田中元理事長のようなコワモテですからね、黙っていれば体も大きいし怖いですよ。彼にどやしつけられたら市の職員などは震え上がってしまうでしょう。でもね、私が知っているイメージとは全然違うんです。根は優しい人ですよ。彼は日大を卒業後、三保ヶ関部屋に入門し、序ノ口で優勝するなど順調でしたが、結局、幕下止まりで八代に帰ってきたんです。ちゃんこ屋を経営しながら子どもたちに相撲を教えていて、教え子たちからは『先生』『監督』と慕われていました。成松さんもニコニコして、子どもを見る目はホントに優しかった」

 長きにわたる議員生活で変わってしまったのだろうか。

「今も変わっていませんよ。市民の声を聞くときには必ずメモを取って真剣に取り組まれていました。見た目とは裏腹に、非常に真面目で細かい方です」(地元住民)

 だが、彼は逮捕されたのだ。

「本当に6000万円ももらっていたなら、一体どこに使ったんだろうと不思議でなりません。彼のちゃんこ屋はテーブル席の他に座敷もあるんですが、座敷の畳はもう何年も替えられていなかった。八代といえばい草の名産地として有名です。だから『成松さん、そろそろ替えないんですか?』って聞いたこともあるんだけど、濁されちゃいました。経営が厳しいのかなと思ったくらいです。車もずっと国産車だし、10年以上前からスーツを新調した様子もない。財布やバッグが良いものになったこともない。贅沢はしないし、お金に余裕があるようには思えなかった」(同前)

物販はスルメ

 実は成松容疑者、今回の逮捕前にも別の問題で議員辞職勧告が提出されていた。市職員に対し、長年にわたり物品購入を強要していたというのだ。別の地元関係者は言う。

「地元中学校の相撲部の支援を名目に、市の幹部職員を利用して配下の職員に物品を販売したり寄付を募ったりしていたというのです。幹部職員に集金までさせていましたが、受け取った金銭の収支報告は行っていなかったそうです。一昨年12月の定例会では、庁舎内で年2回、600件もの物品を売りつけたという指摘に、同じ自民党市議が『一昨年は1回だけ、販売数は227件だった』と事実を裏付けるような反論をしたことが話題となりました」

 自民党市議の反論は、無論、成松容疑者の言い分を代弁したものだ。言い訳にしても、もっと上手い言い方があっただろうに……。

「何でも、販売していた物品の一つはスルメだそうです」(地元関係者)

 スルメ? スルメイカ?

「そうです。2000円くらいだったそうです」(同前)

 行商か? なんだかコワモテのイメージとはほど遠い。

「結局、市政治倫理条例違反として辞職勧告決議案が可決されたのですが、成松さんは辞職を拒否しました」(同前)

おかしな会見

 それと同時進行のように続くのが、今回の官製談合疑惑である。疑惑の追求を受けた成松容疑者は今年4月、自民党八代市議団が開いた記者会見でこう語っていた。

成松容疑者:警察も多分、疑義があるなら私の通帳でも何でもめくると思いますよ。だから(不正があるなら)もう捕まってますって。そうでしょ、ハッキリ言って。だから(現金を)もらってる、もらってないは断固否定します。

 口が滑ったのか、“もらってない”ことまで否定してしまったのである。その上でこうも言っていた。

成松容疑者:フラット35で(住宅)ローン組んでいる。フラット35で家を建てているのでお忘れなく。

 確かに、彼の自宅の登記には住宅金融支援機構が抵当権者として記されており、ローンは支払っているようだ。だからといって、ローンがあるから大金などもらっていないと主張するのは説得力に乏しい。しかも、わざわざ住宅ローンの商品名まで挙げて……。

「そういう人なんですよ。正直言って、頭が切れるタイプではないんです。そもそも成松さんの市職員に対する物品販売を最初に指摘したのはとあるYouTuberで、成松氏は彼を名誉毀損で刑事告訴すると宣言し、警察も告訴を受理したと説明しました。ところが、そのYouTuberによると、警察には受理されていなかったそうです。新庁舎建設問題について指摘された際も、名誉毀損で提訴したものの論点が整理できておらず、裁判官に何を訴えたいのかたしなめられたそうです。そんな人ですから、彼ひとりで官製談合の絵を描いたようには思えない……」(前出の地元関係者)

“天の声”の発言者とは

 八代市議会は新庁舎建設問題に関する百条委員会(設計・施工の意思決定の適正化などを検証する調査特別委員会)を立ち上げている。八代市では過去に実績のない前田建設がなぜ入札できたのか、4月に行われた証人喚問では市職員から気になる証言があった。

 上司から入札における総合評価の基準案を示された際、その職員はこう言われたという。

「これは“天の声”によるものであり、一言一句、変更することなく業務を進めるように!」

 その“天の声”が誰の声であったのか、上司は「覚えていない」と説明した。地元記者は言う。

「そもそも今回の問題は、昨年10月ごろ県警に官製談合違反の刑事告発があり、前田建設が社内調査を行ったところ不正が判明したことがきっかけでした。それにより成松容疑者らがあっせん収賄の容疑で逮捕されたわけですが、贈賄側である前田建設は公訴時効になってから警視庁へ情報提供と捜査協力を申し出ているのでお咎めはなし。いわゆる“片肺飛行”というものです。もし成松氏がトカゲの尻尾切りにされたとしたら……」

 真相の解明が待たれる。

デイリー新潮編集部