アルゼンチンのエプイエンでは2018年、誕生日パーティーをきっかけにハンタウイルスの集団感染が発生し、11人が死亡した。原因はアンデス株のウイルスだった/Gustavo Zaninelli/AP

CNN)アルゼンチン南部の小さな村エプイェンで2018年、約30人が重病になり、保健当局が原因の究明に追われる事態が起きた。流行が終息するまでに、このうち11人が死亡した。

患者の多くは肺炎や重度の呼吸困難を起こして集中治療を受けていた。原因は、げっ歯類が媒介するハンタウイルスの一種で、人から人へも感染し得るアンデス株だった。集団感染が起きているクルーズ船「MVホンディウス」で乗客8人に感染したのは、アンデス株だったと思われる。

米ニューヨークのマウントサイナイ・アイカーン医学校のグスタボ・パラシオス氏によると、エプイェンで流行が起きるまで、アンデス株のことはほとんど知られていなかった。

「このウイルスへの対応経験は非常に限られている」とパラシオス氏は解説する。アルゼンチンでの流行については2020年、医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに調査結果が発表された。

パラシオス氏によると、アンデス株が人から人に感染した症例は、これまでの概算で恐らく300例に満たず、症例数の総数は3000例程度にとどまる。同氏は今回クルーズ船で起きた集団感染への対応について助言している専門家グループの一員でもある。

エプイェンでは、1人の感染者から複数に感染が拡大する「スーパースプレッダー」の事案が3件確認された。アンデス株は、他人に感染させる可能性がある期間が約1日と短く、感染力は発熱した当日にピークに達する。

しかし、この間に短時間でも近くにいた相手には、比較的簡単に感染してしまうことが分かっている。

エプイェンの場合、最初の患者は68歳の男性で、約100人と共に誕生日パーティーに参加し、トイレに行く途中でわずか数分接触した相手にまで感染させていたことが分かった。

この患者は自宅近くで感染したと思われる。アルゼンチンでは農業地帯で住宅の周辺にも生息しているオナガコメネズミがアンデス株を媒介する。

米国でも死亡例

ハンタウイルスは米南西部など世界各地でもげっ歯類が媒介することが分かっている。

最近の事例では2025年に死亡した米俳優ジーン・ハックマンさんの妻ベッツィ・アラカワさんについて、検視の結果、死因はハンタウイルス感染だったと断定された。

ほとんどの場合、ハンタウイルスは動物の排泄(はいせつ)物に触れた本人が感染したとしても、別の人に感染させることはない。

しかしアンデス株は例外で、人から人へ感染することがあり、集団感染を引き起こす可能性がある。

世界保健機関(WHO)はクルーズ船の集団感染について、公衆衛生に対するリスクは低いと指摘する。ただし感染すれば重症化する恐れがあることから、WHOはハンタウイルスを国際的な公衆衛生上の緊急事態を引き起こす可能性が高い新興優先病原体に分類している。ハンタウイルスの致死率は、最大で40%に達することもある。

すれ違っただけで感染も

エプイェンの集団感染では、最初の感染者の男性は2018年11月3日、発熱した当日に誕生日パーティーに出席していた。

パーティー会場にいた1時間半の間に、男性から5人が感染した。うち2人は同じテーブルで約30センチ離れて座り、別の2人は約1.2メートル離れた隣のテーブルに座っていた。残る1人は、トイレへ行く途中でこの男性とすれ違っただけだった。

アンデス株は感染してから発症するまでの潜伏期間が長いことから、感染した可能性がある人の特定が難しいという問題もある。

11月3日のパーティーで感染した5人が発症したのは2〜3週間後だった。

2番目の患者は61歳の男性で、発症してから16日後に死亡するまでに6人に感染させた。

発熱した状態で通夜に参列した男性の妻からは、さらに10人が感染し、通夜の17日〜40日後に発症した。

別の12人は、それ以前に感染した患者と接触して感染した。

一方、症状のある患者と接触した80人以上の医療従事者は、防護具をほとんど使っていなかったにもかかわらず、直接的に感染した人は皆無だった。規模の小さな地方の病院で感染した医療従事者2人は、発症した患者に最初に接触していた可能性がある。

医療従事者の感染が少ないことは、患者が他人にウイルスを感染させる可能性のある期間が短いことを物語る。

「これはCOVID(新型コロナウイルス)ではない。インフルエンザでもない。人から人に感染した特異な事例で、恐らくは船の閉ざされた環境のために発生したのだろう」。感染症に詳しいルシル・ブランバーグ氏はクルーズ船の集団感染についてそう指摘している。