金融庁も一転して強硬姿勢に…高市政権が推進するコーポレートガバナンス・コード改訂に大企業経営者が感じる不安

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大企業が抱える80兆円超の現預金を吐き出させ、サナエノミクスで掲げた戦略17分野への投資や大幅な賃上げに役立てたい――。高市早苗政権が掲げるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針、CGコード)の5年ぶりの改訂には、そんな政治的な思惑が隠れている。

取締役会が現預金を有効活用できているかを検証し、説明することを求める新たな規定を追加することで、企業の余剰資金を新規事業や人件費増の原資に振り向けさせることが狙いだ。

前編記事『上場企業の現預金をサナエノミクスの軍資金に? コーポレートガバナンス・コード改訂のウラに隠された高市政権の政治的思惑』より続く。

企業側の必死の反論

ただし、大企業側には「他人の懐に手を突っ込む」(大手メーカー幹部)ような高市政権の強引なやり方に反発する声が出ている。米リーマン・ショックや新型コロナウイルス禍のような経済危機時に備え、手元資金に余裕を持っておかなければ、万が一の際の事業継続や雇用維持が危うくなると考える経営者は多い。

また、現預金の保有が悪者視されるようになれば、「モノ言う投資家(アクティビスト)に格好のネタにされ、過大な株主還元を迫られかねない」(エネルギー会社首脳)との懸念も大きい。

このため、企業側は昨秋から議論が始まった金融庁のCGコード改訂に関する有識者会議の場で「現預金のみを取り上げて検証・説明を推奨することは企業の自主性・自律性を阻害する」などと必死の反論を展開した。

金融庁も強硬姿勢に

金融庁はこの言い分にも一定程度の配慮を示していたが、年明け以降は議論の場が日本成長戦略会議(議長・高市首相)の下に設置された「資産運用立国推進分科会」に拡大した。

この場には企業のキャッシュリッチ批判の急先鋒であるクレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの会田卓司氏が有識者メンバーとしていたため、CGコードを使って現預金を吐き出させようとする流れは変わらなかった。

金融庁が4月10日に公表したCGコードの改訂案では、当初の「現預金」だけを狙い撃ちする表現から「現預金等の金融資産や実物資産」の有効活用を求める表現に修正された。

また、「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か、さもなければ説明を)」の対象となる「原則」より格下の「解釈指針」に位置付けられたが、潤沢な手元資金を持つ企業にサナエノミクスへの貢献を迫る姿勢は健在だ。官邸筋は「細かい表現や体裁はどうでもいい。CGコードに明記し、市場の圧力を強めることが重要だ」と強調する。

首相や片山さつき金融担当相から睨まれたくないからか、金融庁も「成長投資の促進がCGコード改訂の一丁目一番地。企業が稼いだお金が投資に回らない現状を抜本的な正す必要がある」(伊藤豊長官周辺筋)などと強硬姿勢を前面に押し出しており、企業の不安は募るばかりだ。

「企業の悪弊を直す」

消費税減税にしろ、人工知能(AI)をはじめとした17分野の危機管理投資にしろ、首相が唱える「責任ある積極財政」には財源探しという難題が付きまとう。赤字国債の発行に向かえば、長期金利を急騰させたり、円安進行を招いたりするリスクがあるからだ。

一方で、イラク情勢の緊迫化に伴う原油高騰などで成長率が下振れする懸念も高まっている。内閣支持率の下落を招く景気の大幅な悪化を何としても避けたいと焦燥感を募らせる首相は、大企業の潤沢な現預金を是が非でも国内投資や賃上げに回させたい考えだ。

今回のCGコード改訂がアクティビストを勢いづけるのではないかとの企業の懸念について、首相周辺筋は「どんな理由であろうとも市場の視線が厳しくなるのは大歓迎だ。そうでもしなければ、余剰資金を抱え込む企業の悪弊は直らない」と強調する。

企業の現預金をサナエノミクス推進の軍資金として引き出せるなら、市場でアクティビストが跳梁跋扈しても構わないと言わんばかりの様子だ。

衆院で圧倒的多数を占め、独裁体制を強める「女帝」を前に、大企業経営者も蛇に睨まれたカエルの心境かもしれない。

大企業の現預金活用に強硬姿勢を示す金融庁だが、一方でこんな事情も抱えている。あわせて読みたい。『金融庁がソニー生命への本格的な調査を躊躇する「本当の理由」』

【はじめから読む】上場企業の現預金をサナエノミクスの軍資金に? コーポレートガバナンス・コード改訂のウラに隠された高市政権の政治的思惑