「AIのせいでクビ」約5万5000件の衝撃…アメリカで広がる“AIウォッシング”の裏にある不都合な真実
でも本当にそれだけなのか、とずっと引っかかっていました。
◆「AIのせい」という便利すぎる説明
ところが専門家たちの見立ては、かなり違います。採用調査会社Resume.orgの調査によれば、採用担当者の約60%が「AIや自動化を理由に挙げる方が、財務的な制約を正直に言うよりも受け入れられやすい」と考えているという結果が出ています。そして実際にAIが役割を「完全に」置き換えたと答えた企業は、わずか9%にとどまりました。
労働市場データ分析会社Revelio Labsのチーフエコノミスト、Lisa Simon氏はこう述べています。「企業は不要になった部門を整理したいだけです。今のところAIは、そのための隠れ蓑であり、言い訳になっています」。
これが「AIウォッシング」と呼ばれる現象です。グリーンウォッシング(環境への取り組みを実態以上に見せること)と同じ構造で、AI活用を実態以上に見せながら、本来は別の理由による人員整理に正当性を持たせる経営手法です。
◆Twitterが3年前に証明してしまった事実
AIウォッシングを理解するために、もっと直接的な例があります。2022年、イーロン・マスクによるTwitter買収直後の大量解雇です。
マスクはBBCのインタビューで、買収時に約8000人いた従業員を約1500人にまで削減したと述べました。約80%のカットです。当時、「これでプラットフォームが崩壊するのでは」という声が上がりました。コンテンツモデレーションチームが壊滅し、信頼安全チームは大幅縮小。あちこちで機能障害が起き、広告主も一時離れました。
ただ、プラットフォームとしてのTwitter(現X)は、今も稼働しています。
つまりこういうことです。「あれだけの人数がいなくても、会社は回った」。
もちろん品質の低下はあったでしょう。利用者数の減少を示すデータもあります。でもここで注目したいのは別のことです。8000人いた組織が1500人になっても、会社として消えなかった、という事実そのものです。
さらに興味深いのは、Twitterの共同創業者でかつてのCEOだったジャック・ドーシー自身が解雇された従業員に向けて謝罪し、「会社を大きくしすぎた」と認めたことです。つまり過剰な採用は、経営者も内心ではわかっていた、ということです。これはAIが登場するずっと前の話です。
◆Microsoftが静かに始めたこと
Microsoftが同社51年の歴史で初めて、社員に対して早期退職プログラムを提示しました。対象は米国従業員の約7%、約8750人。年齢と勤続年数の合計が70以上の社員に、自発的な退職を促す内容です。これに先立ち、Microsoftは2025年だけで約1万5000人を解雇し、2026年3月にはAI部門以外の採用を凍結しています。
一方でMicrosoftの直近の四半期売上は813億ドル。AIインフラへの年間投資は800億ドルを超えています。つまり赤字で困っているわけではまったくなく、十分な利益を上げながら、それでも人員を削っているのです。
テクノロジー専門メディアThe Next Webはこう評しました。「自発的退職プログラムは大量解雇より穏やかな手段に見えるが、同じ戦略的目的を果たす。Microsoftが十分に利益を上げていることを考えると、削減は『必要性』ではなく『選択』だ」と。
