「僕もエキストラ出身で、ずっとコンプレックスを背負ってきて…」山田裕貴が共演者・佐藤二朗の日本アカデミー賞受賞に「わけわからないくらい泣いた」深い理由
〈元プロ野球選手の父が「山田家は土方歳三と家紋が一緒だぞ」と…山田裕貴にハードスケジュールを走り続けることを決意させた“運命的な出来事”〉から続く
2025年は“山田裕貴イヤー”だった。主演映画が立て続けに3本公開。そのひとつ『爆弾』で第49回日本アカデミー賞・優秀主演男優賞に輝くなど、獅子奮迅の活躍ぶりだ。
【画像】「わけわからないくらい泣いた」日本アカデミー賞授賞式の際の山田裕貴さん
2026年もその勢いは止まらず、日曜劇場『GIFT』に出演中のほか、新撰組を描いた主演ドラマ『ちるらん 新撰組鎮魂歌』の全世界配信が決定(スペシャルドラマ「江戸青春篇」、ドラマシリーズ「京都決戦篇」がU-NEXTで配信中)。100以上の国と地域に発信されるビッグプロジェクトだ。
『週刊文春』2026年4月30日号(4月23日発売)では、巻頭グラビア「原色美男図鑑」にて、“山田裕貴の善と悪”をテーマにした撮り下ろしカットを5ページにわたって掲載した。
『ちるらん』で土方歳三を生きた彼が志す“正義”、“最強”、そして“散り様”とは? 誌面には掲載しきれなかった、およそ1時間、ノンストップで語ってくれた熱い想いを、特別にロングバージョンでお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

山田裕貴さん 「原色美男図鑑」アザーカット/撮影 神藤剛
◆◆◆
『爆弾』の現場で「恐ろしいな」と感じたんです
――この取材の前日が「日本アカデミー賞」の授賞式でした。『爆弾』での「優秀主演男優賞」受賞、おめでとうございます。
山田 ありがとうございます。
――先ほど「僕は殺し屋にはなれない」とおっしゃっていましたが、山田さんは“情に厚い”人なのかなと感じます。授賞式でも、『爆弾』で共演した佐藤二朗さんが「最優秀助演男優賞」に輝いた姿に涙を流していらっしゃいました。
山田 『爆弾』の現場で「恐ろしいな」と感じたんです。二朗さんの気概と気迫がものすごくて。これは僕の想像ですし、言葉にすると浅はかに聞こえてしまうかもしれませんが、「お芝居で自分の世界を変えてやろう」という凄まじいエネルギーを放っていらっしゃった。鬱屈した気持ちとか、嫉妬心とか、マイナスな感情から逃げずにちゃんと「自分のせい」にして、芝居で全部叩き潰してやろうって。それって、俳優として一番の原動力だと思うんです。
「全部受け止めよう」と自分のせいに出来た時、僕も強くなれた
――山田さんもその気持ちが核にある?
山田 はい。二朗さんが授賞式で「日本映画をあまり観ていなくて」「嫉妬を感じるから、悔しいと思うから」とスピーチされたじゃないですか。僕、ものすごくわかるんですね。ずっと負の感情を抱えてきたので。二朗さんが始めはセリフのない役で舞台を踏んでいらしたように、僕もエキストラ出身ですし、「一緒だな」と感じる部分がたくさんある。ずっとコンプレックスを背負って、ハングリー精神でやってきましたから。若手の「まあまあ見てくれもいいか」くらいの枠に入れられることに反抗して、あえて太ってみたこともありました……。
でも、それを一周した時と言うのかな。二朗さんも「去年、初めて日本アカデミー賞授賞式に出席して、みんなが日本映画を応援している姿を見て俺も邦画を観ようと思った」とお話しされていましたが、「負の感情を全部受け入れよう、全部受け止めよう」と自分のせいに出来た時、僕も強くなれたと思っていて。
――どんなに暗い感情も、我がこととして真正面から向き合うのだと。
山田 「僕は絶対に、負の感情から逃げない人間でありたい」。そう覚悟が決まりました。
逃げずに負の感情と向き合ってきた人が認められて嬉しかった
――そして、佐藤さんも「逃げない人」だった。授賞式での涙には、そうした想いがあったのですね。
山田 嬉しかったんです。二朗さんが、逃げずに負の感情と向き合ってきた人が認められて、本当に嬉しかった。『爆弾』はスタッフの皆さんのお仕事も素晴らしくて、多くの部門にノミネートされました。
なかでも、二朗さんが日本アカデミー賞というあの大きな舞台で最優秀賞をとってくださることで、負の感情を持った人間たちが報われるんじゃないか、僕も間違っていないと思えるんじゃないか。そんな祈りや願いもありました。
何より、二朗さんが演じたスズキタゴサクが圧倒的な存在感だったので。彼が主人公と思われてもまったくおかしくない。主演は二朗さんでしょ、と感じる方もいると思います。何なら、僕がいることで主演男優賞の道を阻んでしまっているというか。
わけわからないくらい泣いてしまいました
――タゴサクは冒頭からスクリーンを支配していますが、山田さんが演じる類家は後半から本領を発揮します。
山田 最初の脚本では、類家の上司である清宮さん(演・渡部篤郎)が早々にタゴサクに敗北して、類家が登場する流れでした。でも僕が「いや、もっと清宮さんの出番を長くしてください」と意見を出して……自分でこう、狭めたんです。主演であることの道を。
――なぜでしょうか。
山田 本当だったらタゴサクが主人公の話だと感じていたからです。だけど、プロデューサーさんと原作者の先生から「絶望で終わらせたくない。この作品に希望を持たせたい。最後まで踏みとどまれる類家が主人公であってほしい」という想いを伺って、僕の名前が前に来ることになりました。
そうした経緯も踏まえて、僕よりも、二朗さんが賞をとることに意味がある。そして実際に、主演の席にいる僕ではなくて、二朗さんがとってくれた。そこに、これまでの全てが乗っかっているんです。
――タゴサク自身が、社会においても、人生においても、主役になれなかった男でした。そんな彼を演じた佐藤さんが「最優秀賞」に輝いた。
山田 はい……、だからもう、わけわからないくらい泣いてしまいました。
「僕は山田君の闇を知っている。絶対に類家だと思うんだよね」
――『爆弾』関連の記事で印象的だったのが、山田さんが「類家と自分は同じ」とお話しされていたことです。類家は「正義」の側に立つ警察官ですが、内心では「こんな世界、滅んじまえ」とうんざりしている。「悪」には転ばないギリギリの線に立つ人間です。
山田 『東京リベンジャーズ』でご一緒した岡田(翔太)プロデューサーが見抜いてくれたんです。「僕は山田君の闇を知っている。絶対に類家だと思うんだよね」と。実際、原作を読んだ時は「類家の言葉=僕自身の言葉」とすら感じました。あそこまで頭はよくないですが、マインドは類家。彼の気持ちがもう痛いほどわかる。
歳三もそうですけど、いつもその時演じている役とどこかがシンクロするんですよね。とくに類家はこれまでで一番かもしれません。その次が『ここは今から倫理です。』で演じた高柳。絶対に世間一般の「山田裕貴」のイメージとは違うでしょうが、僕は彼の近くに心を置いていました。
――山田さんは熱血ヒーローのイメージだったので、とても意外です。
山田 猫かぶっています。それはそれで本当の僕ですけど、類家と一緒です。言葉にするのは難しいのですが、なんか、めんどくさいので。
「あなたのワンクリックが人を殺していますよ」という警告
――まさしく類家な発言ですね。
山田 本当に、類家のまんまなんですよね。悪というか、「そちら側」には簡単にコロッといけてしまうと思うんです。ぶち壊すのも暴れるのも簡単じゃないですか。
だけど、無駄だなと思ったんですよね。世界を変えようなんざ無理だな、と。いや、諦めてはいないけれど、結局、変わろうとしている人しか変われませんから。真実を真っ直ぐ伝えることも、真っ直ぐ受け止めてもらうことも、どうしてもなかなか難しい。
――こと芸能界というのは、華やかな反面、常に人の眼にさらされ、ジャッジされる場でもありますよね。
山田 とてつもない世界ですよね。『爆弾』には様々な要素が込められていて、「あなたのワンクリックが人を殺していますよ」という警告も含まれています。それは自分の人生ではないことに好き勝手盛り上がっている人たちへのメッセージでもあると思うんです。
――無邪気な「決めつけ」や「嘘」が誰かの命を奪うかもしれない。「お前もいつ『爆弾』になるかわからないぞ」と突き付けられました。我々メディア側もきつく心に留めておかなければいけないことだと感じます。
山田 僕ら役者はある意味で「噓を生きる」仕事ですから、とても矛盾しているなとも感じるのですが、僕は嘘にまみれた人間は恥ずかしいと思います。自分はそう在りたくないですし、世界も嘘まみれであってほしくない。
だから踏みとどまらなくてはいけないと思いますし、「芝居で世界を変えたい」というか……、壮大なレベルではできなくても、各々の小さな世界は変えられるよなと信じています。例えば、あるひとりの人生とか。その人にとって「『爆弾』が一番好きな映画になった」ということなら出来るかもしれない。それがちょっとした助け、一食のご馳走くらいになってくれたらいいなと。
――でも、それは命を繋ぎますからね。たとえ一食であっても。
山田 そのために芝居をやっている、そんな感覚です。
山田裕貴の志す「最強」と「散り様」
――今回の「原色美男図鑑」では“山田裕貴の善と悪”をテーマに撮影しました。ここまでお話を伺って、山田さんにとっての「悪」は、「嘘」とも言い換えられるのかなと。
山田 そうですね。逆に言えば、自分のやったことをちゃんと自分のせいにできる人こそ、善というか「最強」だなと思います。そりゃ当然、人間ですからミスはするでしょうし、逃げたくなるのもわかります。だけどそういう人を目の当たりにすると、やっぱりがっかりしちゃいます。僕とは考え方が合わないな、と。
――『ちるらん』の土方も「最強」を追い求めています。山田さんは長いお付き合いのドライバーさんに「最強のアップルパイを買ってきてほしい」とオーダーするなど、以前からこのキーワードを使っていらっしゃるそうですね。今日の衣装合わせでも、スタイリストさんに「最強でお願いします」とオーダーしていらっしゃいました。
山田 僕はファッションのプロではないので、その分野の方の「最強」を聞きたいし、知りたいんです。最強を追い求めている人とこそ仕事をしたい。「裕貴君、これが最強なんだよ」と言ってくれたら、「わかった。僕はそれを信じる」と迷いなく返せる。今回のスタイリストさんもヘアメイクさんも、自信をもって僕に最強を差し出してくれる方たちです。だからずっとご一緒しています。
――熱意と熱意の真剣勝負ですね。
山田 「よかったね」も「駄目だったね」も、心から一緒に感じられる仲間と仕事をしていきたいです。表面的な言葉ってわかるんですよ。どんな感想であれ、本気で、熱意をもってぶつかってきてほしい。お仕事に向かう姿勢は、そうあるべきじゃないですか。だから、僕は逃げないです。残酷からも、綺麗事からも。類家の言葉を借りるなら。
「駄目だったらそこまで。だから、足を止めなければいい」
――最後に、『ちるらん』は幕末を生きた男たちの“散る美学”を描いた作品です。山田さん自身は、役者としてひとりの人間として、どう咲き、どう散りたいとお考えですか?
山田 咲くことは、自分ひとりではできませんからね。応援してくれる方々がいてこそ花開く。僕が決めることが出来るのは散り際だけです。そこもまた『ちるらん』の歳三と一緒で「駄目だったらそこまで。だから、足を止めなければいい」という気持ちです。一瞬一瞬、命を燃やして、色んな風景を駆け抜け続けたい。その隣を一緒に走ってくれる仲間がいたら最高ですね。
――インタビューを通じて、山田さんはものすごく熱いし、ものすごくクールでもあるなと感じました。
山田 どちらにも振り切った結果かもしれません。蒸発するまで熱くもなりましたし、凍るまで冷たくもなりました。それを経て、何にでもなれるニュートラルな「水」に至った。だから今、無敵です。
【原色美男図鑑(『週刊文春』2026年4月30日号掲載)】
撮影 神藤 剛
ヘアメイク 小林純子
スタイリング 森田晃嘉
衣装協力 POSTELEGANT/PORTER CLASSIC/PLUIE
(「週刊文春」編集部/週刊文春)
