細木数子、辻トシ子、佐藤昭――「女帝・女王」といわれた三人に共通する成り上がり人生…男性への”復讐”の仕方は三者三様

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「女帝」や「女王」と称された、たたき上げの権力者の裏面史を明らかにする物語が注目されている。Netflixがドラマ化した「視聴率の女王」細木数子、YouTubeなどで話題になった「昭和の女帝」辻トシ子、そして元首相・田中角栄の愛人兼秘書で「越山会の女王」といわれた佐藤昭だ。底辺から伸し上がった女性たちが再び耳目を集めているのはなぜなのか。 

ドラマ冒頭の衝撃的なシーン

占い師としてテレビなどで活躍した細木数子の生涯を描くNetflixのドラマ「地獄に堕ちるわよ」(主演:戸田恵梨香)が話題になっている。ドラマの冒頭、少女時代の細木が飢えに耐えられず、地面に落ちていたあるモノを口に入れ、咀嚼する衝撃的なシーンがある。戦後の食糧難の中で大人たちに騙され、搾取されるという、どん底から物語りが始まる。その後も、暴力団員に囲われて性暴力を受けたり、そこから彼女を救うのもまたその筋の人間であったりと、波乱万丈の人生が活写される。細木はパートナーになった暴力団幹部の影をちらつかせながら、歌手の島倉千代子のマネージャーや、占いのビジネスに乗り出して巨万の富を築いていく。

生々しい事実を映像化できたのは、細木の裏の顔を暴いたジャーナリスト、溝口敦のノンフィクション『細木数子 魔女の履歴書』(講談社)を下敷きにできたからこそだろう。同書は、細木と暴力団の関係だけでなく、自分にとって不利な記事を捻りつぶすために広域暴力団最高幹部を差し向け、溝口に圧力を掛けた事実も暴露している。

溝口の特集記事が2006年に『週刊現代』に掲載された後、細木は講談社社長を相手取って6億円余の損害賠償を求める訴訟を起こした。だが、すぐに腰砕けになり、裁判所の和解提案に応じた。実質的な訴訟の取り下げ、つまり敗訴だ。訴訟を跳ね除けた参考文献があったことは、ドラマの制作チームがさまざまなリスクを管理する上で、大助かりだったはずだ。

溝口と細木の攻防は、ドラマの骨格にもなっている。劇中では、伊藤沙莉が演じる小説家が、細木の半生を書くために本人や親類らを取材する。その取材を基に小説家が情景を頭に思い浮かべ、細木と一緒に回想するような形で過去が赤裸々に明かされていくのだが、小説家がいよいよ真相に迫ろうとしたとき、暴力団関係者から妨害されたり、細木から小説の出版を巡って恫喝されたりする。

印象的だったのは、パーティー会場で、大手マスコミの幹部たちに囲まれて談笑する彼女を見たTVプロデューサーらしき男が、「まさしく女帝って感じですね」と小説家に呟く場面だ。細木は、「視聴率の女王」としてもてはやされていた。溝口が記事で批判するまで、彼女が高額な墓石などを売りつけるグレーなビジネスに手を染めていたことにメディアは目をつぶっていた。

保守本流の女帝・辻トシ子

細木とは違うフィールドで、権力の階段を上り詰めたのが「保守本流の女帝」と称された辻トシ子だ。歴代首相と対等に付き合った女性フィクサーで、池田勇人、佐藤栄作、宮澤喜一といった宏池会のトップに近く、彼らの天下取りを支援した。細木は人を支配するために「占い」を使ったが、辻は「大蔵省と日米外交」を利用して財界からカネを集め、政財界を動かしていた。

辻は細木と同様、激動の昭和の時代に頭角を現し、権勢を振るったが、その人物像はあまり知られていなかった。彼女のことが記事になることは稀で、その実態をうかがい知ることができるのは、ノンフィクション作家の石井妙子が本人へのインタビューを基にまとめた連載『忘れえぬ女(ひと)たち』(文藝春秋「本の話」所収)に限られていた。

隠された存在だった辻をモデルに、筆者は『昭和の女帝 小説・フィクサーたちの群像』(ダイヤモンド社)を上梓した。

主人公は、“政界の黒幕”の娘として政治を裏から操るフィクサーだが、実は、バーのホステスから成り上がった人物だ。小説のストーリーは 「地獄に堕ちるわよ」と同様、ノンフィクション「小説『昭和の女帝』のリアル版 辻トシ子の真実」が下地になっている。彼女の権力の秘密については、YouTubeのドキュメンタリー動画「自民党を動かした「昭和の女帝」辻トシ子…隠された権力者の謎に、岸田元首相ら歴代総理・総裁の証言で迫る」でも明らかにしている。

同小説には、田中角栄の愛人兼秘書で、「越山会の女王」といわれた佐藤昭をモデルにした女性も登場する。角栄ブームの際に再注目された佐藤も、新橋のキャバレーのホステスから田中事務所の秘書に転じ、永田町ではい上がった。彼女が勤めていたキャバレーの店名は、処女林という露骨なものだった(佐藤あつ子『昭 田中角栄と生きた女』〈講談社〉)。

乱世を生き抜いた女性の力強さ

細木、辻、佐藤はいずれも、女性の人権が尊重されない時代に、逆境に抗いながら栄達した。いわゆる“オンナ”を利用して権力者に取り入ったことは事実なので、現代的な価値観からすれば眉をひそめる人もいるだろう。しかし、彼女たちに「自分を虐げてきた社会を見返してやりたい」という反骨心とエネルギーがあったからこそ、男尊女卑の時代に、人を動かせる存在になれたのではないだろうか。三人の人生には、乱世を生き抜いた女性の力強さ、そして混沌とした高度経済成長期ならではの成功物語としての痛快さがある。

彼女たちにはそれぞれ、暴力団員や政界の黒幕、田中角栄といった嫉妬深い男の支配者がいた。興味深いのは、男性への復讐の仕方が三者三様であることだ(さまざまな理由で支配者本人は彼女たちが反撃できるだけの力を持つころには表舞台から去っていたので、攻撃の対象は男性一般ということになる)。細木は、ホストクラブで若い男たちをはべらせ、シャンパンを開けまくる。ドラマ「地獄に堕ちるわよ」で、細木が小説家をホストクラブに連れ出して泥酔するまで酒を飲ませ、「私はここで男に復讐しているの」と語る場面はなかなかに強烈だ。

他方、副総理秘書官など公の肩書もあった辻はもう少しお行儀が良い。辻の弟分だった元大蔵相の藤井裕久によれば、彼女の大蔵省への影響力は極めて強く、気に入らない官僚の出世の道を閉ざすことができるほどだったという。辻はエリート官僚たちを意のままに動かすことで、日米の財界からカネを集めていた。プライベートでは、外務官僚と結婚直前までいったこともあった。

佐藤は、角栄の首相退任後、田中派の別の政治家と男女関係になったり、大企業幹部と浮名を流したりした。ある意味、三人の中では最も自由で、最も強烈に「女は一人の男に尽くすべき」という価値観に挑戦したといえる。

三人の女性はときに人権を蹂躙されながらも、混乱の時代を強かに生きた。戦後の世界秩序が崩壊し、弱肉強食の時代に逆戻りしつつある現代も乱世といえる。いま、昭和の女傑たちに関心が寄せられているのは偶然ではないのかもしれない。(文中敬称略)

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