「濃度を下げてうま味調味料を入れたラーメンを出す予定です」…福岡の超人気ラーメン店が、新店舗オープンで《こだわりを捨てたワケ》
ラーメン店「あなたの心を鷲掴み」(以下、あなわし)。
超濃厚なとんこつスープが特徴で、ラーメン好きには広く知られる人気店だ。福岡県八女市という、福岡の中心部から高速道路を使って1時間以上かかり、人口わずか8000人の立地にもかかわらず、常に行列ができている。
2026年3月、同店のSNSに「(新店舗の物件を)契約してきたぜ」との投稿が。写真には、店主の三浦隆寛氏(41歳)の姿と、シャッターに「6月オープン予定」との張り紙が写っており、界隈がざわついている。
新しい店舗で出すラーメンとは? また、18歳未満入店禁止などの厳格なルールがあることでも知られるあなわしだが、2店舗目も同じなのか?
店主を直撃した。
田舎町から都心の近くへ。アクセスは格段にアップ
福岡県八女市に店を構える現店舗「あなわし」は、スープの強烈な個性が人気の秘密。
スープに使う材料は、豚の骨・水・しょうゆの3つだけというシンプルさながら、他の追随を許さないほどの濃厚さがウリだ。
「豚骨の美味しさを出すために、1杯あたり約1kgという大量の豚骨を超強火で炊いています。九州で一番の濃度で、ラーメン専門家の方が来られて濃度計で測定しようとしたんですが、キャパオーバーで数値が出なかったくらいです」(三浦隆寛氏、以下同じ)
とんこつラーメンといえば白濁スープのイメージだが、同店のスープはあまりの濃度のため茶褐色で、レンゲで掬うとドロっとした重みを感じるほどだ。
新たな店は、西鉄大牟田線の春日原駅の目の前の立地。福岡市に通勤通学する人が多く暮らす、ベッドタウンだ。
福岡市の中心地である天神駅から電車で20分足らずなので、これまでに比べるとアクセスの良さは圧倒的だ。
あえてこだわりを捨てた!? 三浦氏の戦略とは
これまで、「わざわざ」食べに行っていた「あなわし」のスープが、「気軽に」食べられるようになる期待が膨らむが、三浦氏からは意外な回答が。
「濃度を下げてうま味調味料を入れたラーメンを出す予定です」
生粋の職人である三浦氏の言葉とはにわかに信じがたいが、その真意は次の通り。
「この方法は長く研究してきました。使用するとんこつはこれまでの半分くらいにして、うま味調味料で補って、味に関してはほぼ変わらない状態まで完成しています。ドロっとした感触も同じように出せる工夫も入れています。濃度が下がっていることは常連さんにはわかるとは思いますが、僕自身はこれでも自信をもって出せる味です。現店舗とは違うスタンスの店として出すんです」
八女市の現店舗は今後「プレミアム店」と位置付け、今まで通りの高濃度のラーメンを提供し続ける一方、ほぼ同じ味を多くの人に体験してもらう意図があるというわけだ。
「八女市の店では職人としてうま味調味料を使わなかったし、これからも使いません。ただ、僕はうま味調味料の否定派ではないんですよ。だから、新しい店舗ではそれも使って次の段階に行きます。そもそも僕は、このやり方ならばとんこつラーメンで日本一を取れると思ってやってきました」
立地がこれまでに比べアップすることで、気軽さは格段にアップする。それに加え、うま味調味料の使用で、手軽さも向上するのだと三浦氏は言う。
「うちのラーメン(看板メニュー「鷲掴みとんこつ」は税込1300円)って高いですよね。それを、新店舗のやり方ならかなり安く出せます。もともと、一般的なとんこつラーメン店の10倍くらいの骨を使っているので、材料費がものすごいんですよ。また、それをガンガン強火で長時間炊くのでガス代も他店に比べてものすごく高い。その部分が、大幅に削減できるので、ラーメンの値段も下げられるんです」
確かに、1300円のラーメンというのはラーメン好きでないと手が出しにくい価格であった。新店舗では立地によって距離のハードルを下げ、新たな製法によって価格のハードルも下げることになる予定だ。
厳格なルールはどうなる?
また「あなわし」といえば超濃厚なスープの他に、代表者1人が列に並び入店の直前に同行者が合流する「代表待ち」の禁止や、18歳未満入店禁止などの厳格なルールがあることでも有名だ。
こうしたルールは、マナーが悪く他の客やスタッフに迷惑をかける客が多かったことから出来上がってきた。新しい店舗でも、このルールは引き継がれるのだろうか。
「基本的には同じルールでやります。マナーを守れない人は来ないでくださいというだけなんですけどね」
また、新店舗の立地上、「酔っ払い禁止。酔っ払っているかは店が判断する」という新たなルールを加えることも模索中なのだそう。
「過去に、酔っ払い4人で瓶ビールを2本注文されたグループがいました。うちは、車でしか来られない場所にあるので『お車の運転は大丈夫ですか?』と確認したら『うるさい!』と暴言を吐かれ、凄まれたりしたこともありました。他にも、酔っ払い対応で時間を取られることがよくあったので」
上記のようなことがあり、「あなわし」では酒類の提供をやめた。しかし、新店舗は駅前で、周囲に居酒屋などもあり酔っ払い客が来る可能性もあることからの想定だ。
こだわりの強い店主の営むラーメン店の新店舗。しかし、店を変えることでこだわるポイントを変えて次のフェーズに進もうとしていた。三浦氏の職人としての姿に加え、経営者としての一面が見えてきた。
後編記事『《18歳未満入店禁止》のラーメン店が新店舗をオープン…弟子志願者多数も、合格者は…』では、三浦氏が店の顔として店舗と味を守り続けて来た「あなわし」だが、2店舗になることによって、三浦氏不在になる店や時間が生まれる。その点の、不安やリスクについてどう考えているのかなど、同氏にさらに迫る。
