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メルセデス・マイバッハが掲げる哲学

2012年に、一度はそのブランドが廃止された『マイバッハ』。その名前が新たにメルセデス・ベンツのサブブランド、『メルセデス・マイバッハ』として復活を遂げたのは2014年のことだった。

【画像】究極のパフォーマンスと究極のラグジュアリーが共存?メルセデス・マイバッハ『SL680モノグラム・シリーズ』 全48枚

このメルセデス・マイバッハが掲げる哲学は『究極のラグジュアリー』。メルセデスAMGが『究極のパフォーマンス』を掲げていることを考えると、このふたつのブランドの違いは一目瞭然になる。


メルセデス・マイバッハから登場した、SL63をベースとした『SL680モノグラム・シリーズ』。    平井大介

そのメルセデス・マイバッハから、最新の『SL63』をベースとした『SL680モノグラム・シリーズ』が発表されたのは、2024年夏に開催されたペブルビーチ・コンクールデレガンスでのことだった。

ちなみに初代から数えて第7世代となる現在のSLクラスは、新開発されたプラットフォームに象徴されるように、メルセデスAMGのエンジニアリングをベースに誕生したモデル。搭載エンジンもメルセデスAMG伝統の、『One Man, One Engine』と呼ばれる手法で製作される。

従って正式な車名も、この現行型からはメルセデス・ベンツのSLではなく、メルセデスAMGのSLと呼ばれるようになった。

究極のパフォーマンスと究極のラグジュアリー

メルセデスAMGの作に、さらにメルセデス・マイバッハの手が加わることになる。それはいわば、究極のパフォーマンスと究極のラグジュアリーが共存したモデルということになるのだが、発表時に感じた個人的な気持ちは、正直に書くのならばやや複雑なものだった。

メルセデス・マイバッハからオープンモデルが登場するのは今回が初めてのことではない。今をさかのぼること10年前、彼らは『メルセデスAMG S65カブリオレ』をベースに『S650カブリオレ』をデビューさせている。


ブラックのボンネットにグレーで描かれるマイバッハ・エンブレムは、モノグラムと呼ばれる。    平井大介

そもそも4シーターのキャビンを持つSクラス・カブリオレには、ラグジュアリーな雰囲気が満ち溢れていたから、さらにメルセデス・マイバッハがその魅力を高めることに抵抗はなかった。

だが今回のSL680モノグラム・シリーズはやや事情が異なる。メルセデスAMG自身が求めた理想のスポーツカー像に、マイバッハがさらに手を加えることは正義といえるのか。そのような気持ちが胸にあったのは確かなところだ。

エクステリアにも独自の演出

SL680モノグラム・シリーズのエクステリアには、もちろん独自の演出がある。そもそもモノグラムとは、オブシディアン・ブラックのボンネットに、グラファイト・グレーで描かれるマイバッハ・エンブレムのパターンを意味するもの。

今回の試乗車はオパリスホワイトマグノとのツートーンカラーを採用したホワイトアンビエンスと呼ばれる仕様だったが、エクステリアではほかにも独自の演出が数多くある。


クリスタルホワイトの最高級ナッパレザーを採用した空間は、まさに贅の極み。    平井大介

『MAYBACH』の文字が刻まれるフロントグリルや、やはりロゴが散りばめられたアンダーグリルなどはその象徴的な例。オープン時には気づくことはないが、ソフトトップもマイバッハのロゴで彩られている。参考までにこのソフトトップは、60km/h以下ならば約15秒でフルオートマチックでの開閉を可能とする。

インテリアは、まさにメルセデス・マイバッハの誇りを具現化したかのようなフィニッシュだ。ボディカラーにコーディネートさせ、クリスタルホワイトの最高級ナッパレザーを採用した空間は、まさに贅の極みともいうべきもの。

機能面ではデジタルコクピットディスプレイも、マイバッハ専用のデザインとなっているのが注目できる。装備内容も、ブルメスター製のハイエンド3Dサラウンドシステムを搭載するなど、やはり非の打ちどころはない。

実際にこのSL680モノグラム・シリーズのユーザーとなったのならば、移動は至福の時間となることは間違いないだろう。

マイバッハ・モードが選択可能に

ダイナミックセレクトで、新たにマイバッハ・モードを選択することが可能になったのも、このモデルの大きな特徴だ。

このモードを使用するとフロントに搭載される4LのV型8気筒ツインターボエンジンや、それに組み合わされる9Gトロニックの制御がより穏やかになり、同時にサスペンションもより乗り心地を重視したセッティングに変化する。その走りはまさに静かな水上を優雅に進むクルーザーもイメージさせてくれる。


パワートレインは4LのV型8気筒ツインターボに9Gトロニックの組み合わせ。    平井大介

しかし、メルセデスAMGの作にメルセデス・マイバッハが手を加えたことに対する複雑な気持ちは、ドライブ中に常に自分の胸の中から消えることはなかった。走りの中で感じる、SLというモデルがそもそも持つスポーツ性は残念ながら稀薄に感じられ、それはスポーツモードを選んでも大きく印象は変わらない。

マイバッハ独自の設定によるアクティブライドコントロールサスペンションも、メルセデスAMGが理想とするスポーツカーのそれとはやや異なるフィーリングを伝えてくる。

メルセデスAMGの名誉のために

メルセデス・マイバッハには現在、ほかに『Sクラス』、『GLS』、『EQS SUV』をベースとしたモデルがラインナップされており、それらはいずれも彼らが主張するとおり世界屈指ともいえる究極のラグジュアリーを実現したモデルとして知られている。

だがこのSLを素材としたことは、やはり個人的に抵抗を感じたのも事実。メルセデスAMGの領域には、いかにメルセデス・マイバッハとはいえ、そこに踏み込むことは禁断の行為だった。メルセデスAMGの名誉のために、筆者はここにそう断言したい。


メルセデスAMGの領域に踏み込むことは、禁断の行為だった。    平井大介