「まだ働かなきゃいけないのか」…小遣い月3万円・40年以上働き続けた60代男性。貯蓄2,100万円あったはずが、まさかの「ハローワーク通いの老後」に溜息
「贅沢もせず、真面目に働いてきたのだから、老後はなんとかなるだろう」――。60歳時点での貯蓄は2,100万円。決して少ない金額ではありません。しかし5年後、通帳に刻まれていたのは、まさかの金額でした。ギャンブルや極端な浪費に溺れたわけではない、「普通」の暮らしをしてきたはずが、何が起きたのか。見ていきましょう。
真面目に働き、節約に励んだ日々
神奈川県内で設備メンテナンスの仕事に従事してきた木村さん(仮名・65歳)。高校卒業後、地元の企業に就職し、同じ会社で40年以上ひたむきに働いてきました。
現場仕事が中心で、夏は暑く冬は凍えるような過酷な毎日。それでも転職を考えることなく、家族のために定年まで勤め上げました。30歳で結婚し、パートで家計を支えてくれた妻とともに、一人娘を大学まで卒業させました。
木村さんの年収はピーク時で約550万円。住宅ローンと教育費の負担は重く、決して余裕のある暮らしではありませんでした。
自身の小遣いは月3万円。昼食は毎日、弁当を持参し、外食や娯楽も最低限に抑えてきました。
「家族を養うのが第一。自分が欲しいものは、だいたい我慢してきましたね」
60歳で定年を迎え、その後は再雇用として勤務。収入は現役時代の6割ほどに減少しましたが、退職時にはまとまった資金を手にしました。
・預貯金:約600万円
・退職金:約1,500万円(60歳時に受け取り)
合計で約2,100万円。住宅ローンはすでに完済しており、60歳の時点では「贅沢をしなければ、年金と合わせて何とかなるだろう」。そう考えていました。
しかし、実際にはそうはいかなかったのです。
再雇用期間の5年間「贅沢はしていない」はずが…
再雇用の5年間も終わり近く、いよいよ年金生活が始まるという年。あらためて通帳を確認した木村さんは、我が目を疑います。
残高:約1,200万円
2,100万円あったはずの資産が、この5年間で900万円も減っていたのです。まだ本格的な年金生活に入る前、現役(再雇用)として働いていたはずの期間に、一体何が起きたのか。
まず大きかったのは、一人娘への援助でした。娘の結婚資金に200万円、さらに初孫の誕生に伴う出産祝いやベビー用品の購入で100万円。「一人娘の晴れ舞台だから」「孫のためなら」という親心から、木村さんは快く財布を開きました。
さらに、自宅の維持費も重なりました。給湯器とエアコンが相次いで故障し、外壁の劣化補修も重なって約250万円の出費。「家も自分と同じように年を取るのだ」と痛感した出来事でした。
これら「特別支出」の合計は550万円。しかし、計算が合いません。残りの350万円はどこへ消えたのでしょうか。
「ご褒美」が招いた月5万円の赤字
振り返れば、60歳を過ぎてから生活のブレーキが少しずつ緩んでいました。
長年、慎ましい生活をしてきた妻は、友人とのランチや趣味の教室、国内旅行を楽しむようになりました。木村さんもまた、長年の自分への労いとして、憧れだった一眼レフカメラを手に入れ、あちこち巡るように。
再雇用で給料が下がった分、毎月の生活費は少しずつ貯金から補填されていました。その額、波はありますが、月にして約5万円強。
「これくらいなら、退職金があるから大丈夫だろう。ご褒美だよ」
夫婦の心に、そうした気持ちがあったのでしょう。互いに「なんとなく」支出を許容し続けてしまったのです。
65歳で仕事を引退し、「これからは年金で」と思った矢先、手元に残ったのは想定を遥かに下回る、約1,200万円という現実でした。これから夫婦の病気や介護、さらなる自宅の修繕が控えていることを考えると、この金額では心もとない数字です。
「高校を卒業してから、ずっと真面目に働いてきた。それなのに、まだ働かなきゃいけないんですね。退職金という大金で気が緩んでしまって、自業自得ですが……」
木村さんは、ハローワークで仕事を探し、長く働く道を模索しています。
老後資金は静かに減っていく…60〜65歳は「耐える期間」
「退職金や貯金があっという間に減ってしまった」と聞くと、ギャンブルや過度な浪費をしたのではないかと思われるかもしれません。
しかし、木村さんのケースはそうではありません。子どもへの善意、住まいの維持、そして長年の苦労に対するご褒美。どれも、ごく「普通の選択」に見えます。
しかし、その「普通」を重ねる中で、収入と支出のバランスを数字で把握しなかったことが、致命的な結果を生みました。
特に退職金のように大きなお金が振り込まれると、つい気持ちが大きくなるものです。しかし、実際には60〜65歳の5年間は、多くの人が減収になる時期です。
国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」を見ても、世代別の年収ピークは55〜59歳で572万円。60〜64歳では473万円と大幅に下落します。そのため、ここで浮足立たずに浪費を抑えられてこそ、年金生活が始まるときまで資産を維持できます。
夫婦で家計状況を共有し、どの支出が「聖域」で、どこに「ブレーキ」が必要かを話し合えているか。それがなければ、老後の平穏はあっという間に消えていくのかもしれません。
