”420ページの鈍器本”なのに『365人の仕事の教科書』はなぜメガヒットしたのか…? 商品ヒットの法則を「担当編集者」が明かす!

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2020年に刊行され、32万部超の大ベストセラーとなった『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修/致知出版社)。2,585円という高価格帯、420ページという分厚く、重量もある通称“鈍器本”が、なぜこれだけ多くの支持を集めたのか。本書の編集に携わった同社書籍編集部の小森俊司氏にその制作秘話とヒットの要因を探ってもらった。

不公平かつ公平な映画の世界

昨年末に公開され、世界的なヒットとなった『アバター』シリーズの最新作。制作費は約4億ドル(約623億円)にも及ぶとされ、ジェームズ・キャメロン監督は、興行的に振るわなければシリーズの終了も覚悟していたという。

一方、2018年に日本で公開された『カメラを止めるな!』の制作費はわずか300万円。無名の監督と新人俳優たちが作ったインディーズ映画だが、興行収入30億円以上の大ヒットとなった。

面白いのは、かけた予算も人も時間もまるで違う2つの映画が、鑑賞料は2,000円程度と、ほぼ一律であることだ。こんな不公平があってよいのだろうか。同時に、こんな公平がなぜあるのだろうか。

分量で価格を破壊する

よく似たことが他の業界にも当てはまる。その最たるものは、書籍だ。どんな有名作家の書いた作品でも、一学生が書いた作品でも、また、どんな仕掛けを凝らし、時間を費やした作品であっても、なくても、通常の体裁であれば販売価格は1,500〜1,800円程度とほぼ一定している。ブランド価値や機能の差異により、値段はピンからキリまであるアパレルや乗用車などの世界では考えられないことだ。

また、だからこそ私たち書籍編集者は、携わる書籍の価値を少しでも高めようとして足掻きに足掻き、世に出る直前まで、必死の努力をする。校了を迎えるギリギリまで、その努力をすることが許されている。

約50年に及ぶ歴史の中で、弊社最大のヒット(32万部超)となった『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)も、価格の概念を打ち破って生まれた1冊だった。

本書はさまざまな分野で活躍する人の体験談を紹介する月刊誌『致知』の40数年に及ぶ歴史と1万本を超えるインタビュー記事の中から、特に心に響いた話を365編集めて編集したものである。この雑誌『致知』を元に、感動する話をいくつかまとめて刊行した書籍は、これまでにも存在した。

『365人の仕事の教科書』がそれと違っていたのは、何と言っても収録した話の本数で、既刊が26編を収録して1,320円だったところ、本書は365編を収録して2,585円。既刊2冊分の価格で、実に14倍もの分量に触れることができる。

ただ、それだけにこちらが費やした労力や熱量は、過去とは比較にならないものがあった。

比類なき書籍ができるという確信

そもそもの企画の発端は、2019年春。「この雑誌だけは読み捨てられずに何十年分も保管してある」「毎号が永久保存版の内容」といった愛読者からの声を入社以来、目にすることが非常に多かった。そこで、何百冊とあるバックナンバーの中から、これはという記事を厳選し、かつ「特にこの部分に心がしびれた」というポイントを抽出し、365編を盛り込めば、比類なき書籍ができるはずだという確信は持っていた。ただ、多くの人に受け入れられるためには、「1日1ページ」の読みやすさが不可欠だと考えていたが、どうやっても1ページ分で収まる分量にはならなかった。

ある時、立ち寄った書店で、ひと回り大きなA5の判型で、3段組みの本文レイアウトを目にした。すぐさまPCにサンプル文を流し込み、ちょうど3段組みできれいに収まった時、「これはいける!」と全身を電流が貫いた気がした。

翌日、サンプルページと合わせて弊社社長に起案したところ、即承認を得ることができ、さっそく収集作業に移った。

だが、本当に大変だったのはそこからだった。自分自身がそれまで10年間、『致知』の雑誌編集者だったこともあり、取材の中で心が震える話に山のように出合ってきたし、上司のまとめた記事にも胸を突き動かされた経験が何度もあった。それらを一つひとつ集めていけば、優に規定本数をクリアできると考えていた。

バックナンバーと向き合い続ける日々

しかし、1か月間をかけて集めた本数を数えてみれば、その半数にも満たない180本……。頭の中はすでに出来上がった書籍が店頭に並んでいるイメージでいっぱいだったため、落胆も大きかった。しかし、一度決めたことをここで諦めるわけにはいかない。

そうだ、1日1本ずつ、心に響く記事を見つけ出せれば、半年後には365本が揃うことになる。そう思い直し、書庫にある数百冊分に及ぶバックナンバーを1冊ずつ読み込んでいくことにした。

来る日も来る日もバックナンバーと向き合い続けた。日中は他の書籍の進行に追われるため、その作業ができるのは通勤電車と、始業前、終業後、休日のみに限られる。それでも、読めば思わず心が熱くなり、時に目頭を押さえてしまうような記事と出合える喜びは、何ものにも代え難かった。そしてこれらの話を早く読者の方に届けたいという思いで胸はいっぱいだった。

編集部の総力を結集して生まれた書籍

実際に365本に到達したのは1年半後の2020年秋。プリントアウトした原稿の束を社長に渡す時、紙の重みで少し手が震えていた。

そして、こちらの気持ちに応えてくれるように、社長には即日、全原稿に目を通してもらえた。だが、固唾を呑んで待っていたその反応は「ここまで集めたのはエラい。でも50〜60本、考え直したほうがよいものがある」というもの。さすがに目の前が真っ暗になりかけたが、社長からはそれと同時に、編集部全員の手を借りて、一人ひとりが感動した記事を数本ずつ出し合えばよい、という打開策をいただけた。

その結果、どのページを開いても必ずとびきりの胸の熱くなる話に出合えるという書籍が出来上がった。文字通り、編集部の総力を結集して作り上げた一冊だった。

全国の書店員へ熱い手紙を送付

並々ならぬ思いを注いで作り上げた書籍だ。なんとしても多くの人に届けたい。そこでその最大の手渡し手となってくださる全国の書店員さんへ向け、手書きで手紙を書き、50〜60通ほど送った。手紙には、この本がどういった経緯で出来上がったか、また、当時はコロナ禍の真っ只中だったが、いまこの本を世に出すことの意義と、40年以上の歴史の集大成となる1冊で、読者の方に勇気と希望を感じていただきたいという思いを熱く綴った。

数日後。それらの書店から続々と注文のFAXが戻ってきた。中には「お手紙ありがとうございました。私たちも一所懸命売ります」とメッセージを添えてくださった方もあった。こちらの思いが通じたと感じ、胸が熱くなった。

そこからの書籍の動きは、自分でも信じられなかった。2020年11月末。初版8,000部からのスタートだったが、発売前から増刷を重ね、10日後には7刷、4万部に到達。「1日1話なので新年から読みたい」という読者の方も多く、年末年始を迎えるとさらに売れ行きが跳ね上がり、期末の3月には10万部を超えるのではないかと予測された。しかし蓋を開けてみれば、同月には倍の20万部を突破していた。

商品ヒットの法則とは?

発売から約5年。本書は当初想定していた若手ビジネスマンだけでなく、女性層や高齢者層、さらに最近では高校の授業のテキストとしても活用される事例が出てくるなど、思いもかけない形で広がりを見せている。また、2022年に第2弾(『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』)が、昨年末には最新刊の第3弾(『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』が発売され、シリーズ累計45万部を突破している。

2,585円という高価格帯、420ページ超の分厚い書籍が、なぜこのような広がりを見せることになったのか?

1つには、本書に掲載されている内容が、いつの時代にも左右されることのない「人間学(=人間性を高めるための学び)」をテーマにしていること。何十年も前の記事であっても、その内容は決して古びることなく、むしろ新鮮な感動やインパクトを持ってこちらに迫ってくる。

そして冒頭に述べたように、価格以上の価値をお客様に提供できているからではないかと感じる。家具用品メーカーのニトリのキャッチフレーズは「お、ねだん以上。」だが、近年は100円ショップなどへ行っても「えっ、こんな商品がこの値段で買えるのか?」と驚くことが多く、値段以上の価値をその場でお客様に感じていただけなければ、購入には至らずに終わってしまうケースが多いと言えるだろう。

ドラッカーは、自著『明日を支配する者』の中で、「何事かを成し遂げられるのは、強みによってである。弱みによって何かを行なうことはできない」と述べている。弊社の場合、40数年に及ぶ「人間学」をテーマにした記事が1万本以上存在したことが強みの一つだった。そこに、当人たちが想像していたよりも、遥かに大きな価値が眠っていた。

まず、自社の強みは何であるかを自らに問うこと。隣の芝生の青さを羨む前に、自らの芝生の魅力を見出し、それをお客様に届く形で表現すること。そして、価格以上の価値を込めることに最大限の腐心をすること。そこに商品ヒットの秘訣があるのではないだろうか。

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