徴兵制復活の兆しがあるアメリカで沸き起こる「トランプの息子・バロンを徴兵せよ!」論
バロン・トランプの徴兵論勃発
4月10日付の「ニューヨークタイムズ」(NYT)に、「大統領の息子を徴兵する?」という挑発的なタイトルの記事が公表された。「マノスフィア」(米英などの英語文化圏において、男らしさ、女性嫌悪、反フェミニズム運動を推進するウェブサイト、ブログ、ネットフォーラムなど)が議論を巻き起こしているというのだ。
たしかに、「徴兵バロン・トランプ」なるサイト(下を参照)まで出来ている。そこには、「米国が強いのは、その指導者が強いからだ。トランプ大統領は毎日そのことを証明している。当然のことながら、息子のバロンも、父が力強く統率するこの国を守る準備は万端だ。奉仕は名誉であり、強さは受け継がれるものだ。神よ、バロンを守り給え」という皮肉めいた記述がある。
奇しくも、4月9日付のNYTは、「米国政府、徴兵制の自動登録へ動き出す」という記事を掲載した。米国は徴兵制を廃止し全志願制軍隊へと移行したが、国家緊急事態発生時には国家安全保障のための徴用人材の唯一の供給源として「選抜兵役制度」(Selective Service System)が数十年にわたり存在してきた。これと同じ名前をつけた、国防総省とは別の行政機関(SSS)が、1980年以来、徴兵対象となる18歳から25歳の男性に対し、政府への登録を義務づけてきた。
ところが、義務であるにもかかわらず、登録率が低下している。2024年の年次報告書では、「当局は啓発活動の体制を強化するとともに、 広告戦略を刷新し、若年男性やその周囲の人々に対して登録義務について周知徹底を図った」としながらも、2024年の18〜25歳の男性登録率が81%と、「2023年からわずかに低下した」とのべている。
このため、今年後半から自動的に氏名を登録する方式に移行し、数十年にわたって続いてきた本人による登録義務を廃止するというのだ。これに対応するため、連邦政府のさまざまなデータベースから個人情報を収集することになる。議会は、この規則変更を2026会計年度の国防授権法に盛り込み、トランプ大統領は昨年12月に署名済みだ。
SSSはすでに、規則改正案を、行政管理予算局の一部である情報規制事務局に審査のために提出した。専門家によると、規則制定のプロセスには、社会保障局や国勢調査局など、徴兵対象となる男性の個人情報を共有する可能性のある他の連邦機関も関与する見込みだ。いまのところ、新規則は12月までに施行される。
ただ、多くの州では、若者が運転免許証やその他の身分証明書を申請する際、徴兵登録の選択肢が設けられているから、自動登録はそれほど難しい作業とはならないだろう。2024年時点で、4州を除くすべての州が、こうした徴兵登録の選択肢を設けているからだ。一部の州では、申請者がSSSとの情報共有を希望しない場合、オプトアウト(登録拒否)を求められているという。
一方、登録を怠ると重罪となり、最高5年の懲役や、政府融資などの特定の連邦給付を受けられなくなるなど、さまざまな罰則が科されることも指摘しておこう。
徴兵制復活の兆しか?
先に紹介した4月9日付のNYTの記事には、3月8日のフォックス・ニュースのインタビューで、ホワイトハウスのキャロライン・リーヴィット報道官が徴兵制の復活を懸念する母親たちにどう答えるかとの問いに、トランプ大統領は「あらゆる選択肢を排除していない」とのべた、と紹介されている。彼女はまた、イランへの地上部隊の派遣は「現在の計画」には含まれていないとも話した。
こうした社会的な雰囲気のなかで、「父親がやる勇気がなかったことをやってみろ。父親が愛国心をもってできなかったことをやってみろ」と、20歳になったばかりのトランプの息子バロンに公に呼びかける人物まで現れている。
ベトナム戦争の功労者である元ミネソタ州知事のジェシー・ベンチュラ(74歳)である。英国の司会者ピアーズ・モーガン氏が司会を務める番組『ピアーズ・モーガン・アンセンソアード』に出演し、イラン戦争をめぐる幅広い議論をテレビで繰り広げるなかで、こうのべたのだ(下の写真を参照)。
彼は興味深い発言もした。
「自分の子供を戦場に送り出す覚悟があるなら、その戦争は正当化される。なぜなら、自分の子供さえ戦場に送らないのに、どうして他人の子供を戦場に送り出せるだろうか?」と。
さらに、「だから今、ドナルド・トランプの息子であるバロン・トランプに呼びかけたい。何しろ彼は3人の妻をもち、それぞれの妻との間に子供がいるが、私の知る限り、軍務に就いた者はだれもいないからだ」とも語った。
トランプ一家は「徴兵忌避」
高市早苗首相は先の訪米時、3月19日開催の日米首脳夕食会で、「明日に控えるドナルドのご子息のバロンさんのお誕生日」をお祝いすると挨拶した。「立派で、イケメンに成長されていることと伺っております。間違いなく御両親に似たのでしょう」とものべた。
ホワイトハウスに近いニューヨーク大学ワシントン校の学生である若きトランプは、何を考えているのだろうか。徴兵制が1973年にようやく廃止された際、20歳の男性は最優先選抜グループとなっていたことを考えると、反戦派がバロンを標的としている理由もわからないでもない。すでに、「#SendBarron」のタグを使用したソーシャル・メディア情報がたくさん出回っている。
そもそも、トランプ・ファミリーは実際には、徴兵とは縁遠い。1968年、ベトナム戦争の最中に大学を卒業したトランプ大統領は、兵役の延期を5回受けた。ベトナム戦争中に学生としての徴兵延期を4回、かかとの骨棘を理由とした医療上の延期を1回受け、その結果、現役での従軍はなかったと広く報じられている。彼は私立の寄宿学校であるニューヨーク・ミリタリー・アカデミーに通っていたが、従軍はしなかった。
加えて、1999年に93歳で死去したトランプの父、フレッド・トランプ・シニアについて、第二次世界大戦中は30代であり、建設業界で台頭しつつあった請負業者として不可欠とみなされ、直接的な兵役を免れたと指摘されている。
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