記事のポイント
フォードや日産はスポンサーではなく、自ら番組を制作しブランド主導のスポーツコンテンツを展開している。
エンタメ性の高いブランドの83%が売上成長を達成し、ブランデッドコンテンツの有効性が示されている。
高額なスポンサー契約に頼らず、ファン層に入り込みエンゲージメントを高める新戦略が広がっている。


フォード(Ford)や日産、ステート・ファーム(State Farm)、Googleなどの広告主は、スポーツリーグやクラブをスポンサーになるのではなく、自らを興行主の役割に据え、スポーツファン層を軸とした独自のブランデッドコンテンツを制作している。

フォード・ブロンコ(Ford Bronco)は、Amazon Prime Videoでストリーミング配信されているエクストリームスポーツチャンネルのプロ・リーグ・ネットワーク(Pro League Network、以下PLN)と組み、自社の車両を主役に据えたスポーツ番組を制作している。

同社は4月末、『ブロンコ・オフ・コース(Bronco Off Course)』を放送する予定だ。これは、ゴルファーたちが最新のフォード・ブロンコをオフロード用キャディとして駆使しながら、モハーベ砂漠の人里離れた渓谷に点在する特設ホールを回る内容の番組だ。

「これは、ブロンコをブランドとして注目させるための、まったく違うやり方だ。意外性があるように見えるが、それでもブロンコというブランドそのもの、ブロンコがやってきたことに完全に忠実な姿を、新しい角度から見せている」と、フォードの北米プロダクトコミュニケーション・ディレクターであるマイケル・レヴァイン氏はDigidayに語った。

番組にはゴルフ系クリエイターがキャストとして登場するほか、プロのドリフトレーサーであるヴァーン・ギッティンJr.が主役を務める。

番組のパイロット版は、彼の会社RTRが制作した。「われわれはブロンコを使って、本物のゴルファーたちと一緒にできる限りクールなことをやってやろうと考えていた。そういう内容なら、視聴者は引きつけられるとわかっていた」と、同氏は語った。

これは、PGAツアー(PGA Tour)よりもYouTubeでゴルフを観るほうに関心がある若いゴルフファンのコミュニティに踏み込むと同時に、レクリエーション目的のオフロード走行に興味を持つドライバーをフォード・ブロンコの世界へ取り込もうとする試みだ。

「18〜34歳の世代には、ゴルフやゴルフ体験に強い関心を持つ、非常に大きく、急速に拡大している層が存在する。われわれは、そこにオフロードへの熱意を掛け合わせる機会があると考えた」と、レヴァイン氏は語った。

なお、同氏は番組制作にフォードが投じた予算については明かさなかった。

「おもしろい」ブランドの83%が売上増



ブランデッドモータースポーツ番組であれ、オーガニックなソーシャル投稿であれ、ブランド自身が持つポッドキャストやYouTubeドキュメンタリーであれ、エンターテイメント・コンテンツは広告主に他社との差別化をもたらしうる。

インディペンデント系エージェンシーのスモール・ワールド(Small World)とブランドトラッキング企業のトラックスーツ(Tracksuit)が米国の消費者1万6000人を対象に実施し公表した調査によると、「もっともエンターテイメント性が高い」と評価されたブランドの83%が、2025年の売上を伸ばした。

日産は2026年2月、PLNと同様のプロジェクトを立ち上げた。同自動車メーカーは、PLNの番組『カージツ(CarJitsu)』向けに、最新型のニッサン・マグナイト(Magnite)の車内の広さを示すため、車内で柔術エキシビションマッチを開催した。

日産を世界的な担当アカウントに持つエージェンシー、TBWA\RAAD(ティービーダブリューエー・ラード)のチーフクリエイティブオフィサー、デレク・グリーン氏は、従来の自動車広告を無視する可能性がある、若い自動車購入者層にアプローチする方法としてアイデアを進めたと語った。

両自動車ブランドにとって、こうした番組はソーシャルメディアプラットフォームで切り抜きに使える豊富な動画コンテンツを提供する場にもなるだろう。

『カージツ』はたしかに型破りな番組だ。ある切り抜き動画では、出場選手がマグナイトのシートベルトを使って対戦相手を絞め落とす場面がある。

しかし、グリーン氏は、企画は消費者の「おすすめ」フィードに飛び込むことを意図していたと語った。

「人々はインターネット上でAIスロップを目にし、悲観的なニュースばかり見て退屈している」と、同氏は語ったうえで、番組は「人々を再びワクワクさせる何か」を提供できるだろうと付け加えた。

広告主は「カルチャーそのもの」になる



すでに共同ブランドのテレビCMを多用してきた保険会社のステート・ファームは、Netflixと組み、自社のブランドマスコットである「ジェイク・フロム・ステート・ファーム(Jake from State Farm)」がバスケットボールを題材にしたドラマ「ランニング・ポイント(Running Point)」にカメオ出演するための交渉を進めてきた。

ステート・ファームのマーケティング責任者アリソン・グリフィン氏にとって、番組は「われわれが現実の生活で実際に身を置いている領域の交差点、つまりスポーツカルチャー、バスケットボール、エンターテイメントが交わる場所」にある。

ゆえに、ブランドマスコットの像を「単に番組を邪魔するマスコットではない、仲の良い隣人であることの意味を体現する存在」として強化する機会だと、同氏は語った。

「ランニング・ポイント」の主演を務めるケイト・ハドソンも、レディット(Reddit)、Netflix、ピーコック(Peacock)、YouTubeで放映される広告に出演している。

広告主たちは、ニッチなスポーツやエクストリームスポーツであっても、規模が大きくエンゲージメントの高いオーディエンスにリーチする手段になりうることを理解している。

そしてマーケターたちは、リーグやクラブの単なるスポンサーではなく、自分たちが主役を担うクリエイティブ・アウトプットが、視聴者と結びつくチャンスを大きくすると考えている。

「彼らはカルチャーに入り込もうとしているわけではない。彼ら自身がカルチャーなのだ」と、インディペンデント系クリエイティブエージェンシー、ディス・ウィル・ビー・グッド(This Will Be Good)の共同創業者ベニー・リード氏は語った。

高額なスポンサー契約に頼らずファンダムへ入り込む



広告主がブランド認知を高めたり、消費者ロイヤルティを強化したりする手段としてブランデッドコンテンツを活用しようと試みるのは、これが初めてではない。だが最近、こうした投資が増加している。

たとえばギャップ(Gap)は最近、チーフ・エンターテイメント・オフィサーを採用した。また、ハヴァス(Havas)は3月、ドイツの「カルチュラルマーケティング」企業のスタイルヘッズ(Styleheads)を買収した。

オグルヴィ(Ogilvy)のストラテジー・ディレクターであるスティーブン・メイコック氏によると、ソーシャルプラットフォーム上での消費習慣の変化と、アルゴリズム主導のフィードへの段階的な移行が、マーケターのあいだで再考を促している。

「ソーシャル上でブランドにとっての新しい遊び場が生まれている。だからわれわれは、提供するものについて本当に想像力豊かに取り組める」と、メイコック氏は語った。

WPPがGoogleのために設立したオーダーメイドユニットであるメディア・フューチャーズ・グループ(Media Futures Group)は、最近、Googleピクセル(Google Pixel)向けに、イングランドの主要サッカークラブにおけるファン体験の内側へ視聴者を誘うドキュメンタリーシリーズを撮影した。

Googleとステート・ファームはどちらもいくつかのスポーツリーグやチームのスポンサーでもあるが、スモール・ワールドの共同創業者ダン・サルキー氏は、ブランデッドコンテンツの取り組みは、ジャージーディール(ユニフォームスポンサー契約)に典型的な高額な費用を伴うことなく、ブランドがスポーツファン層にアプローチできる手段になり得ると主張した。

「必ずしも何百万ポンドもかけてチームをスポンサーしなければならない意味ではない」と彼は述べた。

「エンターテイメントを最優先にした方法でスポーツを活性化できる。これは従来のスポーツスポンサーシップとはまったく異なるものだ」。

成功指標は再生回数と「ブランド構築への信念」



こうした手法は、性質上、パフォーマンス志向のチャネルとは比較しにくい。レヴァイン氏は、フォードは「オフ・コース」の成功をソーシャルプラットフォーム上のインプレッションと再生回数で測定する見込みだと語った。

「成功のカギは、主に動画で一定の注目を集めることだ」と、同氏は述べた。

グリフィン氏は、ブランデッドコンテンツや番組内露出は、広告主のターゲットオーディエンスのより広い層にリーチできる可能性があると主張した。

たとえば、ストリーミングプラットフォーム上の有料広告では、より高い料金プランに登録している層には届かないと、同氏は語った。

「スポット枠への支払いがまだ続いているかどうかにかかわらず、自社ブランドが番組内に登場し続けること自体が、私にとっては極めて価値が高い」。

こうしたコンテンツが最終的にソーシャルプラットフォーム上で配信されるとしても、TikTokやメタ(Meta)系アプリ上の有料広告枠のパフォーマンスと比較するべきではないと、リード氏は主張した。「大規模なブランド構築の世界を信じなければならない」と、同氏は述べた。

フォードのオフロードゴルフ番組を手がけたクルーも、同様の主張をしている。

「最終的なゴールがブロンコを売ることなのは、もちろん理解している。だが、自分にとっての最高の一日の終わりとは、自分自身が楽しみ、ほかの人にも楽しんでもらい、刺激的な体験を作り出すことなんだ」とギッティンJr.は語った。

[原文:Ford, Nissan and State Farm are embedding their brands in sports as they chase fandoms]

Sam Bradley(翻訳、編集:藏西隆介)