【インタビュー】半自伝的小説『裸の女王』で過去を明かした桜樹ルイの小説で描かれなかった“その後”
銀座のクラブに“降臨”
開店前の銀座のクラブで、その赤いロングドレスに身を包んだ女性は待っていた。往年と変わらない大きな愛らしい瞳をした彼女は、ちょっとハスキーな声で、「桜樹ルイです。よろしくお願いします!」と丁寧に名乗ったのだった。そう、’90年代前半に多くの男たちの憧れであった、あの“桜樹ルイ”だ──。
念のため説明すると、“桜樹ルイ”はアダルトビデオの黄金時代に、そのアイドル的なルックスで業界を席捲した。レンタルやストリーミングではなく、セルビデオという形態も一般的で「1000本売れればヒット作」と言われた当時、コンスタントに8000本〜1万本売れるというモンスター女優だった。当時数多あったAV情報誌のランキングでも1位を独占、学園祭の女王にもなるなど、まさにレジェンドと言うべき存在なのだ。
現在の桜樹は、銀座にあるこれまたAV界のレジェンド・小林ひとみがママを務める『クラブりぼん』に所属。往時のファンを含め訪れる客を楽しませているのだが、そんな彼女が、3月に『裸の女王』(双葉社)を上梓した。
同書は、桜樹自らの経験をもとに書いたという半自伝的な小説だ。「事実と脚色が半々くらいですかね」(桜樹)とのことだが、その中には村西とおる監督を描いてNetflixで話題になった『全裸監督』シリーズ(’19年、’21年)の世界ど真ん中のエピソードも詰め込まれている。桜樹は、村西監督のダイヤモンド映像でも実際に活動していたのだから当然といえば当然だ。
だが、映像や写真とは異なる文章という表現方法は、“桜樹ルイ”としては新たなもの。そこには大変なこともあったのではないだろうか。
「書き始めたきっかけは、お声掛けを頂いたから……なんですが、もともとストーリーを考えるのは好きでしたし、ちょっとチャレンジしてみようって。実家に帰ってアルバムを見返したり、忘れていることを思い出してメモにしたりしました。それを選ぶのが大変で、本に盛り込めなかったこともたくさんあります」(桜樹、以下同)
“空白の二十数年”何をしていたのか
本書では、歌手を目指していた主人公が半ばダマされるようにヌードにさせられ、さらにそのイメージビデオを知らないうちに発売されてしまう。だが、そこで覚悟を決め、AV女優として活動を開始して一世を風靡する。一時期は音楽活動やストリップの舞台でも活躍したが、’00年ごろに完全に引退し、表舞台から姿を消すまでを描いている。
小説では書かれなかった引退後の桜樹のリアルな半生について聞いてみた。引退の理由は何だったのか? そして、そこから再登場するまでの二十数年間には一体何があったのだろうか。
「ストリップの劇場で、人前に出て照明を浴び、拍手をもらって踊るのも好きでしたし、まだビデオも出せたと思うんですが、ドンドン自分がメインではなくなってくる……。このまま続けていいのかな……って。売れなくなってから辞めるのはイヤだった。“陰っていく桜樹ルイ”を見せたくなかったんです。
だから、もう“桜樹ルイ”ではない自分の人生を歩めばいいと思って。でも、辞めてすぐには、ストリップで踊ってる夢を見ましたね。やっぱり好きだったんです。本当に辞めてよかったのか、悩んだりもしました」
眩しすぎるほど華やかな世界から一転して、普通の暮らしができたのだろうか。
「みんなからも『暮らしていけるの?』って言われましたけど、全然普通に暮らせましたよ! もともとブランド物を買い漁っていたわけでもなく、裕福な家に生まれたわけでもなかったので、私自身は食事ができるだけで十分なくらいで。忙しかった生活から、急に時間ができてしまったのには困りましたが。
仕事は農家で働いたり、スーパーのレジ打ちをしたり、派遣社員をしたり。介護の資格をとったりもしていました。街中では時折顔バレしましたが、農作業で山に入ってミカンとかキウイとかを収穫していると、人とも会いませんし、徐々に気づかれることもなくなりました。それこそスッピンで、扇風機が内蔵されてる作業用のベストを着ていました。トイレもないからその辺で……(笑)」
自身が現役を退いても、雑誌メディアなどでの「’90年代の人気AV女優ランキング」といった企画では、現在でも“桜樹ルイ”の名前は必ず挙げられる。「ああ、そんな人いたね」というレベルの話ではないのだ。そんな彼女の消息があまりにも謎だったゆえに、あらぬ勘繰りまで引き起こす事態となった。
Xで「なりすまし」扱い
「『桜樹ルイ、死亡説』とか『桜樹ルイが薬物で捕まった!』とか、いろいろなことを言われました(笑)」
現在は寛解状態にあるものの、’08年から長く難病・潰瘍性大腸炎を患っていたともいう。そんな桜樹は’23年、突如Xにて自身のアカウントを立ち上げ、二十数年ぶりに長い沈黙を破ったのだった。
「『私は元気に生きているし、クスリだって風邪薬ぐらいしか飲まないのに』って言いたかった。また、私のことを知っている方たちとなんだか交流したくなったんです。また表舞台に出ようなんて気はまったくなくて、単にSNS上でやり取りをしたかっただけの理由です。逆に昔の業界の人間とは会いたくない。だって『あの頃と比べて……』とか思われるのはイヤじゃないですか(笑)」
しかし、X上で顔出しもした桜樹を待ち構えていたのは、“なりすまし説”だったという。
「最初は本人だと信じてもらえなかったんですよ。20代と50代の私とでは確かに違うけど、やっぱりショックでした。悔しいから、今の写真と昔の写真を並べて『ホクロの位置が同じ』などと、自ら証明しました(笑)。そうしたら、フォロワーも増えてきちゃって」
ホンモノだということが明らかになると、さすがの桜樹ルイだ。世間が放ってはおかなかった。’24年には『週刊大衆』誌上でグラビアに、翌年には写真集も発売した。一旦離れた世界だったはずなのに、再チャレンジするのに葛藤はなかったのだろうか。
「『私の写真集、売れると思いますか? 売れないんじゃないですか?』なんて、聞いちゃいましたよ(笑)。売れなかったら、申し訳ないじゃないですか。でも、『大丈夫!』って、言ってくださったので。ビデオもストリップも出るつもりはないですし、悩みましたけど、今の50代の私の姿を残せるっていうのも、いい記念かなってお受けしたんです」
それが今回の小説執筆にまでつながったのだった。
「最初はダマされて始めましたが、自分で決断して続けたアダルトの世界ですから後悔はないです。引退の時期もよかったと思います。“輝いていた桜樹ルイ”のまま辞めたからこそ、名前が残っていて、今回、小説まで書かせてもらえることになったんだと思いますから」
AV業界では、“強制出演”などの問題もあり、AV新法も作られたが、それはメーカーの衰退にもつながっている。現在の業界の状況について、トップAV女優だった桜樹はどう思うのか。
「ちょっと規制が厳しいかなって思います。全員が全員ダマされて出ているのではなく、どうしても出演したくて出ている子もいます。そんな子まで困ってしまうのは違うんじゃないのかなって」
と、かつて身を置いた世界への愛が顔を覗かせる。そしてこうも言うのだ。
「撮影現場では、みんな職人気質のプロ。この本は、男女関係なく読んでもらいたいですが、それでAVの世界が決して悪いものではないというのを感じてもらえればいいなと思います」
