「暴力団をつぶすため」なら何をしても許されるのか?工藤會の殲滅を狙って福岡県警が発動した”超法規的運用”の実態
かつて20万人もの構成員を擁した暴力団。
覚せい剤の輸入や賭博、みかじめ料の徴収で莫大な収益を上げ、1980年代の年間収入は推計8兆円に達したと言われる。だが平成に入って以降、暴対法の制定や警察の行き過ぎた捜査、メディアによる批判的な報道が原因となり、暴力団は衰退の一途をたどってきた。
では、暴力団が社会から消えていくことは、我々一般国民にとって「良いこと」だけなのだろうか?しばし「必要悪」として語られてきた“やくざ”の実態を、『やくざは本当に「必要悪」だったのか』より一部抜粋・再編集してお届けする。
【前編を読む】警察が唯一「特定危険指定暴力団」に指定した工藤會の“市民を巻き込んだ暴力”による北九州支配の歴史
組織的犯行と女性殺傷事件
北九州市を仕切る工藤會の総裁・野村悟、同会長・田上不美夫両容疑者が2013年、看護師の女性が刺された事件に組織的に関与した疑い(組織犯罪処罰法違反)で福岡県警により翌年10月、再逮捕された。
他にナンバースリーで理事長の菊地敬吾容疑者ら14人も新たに逮捕。福岡県警はこの事件で工藤會を丸ごと壊滅する意気込みを示している。
暴力団潰しは結構なことだ。大いにやるべしと声援を送りたいところだが、但し暴力団を相手取るとはいえ、最低限、法の適切な解釈と運用が求められる。警察が暴力団の試し切りで味をしめ、いい加減な超法規的運用を他分野にまで及ぼされては一般国民が迷惑する。
2013年1月の看護師刺傷事件は当初、通り魔による切り付け事件か、ぐらいに思われていた。
報道によれば、事件の数日前、電車で帰宅中の看護師を工藤會系組員が尾行する様子がJR博多駅と小倉駅、両駅の防犯カメラに映っていた。また事件当日には別の組員ら数人が、北九州市から事件現場近くに車で移動する様子が周辺の防犯カメラやNシステムの記録から判明した。
野村容疑者はこの看護師が勤めるクリニックに通院、治療を受けていたが、患部の治療経過がよくなく、クリニックに抗議し、適切な対応を求めていたが、その際の看護師の応対が悪く、トラブルになっていたという。
また福岡県警は別の事件で工藤會組員の携帯電話を傍受していたが、傍受内容に看護師刺傷事件に関わる報酬の支払いについての会話が含まれていた。
一般国民が迷惑する超法規的運用
にわかには信じがたい話である。そうでなくても最初に両容疑者を逮捕した事件は16年前に発生、すでに工藤會組員が服役している事件のほじくり返しだった。当時(02年)、県警は田上も逮捕したが、処分保留で釈放、不起訴処分としていた。事件そのものも判決が確定しているのだから、「一事不再理」の点で疑問が出る。
加えて法制審議会は2014年9月、司法取引の導入や通信傍受の対象拡大などを内容とする刑事司法の改革案を法相に答申した。暴力団捜査からますます人権保障の視点が消滅する雲行きになった。
福岡県警はまた北九州市を牛耳る工藤會の総裁・野村悟を所得税法違反容疑で逮捕した。
工藤會も他の暴力団と同様、傘下組員から月々(組の運営)会費を取っている。この会費は暴力団側の説明によれば、組事務所の賃借料や慶弔交際費、水道光熱費、電話代など、組の運営や交際に使われるという。
要するに同好会や趣味の会、ファン・クラブなどと同じく法人格を持たない任意団体の、収益を目的としない会費収入だから、当然課税対象になるはずがないという立場なのだ。
だが、警察庁は長らくこの月会費を「上納金」と呼びならわしてきた。「月会費の全額とは言わない。その一部が組織のトップに渡って、トップの所得になっているはず」と疑惑視してきた。が、とはいえ課税は今回の工藤會が初めてになる。会費のどの程度がトップに渡っているか、定量できなかったからだ。
上納金と所得税
警察庁の見方には多少とも妥当性があった。たとえば山口組の直系組長たちはおおよそ月100万円の会費を各自納めている。現在でこそ直系組長数は70人ほどだが、最盛期には120人からの直系組長がいた。
つまり山口組本家には100万円×120人で月額およそ1億2000万円の収入があった。年にすれば約14億円である。「14億円ものカネが組の運営だけに消えるはずがない。絶対、その中の大きな部分がトップの司忍組長に渡っているはず」という観測が行われてきたのだ。
が、暴力団にしっくり来る「上納金」とは、たとえば直系組長などがヤミ金の経営などで巨額を稼ぎ、上の者にお上手すれば、自分も若頭補佐になれるかもしれないといった思惑から上に運ぶカネを指す。暴力団はこの手のカネを「上納金」といってきたが、今やシノギの疲弊から月会費の一部もまた含めるべきかもしれない。
工藤會では月に約2000万円の会費が集められ、その4分の1、約500万円が野村総裁側に渡されていたという(年額では6000万円)。2013年までの4年間に2億2000万円が渡り、およそ8800万円を脱税したとして逮捕になったわけだが、工藤會は経理がしっかりしていることで知られる。
なまじ丼勘定を嫌ったかどで警察に経理の詳細を掴まれたが、今後、この「上納金」摘発方式は他の暴力団に及ぶかもしれない。同時に民間の任意団体に対する税務調査も厳格化する可能性もあろう。
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