韓国の若者にとって海外経験は熾烈な競争社会を生き抜くための「必須スペック」になっていた
推しのはずのBTSライブで日本人が少なかった理由
去る3月21日夜、ソウルの光化門(クァンファムン)広場は、BTSのカムバック・ライブが放つ熱気に包まれた。兵役を終えたメンバーたちが完全体として戻ってきた今回のステージは、全世界の音楽市場の視線が集中した象徴的な出来事であった。ソウル市のビッグデータ分析によると、この日現場には計7万5000人余りの群衆が詰めかけ、そのうち外国人観客は25%に当たる1万9000人余りと集計された。
国籍別に見ると、タイ、ベトナム、インドのファンがトップ3を占め、日本から来たファンは1098人で4位であった。日本は単一国家としては韓国に次ぐ世界最大のK-POP消費市場であり、日本版ベストアルバムが累計100万枚以上のセールス(ミリオンセラー)を記録するほど、強力なBTSファンダムが実在する場所だ。昨今、韓国では日本への「日帰り旅行」が流行するほど地理的な近接性も高い。それらを考慮すれば、この日の現場における日本人客の比率は、私の予想をはるかに下回るものであった。
しかし、その数字をじっと見つめているうちに、私はふとある統計を思い出した。日本人のパスポート保有率が約17%前後であり、先進国の中で最低水準であるという事実だ。5人中4人は国境の外へ出る「物理的な準備」すらできていないことになる。もちろん、日本国内での別途公演の予定や現地ファンの観覧スタイルの違い、告知期間など、諸々の変数があるだろう。だが、世界的にも低いパスポート保有率が、光化門広場に日本人が集まらなかった一因になっているのではないだろうか。
日本人をはるかに上まわる韓国人のパスポート保有率
一般に、日本人のパスポート保有率が低い背景には、日本社会全般に漂う「内向化」現象があるという分析がある。充実した国内インフラと安全を好む日本人の情緒が、海外旅行の煩わしさや治安への懸念と結びつき、日本人の視線を国内旅行に留まらせているというのだ。ここに記録的な円安と数十年も足踏み状態の賃金体系が決定打となった。経済的負担が重くのしかかる中、今や日本人にとってパスポートは、高額な発行手数料がかかるだけの「使い道のないライセンス」に思われているのかもしれない。
一方、韓国は行政安全部の統計基準で、国民の60〜70%がパスポートを保有している。韓国人が自由な海外旅行の門を開き始めたのは、1989年の海外旅行全面自由化以降のことだ。90年代初頭まで、韓国人のパスポート保有率は5%未満に過ぎず、パスポートを発行するためには国が実施する「素養教育」を必ず履修しなければならなかった。当時、海外で韓国人観光客のマナー違反が相次ぎ「アグリー・コリアン」という言葉が流行したため、国が観光マナーを注入するために作った苦肉の策であった。
それからわずか30余年が流れた今、韓国人のパスポート保有率は米国の50%をはるかに超え、国家間の往来が頻繁な欧州諸国とも肩を並べるほど急騰した。かつて「教育」が必要だった初心者旅行国から、今や世界を最も活発に渡り歩く「現代版遊牧民」の国へと変貌したのである。
大学入試、就職の「スペック」としての海外体験
韓国人のパスポート保有率がこれほどまでに急上昇した背景には、必ずしも飛躍的な経済成長だけがあるわけではない。韓国人にとって海外旅行は、単なる「遊覧」を超え、就職や自己啓発の証しとして、熾烈な競争社会を生き抜くために不可欠な「スペック」の一つとなったからだ。
「スペック」とは、学歴、成績、資格、経験など、競争において自身の価値を証明するあらゆる条件を指す韓国式の新造語である。そして、このスペックのリストにおいて「海外語学研修」や「海外ボランティア活動」は、数十年にわたり不動の地位を占めている。
驚くべきは、この競争が大学入試や就職準備の段階から始まるわけではないという点だ。韓国では2000年代初頭を起点に、小学生の子どもを英語圏の国へ短期研修に送るブームが本格化した。富裕層は英国や米国へ、費用面を考慮する家庭は英語が通じつつ物価の安いマレーシアやフィリピンなどの東南アジアへと子どもを送ることが一つの流行となった。親の一人が子どもに同伴して海外に居住し、もう一人が国内に残って生活費を稼ぐ、いわゆる「キロギアッパ(雁の父親)」現象が社会問題として注目されるほどであった。
政府は後手ながら済州(チェジュ)英語教育都市や国際学校の設立を通じて、海外へ向かう教育需要を国内で吸収しようとしたが、根本的な流れを食い止めるには力不足であった。
地獄の「アフリカ・ボランティア体験」10日間
大学入試の舞台においても、海外経験は重要な変数として作用する。2015年頃から、教科成績だけでなく体験活動や特記事項まで総合的に評価する「学生部総合選考(学総)」の比重が急速に増えたことで、海外ボランティア活動は子どもの「グローバル力」を証明するカードとして保護者の間で脚光を浴びた。
1997年生まれの私の親戚の子も、いわゆる学総世代だ。その子は高校1年生の時、ボランティア活動の点数を確保するために夏休みを利用してアフリカへ約10日間の海外ボランティア旅行に出かけた。目的地が遠く、期間が長いほど、よりいい点数を認められるという理由で、あえてアフリカを選んだのである。旅行会社のようにプログラムを企画し学生を募集する専門業者を通じ、引率者と共に韓国を離れた。
しかし、後日その子から聞いた話は苦いものであった。食べ物はどうしても口に合わず、言葉も通じないため現地の人とのまともな交流は最初から不可能に近かったという。「ボランティア」という名の下、暑く見知らぬ土地で漠然と耐え忍ばなければならなかったその10日間は、その子にとって「思い出したくない瞬間」として残ったのだ。
9大スペック
海外で積み上げた経験は、就職市場においても強力な武器となる。韓国の就職準備生の間には、出身大学、成績、資格、語学スコア、海外研修経験、インターン経歴、公募展入賞といった、いわゆる「7大スペック」がある。最近ではこれに整形などの外見管理や社会貢献経験まで加わり、「9大スペック」に増えたという話も聞こえてくる。入試に続き、就職においても海外経験は欠かせない条件として定着しているのである。
大学入試と就職という二つの関門を辛うじて通過すると、今度はSNSという別の競争の場が待っている。韓国の若年層にとって海外旅行は、日常の句読点(休息)ではなく、他人の「いいね」を得るための最も強力なコンテンツであり、自身のライフスタイルを証明しなければならない「もう一つの履歴書」となった。
競争の舞台が入試から就職へ、就職から日常へと果てしなく拡張し続ける「超競争社会」を生きる韓国の若者たちにとって、パスポートは生き残るための必須の武器であるといえるだろう。
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