秋田で活躍するプロチーム、マタギスナイパーズ(写真提供:マタギスナイパーズ)

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いまや世界大会も開かれるなど、競技として確立されているeスポーツ。最近ではシニアのフレイル予防効果も期待されているという。eスポーツはシニアが楽しめるものなのか?実際に現場を取材し、その魅力に迫る

【写真】公民館で「太鼓の達人」を楽しむシニアのeスポーツ同好会の皆さん

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<前編よりつづく>

高齢化率、全国1位

こうしたシニアの集まりがほかにもあるかと探すと、なんとプロチームが秋田にあるという。ゲームが好きな若者に聞くと、「マタギスナイパーズでしょ、有名だよ」とのこと。いったいどんな人たちなのだろうか。

ユーチューブの公式チャンネルには、スポンサー名の入った揃いの黒いTシャツを身につけた男女が、パソコンを操作して戦う動画が上がっていた。『VALORANT(ヴァロラント)』というシューティングゲームで、5人対5人のチーム戦だ。

各自、選んだキャラクターの目線でゲームが進むので、全体の状況を把握するだけでも至難の業。さらに仲間と通話しながら戦略を練るというのだから――これをプロとして戦うシニアがいるというだけでかなりの驚きだ。

チームを作ったのは、秋田県に本社を置くIT企業のエスツー。「もともと社長がeスポーツに興味があり、2020年にまず若年層チームを設立しました」と同社のeスポーツ担当・土門悠さん。

ITの技術を使って地元を活性化したいという思いがあった同社では、高齢化率全国1位という秋田で「シニア限定のプロチームがあったら、インパクトがあって面白いのではと思いました」。

チーム名は、秋田で熊などを狩猟する「マタギ」とシューティングゲームの「スナイパー(狙撃手)」から命名。21年に選手を一般から募集すると、予想をはるかに超える30〜40件の問い合わせがあったそうだ。

メンバーの一人であるNAGI(ナギ)さんは、当時62歳。「募集要項には『65歳以上』とありましたが、あまりにも興味がありすぎて(笑)、『説明会だけでも』と連絡して、そのままジュニアメンバー(訓練生)として参加させてもらいました」と語る。

子育てが一段落し、秋田出身の夫が定年後に帰郷するのにともない、自身もパートの仕事を辞めて移住したばかり。趣味の編み物などを楽しんでいたが、コミュニティは少なかったという。マタギスナイパーズのことは、「夫がニュースで知って、ゲーム好きの私に勧めてくれました」。

スーパーファミコンは発売当時から家族で楽しみ、折々に流行ったゲームを攻略してきたNAGIさん。パソコンを使った対戦ゲームは初めてで不安もあったが、「とにかくチャレンジあるのみと必死に特訓をして」、現在ではトップチームのメンバーとして活躍中だ。

同じくトップチームのCaitSith(ケット・シー)さんは、現在74歳。子育てをしながら自宅で行政書士の仕事を続けていたが、母親の介護もあって故郷の秋田に夫と移住。そんなある日、NAGIさんたち1期生が練習に励む風景をローカルニュースで知ったという。

20代の頃からマイクロコンピュータでゲームを自作したり、インベーダーゲームが店頭に置かれた当初から通い詰めたり、ロールプレイングゲームに夢中になったりと、「ゲームにハマり続けた人生でした」。その年の応募は締め切られていたため、「SNSをフォローして次回の応募を今か今かと待って」、翌年度に晴れてチームの一員となった。


左からNAGIさん(66歳)、CaitSithさん(74歳)。チームのコンセプトは「孫にも一目置かれる存在」(写真提供:マタギスナイパーズ)

会話が刺激に

ゲーム好きで経験も豊富な2人にとっても、eスポーツとしてのシューティングゲームは、「楽しむというより、ちゃんと練習しないと上達しない。まさにスポーツだと痛感しています」(CaitSithさん)。

「私たちが日々戦う相手チームは、10代から20代前半の若者が中心なので瞬発力があるし、キャラクターの操作も上手。リタイア組の私たちは時間的にはたくさん練習しているつもりでも、まだまだ足りないなって思いますね」。(NAGIさん)

練習や対戦は、ゲーム用の高性能なパソコンを各人の自宅に置いて、オンラインで実施。チーム練習は、月曜〜金曜の午後1時〜5時までだが、メンバーは空き時間を正確に射撃をコントロールする練習や、ゲーム内の地図の下見といった準備に費やす。

「一日中座りっぱなしなので、ジムに通ったり、家事の合間に体を動かしたりと体調管理も大変です」とNAGIさんはプロならではの苦労を明かす。

その甲斐あって、チーム成績は徐々に上がってきた。最近の対戦では、格上のチームに勝利できたのが嬉しかったという。

チームの監督からはつねづね、「瞬発力や体力では若者に負けても、そのぶん頭脳戦で補える」とアドバイスされている。たとえば敵の位置や相手の弱点をチームの仲間に伝え、攻撃の戦略を提案する。そこに必要な語彙力、コミュニケーション能力は、人生経験のあるシニアのほうが確かに長けていそうだ。

「バーチャルな世界とはいえ、誰かと話す機会があるのはありがたいですよ。家族とは最小限の言葉でも通じてしまうけれど(笑)、チームの仲間にはちゃんと通じるように緊張感を持って話すから、それも脳へのいい刺激になると思う」(CaitSithさん)。

「私ももしチームに入っていなければ、もう一つの趣味の編み物を黙々とやっていたか、テレビを見るばかりの毎日になっていたはず」(NAGIさん)。その意味で2人とも、eスポーツは脳の老化防止に役立っていると感じるという。

「私たちみたいな『隠れゲーマー』って、実は世の中にいっぱいいると思うんです。身近にはいなくても、オンラインの世界に趣味や考えの合う友だちが見つかるかもしれませんよ」と2人は背中を押してくれた。

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集まりに参加するために外出の機会が増える。ゲームを楽しむことで心拍数の上昇やストレス軽減につながる。そうしたeスポーツの効能のほかに、取材を通して何より私が実感したのは「コミュニケーションの広がり」だった。

ゆるやかで心地いいつながりが感じられたシニアのeスポーツ。チャンスがあれば自分もという思いを強くした。