新社長 CEOに就任する河村哲治氏と、副会長に就く沖津雅浩氏

シャープの社長 CEOに、2026年4月1日付で就任する河村哲治氏(専務執行役員 CBDO= Chief Business Development Officer)が、大阪市内の同社本社で会見を行い、「私には、欧米を中心とした25年の海外経験などで得た知見がある。これを注ぎ込み、シャープを新たな成長のステージに導けるように、全力で取り組んでいく」と抱負を述べた。

具体的な方向性として、「再成長の実現」と「発信力の強化」を通じて、企業価値の最大化を図る考えを示した。

「再成長の実現」では、新規事業の早期具体化や、SHARPブランドのグローバルでの拡大、鴻海のリソースの貪欲な活用をあげる一方、「発信力の強化」では、社長CEO直下に、IRやPRなどの対外発信機能を置き、「あらゆる機会を捉え、経営陣が会社の方向性や取り組み状況、成果を積極的に発信する。社長が先頭に立ち、一貫性を持った形で、対外発信を行う」と述べた。

さらに、「私は12代目の社長となるが、世代が変わっても変えてはいけないことがある。創業者である早川徳次氏の『他社がまねするような商品をつくれ』という姿勢や、経営信条、経営理念は、シャープのDNAである。これを引き継ぐ。『シャープらしさ』を先頭に立って体現していく」と述べた。

河村哲治氏

河村新社長は豊富な海外経験、愛称は「テッド」

河村氏は、1961年11月10日生まれ、大阪市出身の64歳。河村氏自身は、これまでメディアに登場することはあまりなく、「多くの人が『あなた誰?』と思っているのではないか。隠れていたわけではない。海外で様々なことに取り組んできた」と切り出し、会見の場を和ませた。

河村新社長の主な経歴

大阪外国語大学(現大阪大学)卒業後、1984年4月にシャープに入社し、海外事業本部事務機営業部に配属。それ以来、海外におけるBtoB事業に長年関わってきた。「社歴の約3分の2にあたる25年間を海外で過ごした。シャープは、米国ニュージャージーに販売会社を持つが、3回にわけて19年間駐在した。また、ドイツ・ハンブルクで1年、英国ロンドンで5年間の駐在経験がある」という。

海外では、テッド(Ted)のニックネームで呼ばれている。

2006年からは、米国における事務機の直販網の構築とともに、複写機ディーラーの買収戦略を推進。これを専任のバイスプレジデントとして関わり、買収先の選定、買収価格の決定、交渉、PMI(Post Merger Integration)、統合や運用など、M&Aに関するすべてのプロセスに関与。約2年間で、全米15カ所に直販拠点を開設したという。また、2011年からは、欧州で直販網の構築にも取り組み、数億円から数10億円規模の案件を中心に、約30件の買収を行ってきたという。

「複写機はリカーリングビジネスであり、直販による販売体制は、いまでも安定した収益基盤として業績に貢献している。ディスプレイやPC、ITサービスとの組み合わせによる多角化を進めており、これを先進事例として、ディーラーに示す役割も果たしている」と述べた。

2014年10月には、欧州マーケティング統轄兼Sharp Electronics Europe(SEE)社長に就任。2016年9月には欧州代表兼SEE社長、2017年8月に米州代表兼Sharp Electronics Corporation(SEC)会長に就任した。SECは、米国における総合販社であり、BtoBだけでなく、BtoCの商材、デバイスなども担当。雇用や資金繰りといった経営にも携わる経験をしている。

2021年10月に帰国し、デジタルイメージングソリューション事業本部長に就任。業務用ディスプレイを担当した。2022年4月には、BtoB事業を広くカバーするスマートビジネスソリューション事業本部長を経て、2022年9月に執行役員に就任した。

「これまでは主に販売を担当してきたが、調達、開発、生産の領域を、全世界レベルで事業責任を負うことになった」と振り返る。

2023年7月に、スマートビジネスソリューション事業本部長 執行役員 スマートオフィス事業担当兼スマートビジネスソリューション事業本部長に就任し、2024年6月に常務執行役員 スマートオフィスビジネスグループ長兼スマートビジネスソリューション事業本部長に就いた。2024年度実績では、シャープの4つのビジネスグループのうち、スマートオフィスビジネスグループが、最大の売上、利益を計上し、シャープの業績回復を牽引したという。「直近では、BtoB事業の中心がDynabookとなり、国内法人向けPC市場において約20%のシェアを獲得した。搬送系ロボットにも取り組んでおり、フィジカルAIにおける事業拡大も進める」とした。

2025年4月からは、専務執行役員 CBDOに就任し、新規事業の開発をリード。鴻海とのパートナーシップで進めているEVやAIサーバーの事業化なども担当している。

就任打診、「なぜ私に?」 担う役割

「社長就任の打診があったときには驚き、『なぜ私に?』と、沖津氏に質問した。企業にはステージがあり、それに求められるトップのバックグランドや知見が変わってくると言われ、そこに私が貢献する余地があると考えた。それを聞いて腹を括った」という。

新社長としての役割について、「私のミッションは、シャープを、新たな成長のステージに乗せることである。シャープの企業価値の最大化のために、『再成長の実現』と『発信力の強化』の2点に取り組む」とした。

だが、成長については、「経営理念には、『いたずらに規模のみを追わず』と書かれている。再成長は、トップラインの伸びではなく、よりよい表現は、事業変革である。付加価値を出せる事業を増やしていく。しかし、それは脱ハードウェアのようなステレオタイプの考えではない。たとえば、テレビは課題事業だが、受像機としての利用だけでなく、リビングのなかに置かれている大きな表示装置という価値を生かすことができると考えている。ソリューションの提供によって、事業変革を進めていく」と述べた。

一日も早く、シャープを次のステージへ進ませるという役割を担う

また、再成長においては、シャープの親会社である鴻海との関係を強化する考えも強調した。

「鴻海は、世界の電子機器製造の4割以上を占める40兆円企業であれ、文句のいいようがないほど、できうるサポートをしてもらっている。だが、シャープの重たい荷物を担いでもらうという一方的な関係であってはいけない。お互いに持っているアセット、リソースを生かし、シナジーを生かしていく。シャープが持つ強みは、鴻海グループのなかで、最も認知されているブランドを持っていること、全世界に販売ネットワークおよびサービスネットワークを持っている点である。鴻海が持つバリューチェーンの川上の強みを生かし、シャープは出口(GTM)戦略で貢献する。鴻海の新規事業の実装においても、シャープのブランド力を使ってもらいたい」とした。

また、「鴻海の劉揚偉会長は、シャープのCxOを、シャープ生え抜きで構成する体制とし、日本にも頻繁に足を運んで対話をしてくれている。社長就任が内定して以降も、海外から、頻繁に連絡があり、私のことを気にしてくれている。シャープを助けたいという気持ちも強い。だが、それは、ああしろ、こうしろという内容ではなく、シャープという会社をどうしたいのかを聞かせてほしいという内容だ。鴻海との連携をもっと強化し、新規事業を強化したいとの私の提案には賛同してもらい、困ったことがあればなんでも言ってほしいとも言われている。今日も、台湾時間の午前4時に連絡があり、社長就任会見について、『Take it easy. Everything will be alright.』というメッセージがあった」とのエピソードを披露した。

グローバル戦略については、「私の経歴を生かせるエリア。まだまだ海外は伸ばす余地がある」とした。

再成長においては、シャープの親会社である鴻海との関係を強化する考えも強調

現在、シャープの海外売上比率は約6割。河村氏が担当してきたスマートビジネスソリューション事業では、約7割を占めているという。「地域によって主力商品が異なり、事業基盤が異なる。欧米では、複合機だけでなく、ディスプレイやPC、ITサービスといったBtoBが強いが、家電はASEANで強い」とし、「ここに、私の海外での経験、国内外で構築したコミュニケーション力、信頼関係構築力を生かしたい。さらに、鴻海の強みを生かしていく。鴻海ではAIサーバーを中心としたクラウドネットワーク事業が全体の4割を占め、鴻海全体の業績を牽引している。これらの実績をもとにして鴻海が持つグローバル大手企業とのネットワークも生かしたい」とした。

鴻海との連携では、家電の普及率が低いインドでの事業展開の強化にもつながると期待しており、「鴻海は、インドに積極的に投資をしている。インド政府との直接的なつながり、大手企業とのつながりもある。シャープの副会長であるロバート・ウー氏は、鴻海のインド代表を兼務している。シャープもインドを中心とした新興市場にアプローチしていく」と語った。

その一方で、「これまでBtoB事業に携わってきた私の経験から、今後、シャープはBtoBの会社になるのかという印象を持つかもしれないが、シャープにとって、一番の差別化ポイントは、一日中、お客様に寄り添っている点であり、家庭でのソリューションは大切である。BtoCを捨ててBtoBに特化するという考えは一切ない」としながらも、「だが、やり方は変えていく。たとえば、テレビの調達の仕方や、作り方は、工夫しながら、テレビの新たな用途を提案していく。白物家電も様々な使い方を提案していく。ネットにつながるAIoT家電は1000万台に達しているが、便利だなと思えるところまで至っていない。用途は無限大に広がる。AIエージェントが、オフィスでも、家庭でも、一日中寄り添ってアシストしてくれる世界に先駆けて取り組みたい」などとした。

「決断力」「実行力」「人間力」を重視

河村氏は、「決断力」、「実行力」、「人間力」の3つの力を重視することを心掛けてきたという。

「米国では、YesとNoをはっきりしないといけない。お客様との対話で、『持ち帰って検討します』と言えば、お客様は離れる。社員からの相談に対して『ちょっと考えておくわぁ』とばかり答えていたら、人はついてこない。Decisive(決断力)であることを心掛けてきた。また、決断したことはやらないといけない。私の口癖は、Let's make it happenであり、行動に移すことを大切にしてきた。また、人がついてくるような人間力が必要である。BtoB事業は、Human factorが大切だ。短期間で、取引先や従業員の信頼を勝ち得ることに努力してきた。これらの3つの力が大切であることを肝に銘じて、仕事に取り組んできた」という。

また、「創業者である早川徳次氏が語った『他社がまねするような商品をつくれ』という言葉の裏にあるのは、各社が切磋琢磨しながら、人々の暮らしを豊かにしていく精神である。そして、経営信条に示された『誠意と創意』のDNAを引き継いでいくことになる。また、シャープは、2025年9月に、新たなスローガンとして、『ひとの願いの、半歩先。』を発表した。脈々とつながるシャープのDNAや精神を反映したものであり、これを実現するために、『シャープらしさ』の実現を私が率先して体現していく」と語ったほか、「シャープは、オフィス、学校、現場、家庭において、一日中寄り添っているブランドである。こうしたブランドは少ない。成熟製品に依存していたり、それらの製品の一部が苦戦したりといったものもあるが、新たな希望といえる製品やサービスを、ステークホルダーに示していきたい。ハードウェアだけでなく、AIを応用した製品を提供することが大切である。ビックバンではなく、小さな成功を積み上げていきたい」と述べた。

創業のDNAを引き継ぎ、「ひとの願いの、半歩先。」へ

2026年4月1日からの組織体制についても言及。これを「私の想いを反映した組織体制」と位置づけ、新規事業に関しては、よりスピードをあげて成果を実現するために、河村氏自らが事業開発担当の統轄責任者を兼務する。本社主導により、将来の成長ドライバーとなる新規事業を具体化していく考えだ。また、鴻海では、劉会長の直下に、新事業を開発する中央BD(ビジネスディベロップメント)を設置しており、シャープの事業開発担当と緊密な連携も図るという。

「私自身、CBDOとしては、志半ばである。そこで、社長直轄で事業開発担当を設置し、CTOに就任する徳山満氏とともに、新規事業の加速に取り組む。AIサーバーやEVなどの事業化準備プロジェクトを推進していくほか、映像技術や通信技術を生かし、建築現場やインフラ管理、防災などに活用する現場DX、衛星通信アンテナのプロトタイプなど、実証実験を行っているものもある。だが、出口の前で渋滞している案件もあり、これらを早く事業化につなげていく」としたほか、「鴻海との関係は、これまでは生産受託としての付き合いだったが、シャープの方からもっと提案をしていく点での貪欲さが必要であり、そこには踏み込んでいく必要がある。私たちは、いまの鴻海の強みをもっと理解すべきである。鴻海の中央BDは、EV、AIデータセンターソリューション、半導体、ロボティクス、宇宙、次世代通信などに取り組んでいる。早い時期に台湾を訪れて、中央BDの各責任者と対話を行い、内容を深く理解した上で、お互いの新規事業の取り組みを加速するための協議に入りたい」とした。

鴻海では、日本国内でAIサーバーの生産を計画しており、これをシャープが国内で販売することを検討している。「日本のAIデータセンターでは、学習よりも、推論に計算資源を使いたいというニーズが強い。シャープブランドのAIサーバーとして、そこに力を入れる方向で議論をしている」としたほか、EVについては、「2026年度の早い時点で事業化の判断をする必要がある。日本では、EVの普及率が1%である。シャープがやるのはクルマを作ることではなく、1%のEV需要を喚起することでもない。クルマのなかの空間演出の提案である。身の丈にあった投資で、どれぐらいの期待値を持って事業を進めるのか。事業計画のシミュレーションにまで踏み込んだ検討を行っている」と語った。

また、徳山氏が就任するCTOの今後の役割については、技術戦略だけでなく、経営戦略との連携や、事業実装まで担当することを示し、「AIやDXが必須の要件になる。シャープの技術を掌握しながら、事業化も視野に入れることになる」とした。

CTOに就く徳山氏は、3月末まで、スマートビジネスソリューション事業本部長を務めており、シャープ製品として、AI応用の第1号製品と位置づける議事録作成支援ソリューション「eAssistant Minutes」の商品化を主導した実績を持つ。

シャープの新たな経営体制

沖津氏「一歩引くが、社長を支える立場として力尽くす」

一方、代表取締役副会長に就く沖津雅浩社長 CEOは、「2022年に代表取締役副社長に就任、2024年には代表取締役社長に就任した。この4年間、事業構造改革や新たな価値づくりに取り組み、企業価値の向上に向けて力を尽くすことができた。私が追求してきた、『シャープらしさ』の復活についても、かなり戻ってきた」と前置きし、「デバイス事業のアセットライト化に区切りをつける一方で、中期経営計画を策定して、ブランド事業への投資を拡大することで、ブランド価値の向上に努めてきた。2024年度に黒字化を達成し、2025年度業績も想定以上の進捗である。今後は、再成長に向けて大きく踏み出す段階に入る。そのスタートラインに立ったいま、ひとつの区切りとして、新社長にバトンを渡すことにした。新たな経営体制で持続的な発展につなげてもらう」と、新社長に期待を寄せた。

沖津雅浩氏

沖津氏は、社長退任の検討をはじめたのは、2026年2月10日に行った2025年度第3四半期決算発表以降だと明かし、3月上旬に河村氏に社長就任を打診したという。

「液晶事業については赤字が続いているが、亀山第2工場を終息することを決定し、ここから赤字が出ることもない。これからは、亀山第1工場と白山工場に集中する。デバイス事業は、2027年度の最終黒字化の計画に変更がない。また、4年前には『節流』という言葉が社内に染み付き、守りの体制となっていたが、これが変わってきた。社員が一丸となり、同じ方向に向かっていくことに期待している。これからは、前向きの成長投資を増やしていくことになる。これを新社長が牽引していくことになる」と述べた。

河村氏については、「この4年間は、事業貢献が大きいスマートビジネスソリューション事業を牽引し、2025年度からは新規事業の成長に向けた種まきを進めてきた。今後は、自ら育てて、刈り取ってららう」としたほか、「シャープは、技術をもとにしたプッシュ式で経営してきたこともあり、出口が弱い。いまは営業が現場の課題を吸い上げ、それを解決する製品を開発していくことが求められており、その点でも、営業出身の河村氏が最適である。さらに、今後のシャープは、グローバルで成長させていかなくてはならない。25年の海外経験は代えがたいほど重要である」とした。

また、「私自身は一歩引くが、引き続き、社長を支える立場として、シャープの発展に力を尽くしていく」と述べた。