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全国の刑務所から選ばれた受刑者たちが集まり、理容師の国家資格を目指す──。

川越少年刑務所では、若い受刑者を対象にした理容師の職業訓練がおこなわれている。2年間の訓練を通して、社会復帰に向けた技術や接客を学んでいく。

しかし、努力して資格を取得したとしても、出所後の道のりは決して平坦ではない。仕事の厳しさ、人間関係、社会情勢の変化など、塀の外にも多くの“壁”が待っている。

「まずは焦らず、世の中を散歩しろ」

出所を控えた若い受刑者たちに、川越少年刑務所の看守部長はそう語りかけているという。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●全国から「選ばれた」受刑者たちが集う場所

──ここに来る受刑者はどうやって選ばれる?

看守部長:まず、川越少年刑務所で理容師の職業訓練を始めるという募集が全国の刑務所にかかります。「受けたい」という受刑者が希望を出し、人数制限がある中で選考にかけられ、残った人たちがここに入ってきます。

──刑務所ごとに人数が割り当てられているわけではない?

看守部長:そうですね。たとえば10人という形で、全体の募集人数が決まっています。同じ刑務所から2人来ることもあります。訓練を受けるとなると、最低でも2年間はこの川越少年刑務所で生活することになります。

資格を取得したあとは、基本的には元の施設に戻ります。ただ、技術が高かったり、指導補助ができそうな能力があったりすれば、ここに残って訓練のサポートをすることもあります。

●「出たとこ勝負」塀の中で対応力を磨く訓練

──刑務所の中で理容師の免許を取る取り組みには、どんな意味がある?

看守部長:理容はサービス業なので、会話も仕事の一つです。

刑務所では一般の人と話す機会が少ないので、会話力を身につけていくことも大切になります。

また、刑務所の中では受刑者の髪型が決められているため、中の人だけを相手にしていると、同じ髪型ばかり切ることになります。

社会に戻って即戦力になるには、一般のお客さんのニーズにその場で応えられる「出たとこ勝負」に対応する力が必要です。そうした訓練として、大きな意義があると思います。

●「いいかげんなところがあった」彼が資格取得後に変化

──今回私(記者)のカットを担当してくれた受刑者の男性はどんな人?

看守部長:向上心が高く、彼なりの夢を持っています。ただ、若いうちに施設に入っているので、社会的な経験が浅く、言葉遣いが未熟なところもあります。

以前は人に流されやすい面がありましたが、今はダメなものはダメとルールを守れるようになってきています。

──理容師の資格を取ってから変化はあった?

看守部長:責任感が出てきたと思います。以前は少しいいかげんなところがあったようですが、1〜2年かけて考え方を改め、資格も取得して責任を持って仕事をするようになり、大きく変わってきました。

●出所後に待ち受ける「壁」

──理容師の資格を取った受刑者が、出所後に直面する問題は?

看守部長:彼らは刑務所の中での技術しか知らないので、社会に出たときに「上には上がいる」という現実を目の当たりにすると思います。そのときに、どういう目標を持ってついていくかという葛藤が出てくるでしょう。

また、刑務所の中での人間関係しか経験していないので、上司や同僚、後輩との付き合いなど、職場の人間関係でも壁にぶつかると思います。

●社会復帰へのアドバイス「世の中を散歩しろ」

──受刑者は出所に向けてどんな不安を感じている?

看守部長:人それぞれですが、刑期が長い受刑者ほど、社会と離れている期間が長いため、社会のルールになじんでいけるかどうかを気にしています。

居室のテレビやラジオで情報を得ていても、世の中の移り変わりは早いです。そうした中で、人間関係や社会のルールにうまくなじめるか、不安を抱えている人は多いと思います。

──社会復帰に備えてどんな声をかけている?

看守部長:私は、いいかげんなことは言わないようにしています。「恐らく、ものすごい大変だと思う」と正直に伝えています。

出所すると焦って、遅れた分を取り戻そうとする人もいると思いますが、そうすると失敗してどん底にはまってしまう。

だから、「焦らなくていい。まずは1年くらいかけて世の中をゆっくり散歩しろ」と伝えています。