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無人販売と聞けば、かつては郊外の道端にある野菜の直売所を連想する向きも多かっただろう。小銭を竹筒に入れるような牧歌的な光景だが、その形態は今や食品からファッションへと劇的な進化を遂げている。

爆発的な普及の起点となったのは、コロナ禍に全国を席巻した「無人餃子」だった。大手チェーンの「餃子の雪松」はピーク時に全国400店舗以上に拡大。追随する競合他社を含め、無人店舗網が瞬く間に日本中を覆い尽くした。

この無人餃子ブームによって「接客を挟まずに、備え付けの決済端末や料金で精算を完結させる」という購買行動が消費者の間に完全に定着。その次なる主役として台頭しているのが「無人古着屋」である。

近年、無人店舗の業態が増えている中で、古着屋としてその先駆けとなったのが「ムジンノフクヤ」だ。2020年8月に東京の野方にオープンすると、開店1カ月目から黒字を達成。姫路や八戸にも展開を広げている。

また、大阪を拠点とする「#古着de行こか。」は全国におよそ40店舗を展開。「SELFURUGI(セルフルギ)」も全国100店舗体制を目指すなど、無人アパレルは完全に市民権を得た格好だ。

この潮流を後押ししているのは、現場の採用難と最低賃金の引き上げに伴うコストの増大である。従来の有人店舗であれば、店長の育成やスタッフの教育に多大な時間と費用を要す。しかし、無人モデルであれば高度な接客スキルを持つ人材は不要となる。「笑顔の押し売り」が必要ないビジネスモデルは、経営側にとっても福音なのだろう。

会員登録で防犯面に効果も

一方、消費者のマインドも「非接触」へと大きく傾いた。アパレル特有の店員による声掛けを「心理的な壁」と感じる世代にとって、誰の視線も気にせず商品を物色できる環境は、既存の店舗にはない解放感をもたらす。過去のLINEリサーチによる大型調査によれば、18歳から35歳の男女の約8割が「店員に声をかけられたくない」と回答。対人接客を避けることができる無人空間は、「放っておいてもらえる」という、現代におけるある種の究極のホスピタリティーとして機能しているのだ。

こうした流れを後押しするのが、コロナ禍以降に急速に普及したオンライン授業やリモートワーク、さらにはキャッシュレス決済を「当たり前」の日常として使いこなす“非接触世代”だ。

デジタルツールを介したやり取りを呼吸するように好む彼らにとって、店員の「お似合いですよ!」というお決まりの台詞は、もはや不要なノイズ。試着室にスマホを持ち込み、SNSの着こなし画像という「正解」と鏡の中の自分を冷徹に見比べる――。誰の視線も気にせず、24時間好きな時に一人で試着してサッと決済まで終える。そんな「誰にも邪魔されない時間」こそが、彼らにとって最も合理的で心地よい、現代の買い物スタイルなのだ。

防犯面においても、最新のテクノロジーが店舗の良心を支えている。高精細な監視カメラとモニターによる常時モニタリングに加え、入店時の会員登録が心理的な抑止力として機能。商品ロス率は有人店舗と大差ない水準に抑え込まれているのが実情だ。

かつては盗難リスクが懸念された無人業態だが、いまや「特定されるリスク」とのバランスによって、24時間営業の安全性が担保されている。「人の目」がデジタルに置き換わったことで、逆に平穏が保たれるというのも皮肉な話である。

もっとも、すべてがシステムで完結するわけではないだろう。専門的な知識を持つスタッフからの提案や、偶然の出会いから生まれるファッションの深みといった付加価値はこうした店舗では得にくい。

それでも、手取りの多くを住居費などの固定費に割かざるを得ない若者世代にとって低価格帯でいつでも自分を表現できる場は、生活に欠かせないインフラになりつつある。接客を極限まで嫌う層がけん引するこの無人化の潮流は、サービス大国と呼ばれた日本の接客文化に新たな選択肢を提示しているのかもしれない。