70代の約半数は難聴に。専門医に聞く難聴Q&A「なぜ聞こえにくくなる?」「聞こえているのに内容が理解できない?」「補聴器は必要?」
耳は「聞こえ」の玄関口。聞こえにくさは、人づきあいを遠け、認知機能の低下を招きかねません。放置せず対策をとりましょう (イラスト:末続あけみ 取材・文・構成:菊池亜希子)
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聞こえない!? 老化かしら? 高齢期の難聴Q&A
【聞こえ編】
70代以上のおよそ半数が難聴であるともいわれています。
加齢と聞こえの関係について、内田育恵先生に聞きました
Q)高齢になると、なぜ聞こえにくくなるの?
音は、目に見えない空気の振動です。耳から入った振動は、外耳、中耳を経て内耳に伝わり、内耳の蝸牛(かぎゅう)の中にある毛(有毛細胞)を揺らすことで電気信号に変換され、その信号が神経を伝わって脳に届くと、音として認識されます。
有毛細胞は空気の振動に反応して揺れ続けますが、年齢を重ねてその時間が長くなるほど、変性したり抜け落ちたりして数が減っていく。すると、脳に伝わる電気信号も減少し、聞こえが悪くなるのです。
その状態が加齢性難聴。加齢に伴い非常にゆっくり進行するので気づきにくい傾向があり、70代以降になって聞き返しが増えたり、テレビの音が大きいなどと家族に指摘されたりして自覚するようになります。
Q)音は聞こえるのに、話の内容が理解できないのは、なぜ?
加齢性難聴は、すべての音が聞こえなくなるわけでなく、高音域から聞こえづらくなるのが特徴です。電子レンジの「チン」や体温計の「ピピッ」という音、来客を知らせるインターホンなどがそれに当たります。
また、私たちが発する言葉は幅広い音域で構成されるため、低音域の母音は脳に届いても、カ行やサ行など高音域の子音は届きにくくなる。たとえば「1時」を「7時」と聞き違えてトラブルになったり、「からしをとって」が「あらしをとって」に聞こえて意味がわからなかったり。声は聞こえるのに話の内容がわからないという事態が起こるのです。

「からしをとって」が「あらしをとって」と聞き間違えてしまう
Q)聴力低下が老化なら、何もせず放置してもかまわない?
聞こえにくい状態を「老化だから」と放っておくのは間違いです。
聞き違いや聞き返しが増えると、人との交流そのものが億劫になって、つきあいを遠ざけたり、会話の輪から距離を置くようになりがち。すると、ますます脳に情報が届かなくなり、その状況が長期間に及ぶほど、認知機能の低下が進んで、認知症を招きかねません。難聴の最大の怖さは、そこにあるのです。
一度ダメージを受けた有毛細胞は再生しませんが、補聴器を適切に使用して脳に音の情報を送ることさえできれば、私たちの脳は再び音を認識できるようになります。難聴は「老化」でなく「病気」と捉えて、早めの対処を心がけましょう。
Q)高齢期に聞こえづらさを感じたら、即、補聴器?
そうとは限りません。まずは耳鼻咽喉科で診察を受けてください。その際、聴器相談医(*)のいる医療機関を選ぶと安心です。高齢期の聞こえにくさの要因は、加齢性難聴だけでなく、実は耳垢(みみあか)トラブルも非常に多いのです。
耳穴から鼓膜までの3cmほどの外耳道は軟骨と骨でできていて、その表面を覆う薄い皮膚は鼓膜に繋がっています。鼓膜の中心部で新しい細胞が生まれると、古い皮膚細胞が押し出され、外耳道をベルトコンベア式に運ばれて耳穴からポロリと外へ落ちる。これが耳垢です。高齢期には新陳代謝が低下するため、古い皮膚細胞を押し出す力が弱まったり、外耳道内の軟骨が変形して耳垢を堰き止めたりして耳垢が溜まり、聴力を低下させることがあるのです。さらに、溜まった耳垢に細菌が繁殖して炎症を起こし、外耳道の骨を溶かしてしまうことも。高齢期の耳垢は侮れません。
また、花粉症やインフルエンザ発症後には、鼓膜の奥に水が溜まる「滲出(しんしゅつ)性中耳炎」になり、聞こえにくくなることも珍しくありません。まずはこうした耳トラブルの治療が必須。何もなければ聴力検査を受け、日常生活に支障をきたす加齢性難聴と診断されたら、補聴器の使用が推奨されます。
*補聴器が必要かどうかを医学的に判断し、適切に助言できる知識を持つ耳鼻咽喉科医。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定している
全国の補聴器相談医は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のHPを参照
