ゴキブリ駆除に使命感を持つ64歳男性。「人が嫌がる仕事に商機がある」元エリートの逆転戦略
本の中に掲載されていた、薬剤を使ったゴキブリ駆除業を行う企業に話を聞きに行ったところ、部長が銀座のデパートの飲食フロアに連れて行ってくれました。飲食店の閉店後、3人ぐらいの店長が部長のところに来て、「ゴキブリが一匹もいなくなった」と感謝していたんです。「ゴキブリ駆除は人の役に立つ仕事なんだ」と感じ、「一生の仕事にする」と決意しました。
ーー元々ゴキブリは苦手だったそうですが、起業したあとに迷いはなかったのでしょうか?
20軒目くらい、お好み焼き屋で作業したときは全然ゴキブリが止まらなくて、お客様に怒られました。使用していた薬物に耐性を持っていたゴキブリだったようでした。すごく不安でしたが、「ゴキブリ駆除は人に感謝される」というポジティブなマインドは忘れないように心がけていました。
ーーなぜ会社を拡大できたのでしょうか?
大野:ほとんどのゴキブリ駆除会社は、毎月1回、年に12回作業に入って、ゴキブリの少ない状態と増えていく状態を”W”のように繰り返します。年に12回の訪問だと1回の予算が少なく、1件あたり10〜15分しかかけられず、完全駆除が難しい状況にあります。
自分の会社で作業に入るのは、年に2回だけ。その分、1回あたりにお金と時間をかけて徹底的に駆除作業を行い、ゴキブリゼロの状態を続ける「L字型」を突き詰めました。
「2回で駆除できなければ追加料金はなしで作業に行く」「新規のご契約で1年以内に完全駆除できなければ全額返金する」という保証もつけました。作業者側からすれば、必死になって完全駆除しようとします。
実際に、’24年度は契約している1881店舗中1872店舗で、ゴキブリが1匹もいなくなる完全駆除を達成しました。残りの9店舗は、ゴキブリが発生する原因である壁を壊せないなどの理由でゼロにならなかったのですが、原因を追及する姿勢に満足していただいています。
◆「3K」に見られがちな仕事を格好良くしたい
ーー今後、現役の間にやりたいことは何ですか?
大野:「3K」に見られがちなゴキブリ駆除の仕事をもっとブランディングしたいです。求人広告には通常、和気あいあいとした笑顔の社員の写真を使用します。しかし弊社は少年心をくすぐる狙いで、薬剤の充填されたベイトガンをカッコよく構え、獲物を狙い撃ちするような表情の写真を使用しました。他には、「ゴキブリ博士」の名前でYouTubeをやったり、モータースポーツに「YouTube ゴキブリ博士」の名前で出場したりしています。
敬遠されがちな仕事だからこそ、社員のモチベーション維持も大切。毎年、会社が全額負担して海外に社員旅行に連れて行ったり、会社で無人島を買って社員を連れて行くなどの取り組みを行っています。
ーー起業したくても何をしたら良いか悩んでいる人に向けて、一生の仕事を見つけるコツを教えてください。
大野:やりたいことではなく、やりがいのある仕事を見つけてほしいです。やりがいのある仕事というのは、人の役に立っていると実感できる仕事のことです。私の場合、ただ薬剤をまくのではなく、より人様のお役に立てる駆除のあり方を模索してきました。
大野さんが選んだゴキブリ駆除の道は、一見すると特異なキャリアに見えるかもしれない。しかし根底には、「人が困っていることを根本的に解決したい」という強い信念があった。「人が嫌がることをあえてやろうと思った」という大野さんの姿勢は、「仕事」の本質について問いかけている。
【坪川うた】
ライター。商業施設を開発するデベロッパー2社での勤務を経て、フリーランスへ転向。得意領域は街やショッピングセンター。『東洋経済オンライン』などでも執筆中。
