空前の“シール交換”ブームも店側は「ウハウハどころか、早く終わってほしい…」と悲鳴 “薄利多売”でも“転売屋”でもない子供たちを巻き込む“不健全な問題点”
平成レトロ、平成女児のブームの一環として急速に広がった空前のシールブーム。その火付け役となった「ボンボンドロップシール」は、一昔前は普通に文具店や雑貨店で売られていたが、瞬く間に入手困難になってしまった。フリマサイトには転売屋が続出し、さらには偽物まで出回る騒ぎになっている。
ある日、都内の百貨店にある雑貨店を訪問したところ、店の外まで行列ができていた。シールを買い求める人の行列で、親子連れだけでなく、スマホを常に操作しながら連絡を取り合っている明らかに転売屋と思わしき人の姿もあった。こうした光景はかつての「ポケモンカード」騒動を思い起こさせるものがある。【文・取材=山内貴範】
【写真】空前のブームの中で…秋葉原の「夢織屋」で売られる平成女児用グッズ
電話口で罵倒されることも
突然のシールブームに、文具店や雑貨店もお手上げ状態である。「ファッションセンターしまむら」のオンラインストアや「渋谷ロフト」は、相次いでボンボンドロップシールなどの人気シールの販売を中止すると発表した。個人経営の小売店や公共施設でも同様の動きが広がっている。

都内の小売店の店主T氏は、昨年末までシールの入荷状況を逐次SNSなどで報告していた。しかし、「問い合わせがあまりに多く、お客さん同士のトラブルが絶えない」という理由で、取りやめたという。
それでも「一日何件も問い合わせの電話がかかってくる。その対応だけでも大変」といい、「“本当は奥にシールの在庫があるんだろ! 出せ!”などと恫喝されたこともある」と悩みを打ち明ける。さらに、シールが入荷したとしても、その販売方法が小売店の苦悩の種になっている。T氏の店では、こんな出来事があったという。
「人気のシールを、顔なじみの保護者の子供にこっそり売ってあげたんですよ。子供は喜んで、クラスで自慢してしまったそうなんですね。すると、別の保護者から“あの子に売って、うちの子に売らないのはどういうことか!”とお叱りの電話をいただいたこともあります。誰かを贔屓すると当店のようなトラブルになる。売り方を悩んでいる店は多いと思います」
シールは薄利多売で儲からない
傍から見れば、降って湧いたようなブームで雑貨店は儲かって、ウハウハなように思えるかもしれない。しかし、今回取材した店はそろって「当面扱いたくない」「早くブームが終わってほしい」と頭を抱えていた。最大の要因は、シールが薄利多売で利益率の低い商品だからである。埼玉県内の雑貨店店主K氏が、このように話す。
「もともとシールは単価が低く、利益率も低いため、仮に100枚売ってもそれほど儲けが出ない。列整理などに人員を割くとなると、店側の負担が大きすぎる。大量に仕入れて販売するルートを持っているチェーン店であっても取り扱いを断念するくらいですから、小売店の負担の大きさは言わずもがな。大変な割には、儲からない商品なのです」
こうした小売店が苦々しく思っているのが、転売屋の存在だ。「800円のシールを買い占めた転売屋が、フリマサイトで5000円以上の価格で売っている」と、K氏は恨み節を吐く。その一方で、「小売店の関係者が店頭で売らず、フリマサイトに流して荒稼ぎしているという話も聞きます」と打ち明ける。
平成の頃、ある腕時計やスニーカーがブームになった際には、店に商品を運んでくるトラックを待ち構え、運転手に「商品を出せ」と詰め寄る人がいたという。今回のシールブームでも同じような事態が起こっているといい、到底、健全な状態とはいえなそうである。
交換するシールに“レート”が存在する
大型のショッピングモールでは、文具店が主催するなどしてシールの交換会が行われている。地方ではNPO法人が開催する例もある。シールを通じた子供たち同士の交流の機会になっているため、本来であればいいことのように思える。しかし、ここでもトラブルが続出しているという。秋田県在住で、8歳の女の子の保護者R氏がこう打ち明ける。
「最大の問題は、子供たちの間で、シールに“レート”という概念が存在することで、唖然としました。シール交換の際、単にAというシールとBというシールを交換すればいいというわけにはいかないのだそうです。Aがめちゃくちゃ人気で入手困難なシールだった場合、あまり人気のないBのシールとの交換には応じられないのだとか……」
そのレートはもちろん、シールの人気によって変動する。R氏が言うには、「ボンボンドロップシールとお菓子のおまけのシールは“交換不可”」なのだという。SNS上でも同様の声が上がっており、全国共通の概念になっている。まるでシールが通貨のようであり、大人顔負けのトレードの世界が子供たちの間に広がっているのは間違いないだろう。
いつの時代も親はブームに振り回される
既に述べたように、シールブームは平成レトロ・平成女児ブームの流れで発生したといわれる。そのため、親が子供と一緒に楽しんでいる家庭も多く、家庭内の会話のツールにもなっているようだ。しかし、そうではない場合は、親から「早く終わってほしい」という声が聞かれることがしばしばである。R氏が言う。
「うちの子供はまだシールに関心が低い方だと思いますが、同じクラスの子はコレクター並みにシールを集めているそうで、お母さんは大変みたいですよ。平日も仕事の合間を見て雑貨店を行脚したり、ネットで販売店の情報を集めたりしているそうです。いくら子供のためとはいえ、そこまでやるとは……。
でも、私が子供の頃も『たまごっち』のブームが起きて、母はおもちゃ屋を探し回ってくれていました。今回のシールブームをきっかけに、自分の親がいかに大変な思いをして自分を育ててくれたのか、よくわかりましたよ」
思えば「仮面ライダーカード」や「ビックリマンシール」、「ポケモンカード」、「ボンボンドロップシール」……と、様々なものがブームになってきた。そして、いつの時代も、親はブームに振り回され続ける存在なのかもしれない。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部
