『ほどなく、お別れです』目黒蓮 ©︎2026『ほどなく、お別れです』製作委員会 ©︎長月天音/小学館

写真拡大

 「ほどなく、お別れです」。目黒蓮演じる葬祭プランナー、漆原礼二が、劇中で何度も口にする言葉だ。別れを突きつける言葉でありながら、悲しみを煽ることなく、遺族の時間をそっと前へ進めていく。目黒が発するこの一言には、不思議なやさしさと覚悟が、同時に宿っているように聞こえる。

参考:Snow Man 目黒蓮、“気持ちを作ること”との向き合い方 「ずっと感情を考え続ける」

 2月6日に公開された映画『ほどなく、お別れです』は、就活生・清水美空(浜辺美波)が、インターンとして働き始めた葬儀社「坂東会館」で、葬祭プランナーとしての在り方を学んでいく物語だ。亡くなった人と会話ができるという不思議な力を持つ美空は、先輩社員・漆原のもと、生と死が交差する現場に向き合っていく。

 美空をスカウトした漆原は、遺族や故人に対して誰よりも誠実に接する人物だ。葬儀を滞りなく進めることよりも、遺族が前を向くための「別れの儀式」として、納得のいくものにすることを大切にしている。その姿勢は、美空に対しても変わらない。一つひとつの所作や言葉に細かく目を配り、時に厳しく指導する。

 仏具の置き方を指摘した場面では、思わず戸惑う美空に、一言。「いきなり完璧にできるわけがない、という顔ですね。しかし、遺族にとっては二度とない大切なお別れの時間なんです」。そして、「完璧に覚えるまでは今日は帰れない」と告げるのだ。その厳しさは、“遺族にとって、故人との別れは、やり直しのきかない時間”だということを理解しているからこその態度なのである。

 この漆原のストイックな姿勢は、目黒自身の俳優としての姿勢とも重なって見える。エミー賞を受賞した『SHOGUN 将軍』(ディズニープラス)の続編への出演を勝ち取り、撮影のためカナダへ渡ったニュースは記憶に新しい。約1年とも言われる海外での撮影にあたり、自身が所属するSnow Manとしての活動を一時休止する決断を下した。今、日本で最も求められるアイドルの一人でありながら、その人気に安住することなく、厳しい環境へと身を投じる。その選択からは、底知れない覚悟が透けて見える。

 こうした「静かなる覚悟」こそが、目黒の芝居を一貫して支えてきた背骨だ。端正な顔立ちと柔らかな微笑みの奥には、確かな熱量が秘められている。そして、目黒蓮という俳優の大きな魅力もまた、感情を大げさに表に出さずとも、その場に確かな熱を感じさせる点にある。

 その表現は、近作『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)でも印象的に示されていた。目黒が演じた中条耕一は、経営者で馬主・山王耕造(佐藤浩市)の隠し子という立場にありながら、自分の足で着実に歩んできた人物だ。援助を申し出る耕造やマネージャーの栗栖栄治(妻夫木聡)に対して、冷ややかな態度をとり続ける。しかし、彼らにはひとつだけ通じ合うものがあった。競馬への想いだ。

 耕造の愛馬、ロイヤルホープの引退試合。耕一は、競馬への強い想いとロイヤルホープへの信頼を目に宿らせる。台詞としてその想いを雄弁に語らなくとも、試合の行方を一瞬も逸らさずに見つめるその眼差しから、視聴者は耕一の熱を十分に感じとることができる。だからこそ、その後の「ロイヤルホープの子どもであれば引き継ぎたい」と想いを口にした場面では、思わず胸が熱くなる。

 こうした芝居が強く印象に残るのは、ふとした視線や表情の揺れを通して、その内側に確かに存在する熱が伝わってくるからだ。観る側はすでにその気配を感じ取っているからこそ、感情が表に現れたとき、その一瞬が強い余韻を残す。この“静”と“熱”が重なり合う二層構造こそが、目黒の演じる人物に、単なる「クールな人」では片付けられない圧倒的な人間味を宿らせている。

 そして、この内側に熱を灯らせる芝居を支えているのが、目黒の“声”だ。そもそも、彼が俳優として大きな注目を集めたのは、ドラマ『silent』(フジテレビ系)での演技だった。難病によって音のない世界に生きる青年を演じた目黒は、声を使わず、表情や視線、そして手話と涙だけで感情を表現した。高校時代に想い合っていた青羽紬(川口春奈)と再会し、抑えきれない感情を爆発させる場面では、多くの視聴者の涙を誘った。言葉にできない想いが行き場を失い、身体から溢れ出す。そんな芝居が、目黒蓮という俳優の存在を強く印象づけた。

 一方、本作では、感情を伝える手段として、声そのものを丁寧に扱う。目黒の低く落ち着いた声と余白を残す間の取り方は、セリフ一つひとつに意味が込められたこの作品と、驚くほど相性がいい。冒頭で示した「ほどなく、お別れです」という言葉も、感情を煽ることなく、しかし冷たくもならず、別れに静かな区切りを与えていく。その響きには、声を張らずとも想いを届けてきた俳優・目黒蓮ならではの説得力がある。

 静かな佇まいの中に熱を滲ませ、沈黙と声、その両方を自在に使い分ける。『ほどなく、お別れです』は、目黒がこれまで積み重ねてきた表現が、最もふさわしい形で結実した一本といえるだろう。感情を叫ばず、しかし確かに前へ進ませる。漆原という人物を通して示されたのは、今の目黒蓮が到達している俳優としての現在地そのものなのだ。(文=よしはらゆう)