こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した若い星「HBC 672」とその周辺。


へび座の方向、約1300光年先の反射星雲「Serpens Nebula」にあるHBC 672は、画像の右上に位置しています。


【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した若い星「HBC 672」(右上)とその周辺(Credit: NASA, ESA, K. Pontoppidan)】

HBC 672がある位置から左上と右下に向かって、一対の細長い三角形のような影が伸びています。翼のようにも見えることから、NASA=アメリカ航空宇宙局やESA=ヨーロッパ宇宙機関ではこの影を「Bat Shadow(コウモリの影)」と表現しています。


この影は、HBC 672を取り囲むガスと塵(ダスト)でできた原始惑星系円盤によって生じたものだと考えられています。中心にある星からの光は円盤の平面に直交する方向には届いていきますが、光がさえぎられることで、円盤の平面方向には影が生じるのです。


HBC 672から一方の影の明確な端までは、光の速度でも40日から45日を要します。普段は観測できない原始惑星系円盤の存在やその特性を、巨大な影を通じて知ることができるのです。



【▲ 若い星「HBC 672」の羽ばたくように変化する影の様子を示した動画(Credit: ESA/Hubble, K. Pontoppidan, L. Calçada, M. Kornmesser; Music: Konstantino Polizois)】


404日間隔で取得されたHBC 672の観測データから、この影はまるでコウモリや鳥の羽ばたきのように動いていることが明らかになりました。その理由は、この星を取り囲む原始惑星系円盤がゆがんでいるからかもしれません。


HBC 672の円盤が土星の環のように平らではなく、馬の鞍のように反っていた場合、影が生じる方向は円盤が回転するにしたがって変化するはずです。その様子を横から観察すれば、まるで影が上下に羽ばたいているように見えるはずだ、というわけです。原始惑星系円盤の反りは、HBC 672を180日以上の周期で公転する惑星質量の天体によって生じている可能性があるといいます。


【▲ 若い星「HBC 672」を取り囲む原始惑星系円盤の形と影の関係を示した図。馬の鞍のような形をしている円盤が回転すると、その向きによって生じる影の角度が変化する(Credit: NASA, ESA, and A. James and G. Bacon (STScI))】

冒頭の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」で取得したデータを使って作成されたもので、NASAとESAから2018年10月31日付で公開されました。また、2020年6月25日には、羽ばたくような影の動きに関する研究とともに改めて紹介されています。


本記事は2020年6月26日公開の記事を再構成したものです。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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