【独占】コストカット経営の余波…「至誠会第二病院」が直面する危機と再生の道:ガイアの夜明け
町の総合病院が、窮地に立たされている。東京・世田谷区にある至誠会第二病院は、約100年にわたり、この地域の医療を支えてきた。しかし、かつての経営トップが人件費や設備投資などでコストカットを進めたことで、医師や看護師たちの数が減少。採算性の低い診療科は閉鎖されてしまう。その結果、患者の数が減り、病床稼働率も低下。病院の収入は、赤字に転落した。
コストカットが招いた負の遺産を抱えながらも、新たな経営体制に生まれ変わり、再生へと向かい始めた至誠会第二病院。患者本位の医療を取り戻すことはできるのか? その現場に密着した。
深刻な医師不足…病院に存続の危機!?
2025年1月、東京女子医大の岩本絹子元理事長が背任容疑で逮捕された。1億円以上を不正に支出し、大学に損害を与えたとされている。

東京・世田谷の住宅地で100年近く続いてきた至誠会第二病院は、東京女子医大の同窓会組織「至誠会」が運営。逮捕された岩本元理事長は至誠会のトップとして、至誠会第二病院の経営の実権を握っていた。

岩本元理事長は徹底したコストカット経営に舵を切り、人件費を抑えるため、常勤の医師は45人から27人へ。人手が足りなくなり、集中治療室も4年前に閉鎖してしまう。
こうした医療サービスの低下が悪循環を招き、患者の数は減少。病床の稼働率は約30%まで低下し、赤字に転落した。

病院経営には、そもそもの難しさが伴う。今、全国の病院の7割近くが赤字。物価と人件費が高騰する中、国が診療報酬を定めていることが、病院の経営難に拍車をかけている。

至誠会第二病院では、元理事長の逮捕を受けて、病院の再生に向けた会議が開かれた。
新たな代表理事・齋藤麗子さんを筆頭に、経営サイドと現場サイドが意見を交わす。
「医師の数が減って、それが補充されなかった。医師、看護師のマンパワーは、病院の中でとても大事。いろいろなドクターの採用に向けて頑張っていきたい」(齋藤代表理事)。
副院長の梁 京賢さんも、「患者をどんどん引き受けられるような体制。ちゃんと治療してお戻しする体制を整える」と前を向く。
あぶり出された問題点は「人材・最新設備の不足」「専門性の軽視」「医局頼みの採用」「経営の独断」──。人材については、人件費の総額が低く抑えられ、欠員が出ても補充がままならない状況。設備投資の遅れも深刻だ。
眼科の蔵並 藍医師(32)は、「(目の手術に欠かせない顕微鏡も)支障が出るほどではないが、30〜40年前くらいのものをいまだに大事に使っている」と話す。

専門性を軽視した象徴は、皮膚科と耳鼻科がなくなったこと。「すごく人気があった。皮膚科が一番多かったんじゃないかな。普通に行ったらいっぱいなので、必ず予約しないといけなかった。突然やめてしまって残念」と話す患者も。

そして、偏った採用。かつては大学の医局頼みで、医師の半数を占めていたが、梁副院長は「かなり医局員が少なくなって、派遣してくれる先生が派遣できない状況」と話す。
これら全てに通じるのが、経営手法の問題だ。事件の前は元理事長に権限が集中し、ガバナンスが効かなくなっていた。
多くの総合病院には、院長とは別に理事長がいる。院長は医療の質と安全性を担い、理事長は収益性を重視する。そこが、病院経営の難しさでもある。
かつての至誠会第二病院はそのバランスを失い、近視眼的になっていたという。
「人件費が減れば赤字は減るかもしれないが、長期的な視野に立つことと地域のニーズの分析、その辺が不十分だったのかもしれない」(齋藤代表理事)。
医師を守り、患者を守る…病院再生に独占密着

地域の医療を守るため、生まれ変わった至誠会第二病院の経営体制。かつてのように意思決定を合議制に戻し、今は定期的に医師や看護師など、現場の声を聞く場を設けている。
最優先の課題は、人材確保と設備の充実だ。新たに入った蔵並医師(前出)が至誠会第二病院を選んだのは、託児室があるから。元理事長の時代にコストカットで閉鎖したが、今回の改革で真っ先に再開した。
「院内なので、どこかに預けてから来るという手間がない。職場と一体になっているので、何かあったらすぐに連絡が来るし、預ける時間の調整もしやすいので、すごく助かっている」(蔵並医師)。
病院は今、託児室の運営を月200万円で外部に委託。費用は内部留保を使うなどし、大半を企業努力で賄っている。利用料は月2万円で、薬剤師や技師、栄養士なども利用できる。

30年以上前の顕微鏡も、最新のものに買い替えることに。1500万円以上かかるが、理事会の承認が下りたのだ。
最近、約750万円かけて視野検査装置を導入。検査時間が短くなり、患者の負担が軽くなった。結果がパソコンに自動転送され、過去の数値も示されるので、回復や進行が一目瞭然。医師の手間も減った。
医師が減り、患者も減ったかつての悪循環…。理事会はその反省を踏まえ、約2億円を先行投資。すると院内の雰囲気も変わり、医師たちに笑顔が戻っていた。

問題の1つだった専門性の軽視。その改革の象徴が、整形外科にある“足”に特化した外科センターだ。センター長で整形外科医の吉本憲生さんは、くるぶしから下の病気やけがを専門としており、その道のスーパードクターと呼ばれている。
その評判は海外まで届き、インドネシアから遠路はるばるやって来た患者も。
進行性の扁平足に悩まされている女性は、「シンガポール、日本、アメリカと、たくさんの医師に診てもらった。吉本先生はどこが痛いのか、どの腱が負傷しているのかを言い当ててくれた」と感謝を伝える。

かつての経営陣のもとでは、吉本医師の待遇は、恵まれているとはいえなかった。
「(当時の給与は)県立病院や日赤病院にいた時の半分くらい。勉強のために来ているので、そこは仕方ないという気持ちでいた」。
8年前に九州からやって来た吉本医師だが、経営体制が変わる前は、専門性の価値が認められていなかった。
しかし、新体制になってからは給与が上がったと吉本医師。経営陣が自らの報酬をカットし、その一部を医師たちのベースアップに当てたという。貢献度に応じて、給与などの待遇も改善された。
吉本医師が手掛ける手術は、かつて年間約180件だったが、現在は300件以上に。患者や手術が増えたことで、病院の収益も上がっている。
手がける症例が増えたことで、臨床研究も進むように。吉本医師は「いろいろな経験させてもらって、それを基に論文を書いたり、研究したり、学会で発表したり。国際学会への参加も含めて充実したことができている」と話す。
しかし、まだ医師の数は足りていない。病院全体で増えたのはわずか4人。最も深刻なのが内科だ。少なくとも3人は補充が必要で、厳しい状況が続いている。

一方、対照的な事実も。部屋にひしめく看護師たちは、みんな20歳前後。まだまだこれからの人材だが、窮地に立つ病院には大きな救いだ。
彼らは病院の隣にある看護学校の卒業生。全国的な看護師不足の中、至誠会第二病院は、採用に困らない。

人材確保は、病院経営の鍵。しかし、そのやり方を誤ると裏目に出ることも……。
産婦人科は大学の医局出身者に頼り過ぎた結果、「医師不足で1年間クローズした」(看護師長)。その後は再開したものの手がける出産は激減し、全盛期の10分の1以下に。
今は、月に約3件という状況だ。

そこに現れた救世主が、産科医の福田奈尾子さん(41)。福田医師は、東京大学大学院 医学系研究科出身。3年間の専門研修プログラムを経て、救急専門医の資格試験に合格。
そこからさらに勉強と経験を重ね、集中治療医の資格も取得した。
病院からすれば垂涎の人材だが、なぜ至誠会第二病院に来たのか…実はここにも、改革の一手があった。
新たな経営陣による改革は、病院を再生させることができるのか――。
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