“東大物理学生”がなぜYouTubeに? 突き詰める理想の世界とは たむらかえインタビュー
「東京大学理学系研究科物理学専攻の、たむらかえです」
彼女の動画は必ずこの挨拶から始まる。文言通り、たむらかえは現役東大生でありながら、YouTubeチャンネル「たむらかえ」「たむらかえ2」で動画を発信しているクリエイターだ。
2022年9月から始動したメインチャンネル「たむらかえ」は、登録者数約7万人。その約1年後の2023年10月に始まったサブチャンネル「たむらかえ2」は、わずか1年3か月で21万人の登録者数となっている。(2025年1月現在)
いまやYouTubeは芸能人から一般人まで誰もがチャンネルを持っており、完全なるレッドオーシャンでありながらも、彼女の動画はそのなかの“誰にも似ていない”。もう散々出尽くしたと思っていたところに、突如現れた新たな存在。そんな新鮮さに視聴者は思わず目を惹かれてしまうのだろう。今回はそんな彼女にインタビューを実施。なぜたむらかえはYouTubeにいるのだろうか? 彼女から見た、YouTubeの世界を聞いた。
・たむらかえと、YouTubeの距離感
ーー普段から動画を拝見させていただいているのですが、いまは修士論文が大変だと拝見しました。大丈夫ですか……?(取材時は2024年1月)
たむらかえ(以下、たむら):いや、終わってないですね。提出はしたんですけど、修正をしなくてはいけないのと、次に発表が控えているのでその準備をしています。
ーーお忙しいところすいません……(笑)。
たむら:いえ、全然大丈夫です!(笑)。
ーー今回はたむらさんの活動についていろいろとお伺いしたいのですが、まずYouTubeを始めたきっかけについて教えてください。
たむら:最初はTikTokでした。携帯の容量がオーバーしそうだったので、面白そうな動画をXに投稿してみたんです。そしたら友達からの反応がよかったので、もしかしたらバズるかもと思い、TikTokにも投稿しました。そしたら600万回再生されて、「うわー!」みたいな。
反響があったのはその動画だけで、あとは全然……。でもその体験をして、人の目に触れることというか、バズる現象って意外と身近なことなんだなと感じました。
ーーその後は、発信の場をTikTokからYouTubeに切り替えたのでしょうか?
たむら:そもそもTikTok自体あまり見ていなかったんですよね。あとフォーマットもあまり好きではなくて。誰かが作ったフォーマットに乗るだけで再生されることに、あまり面白さを感じなくて……。なんか自分のなかで乗り切れないところがあったんです。
ーーYouTubeは以前から興味があったのでしょうか?
たむら:そうですね。あと友達からもよく「YouTubeやりなよ」って言われてました。「あーいいじゃん」と正直まんざらでもなかったんですけど、まんざらでもないと思いながら1回も挑戦せずに終わるのがなんかもったいないなと思って。やってみて損はないし、1度動画を作って投稿してみようと思いました。
ーーTikTokはあまり見ていなかったとのことでしたが、YouTubeは見ていたのでしょうか?
たむら:YouTuberの方の動画は、ほとんど見ていなかったですね。
ーーそれはなぜ?
たむら:うーん……。「絶対にチャンネル登録お願いします!」というようなサムネイルを見ると、なんか圧を感じてしまって苦手なんです。それでいざ再生してみて、つまんなかったらどうしようと思うと、怖くて再生できなくて……。逆に自分はそうなりたくないから、“自分が見ることができる”動画を意識しています。
ーー同じフィールドにいながらも、一種の逆張りのような考えですね。
たむら:でも芸人さんのYouTubeチャンネルはずっと好きで、チョコレートプラネットさんや、さらば青春の光さんのYouTubeチャンネルは見ていました。基本的にお笑いが好きなので、YouTubeも笑えるものが好きなんです。どちらかというとテレビっ子ですし、YouTuberが台頭し始めたときも、実はYouTuberという存在がそんなに好きじゃなかったんです(笑)。
ーーそうだったんですね……! 聞けば聞くほど、たむらさんがYouTubeで活動していることを不思議に感じます(笑)。
たむら:でも「この人好きだなー」と思う人の動画は、少しずつ見るようになっています。「Genの炊事場」さんとか「コスメティック田中」さんとか、ひとりで活動している方の動画はよく見てますね。大笑いするとかではないですけど、一定のおもしろさがずっと続いてる、みたいな雰囲気のチャンネルは好きです。
ーーたむらさんは2つのチャンネルで発信していますが、最初に開設した「たむらかえ」のチャンネルでは、お菓子作りを投稿していますよね。
たむら:最初はエンタメ系のチャンネルも考えたのですが、もう既存のものがありすぎて難しいと感じて、趣味でもあったお菓子作りに特化したチャンネルにしました。YouTubeにはすでに料理系のチャンネルがけっこうあったんですけど、お菓子作りをしていて、しかも顔を出してすごく喋るチャンネルっていうのがあまりなかったので、このかたちになりました。
よくジブリっぽい雰囲気で、美味しそうな料理のアニメが流れる動画とかあるじゃないですか。ああいう雰囲気もすごく好きで、そんな可愛さもあって、映像としてもカッコよくて、見ていて飽きないようなチャンネルにしたかったんです。
・アカデミア界隈は帰属意識が強い?
ーー「たむらかえ」を開設した約1年後、サブチャンネルとなる「たむらかえ2」を始めましたよね。
たむら:お菓子を作っているメインチャンネルは、1本の動画を上げるのにものすごく時間がかかるんです。「深夜にアメリカのお菓子作りまくったら限界すぎた」という動画があるんですけど、それなんかもう2週間くらいずっとその動画しか作っていなかったんです(笑)。そもそも私に編集の素養がないから、調べながら編集していたというのもあるんですけど。
ーー拝見しましたが、作る量や過程もすごいですし編集もかなりこだわっているので、かなりの労力だったんだなと思います……。
たむら:それでいて、再生回数は数百回とかでした。お母さんの友達が「見てるよ~」って言ってくれたりして、本当に身内に見られる程度というか。だからそのときに、労力と成果が見合わないことには慣れたんです。
ーーそこからなぜサブチャンネルを開設することになったのでしょうか?
たむら:そこで1回力尽きて、メインチャンネルをしばらく投稿していなかったんです。「どうしようかな」と思ってたころ、オモコロチャンネルの原宿さんが、“光のつまらなさ”という話をしていたのを動画で聞いたんです。
ーー“光のつまらなさ”ですか?
たむら:つまらなさって2種類あって、光のつまらなさと闇のつまらなさがあるっていう話で。光のつまらなさは、つまらないけど心地いい。疲れているときって、笑いもしないけど何も考えずにショート動画を永遠と眺める時間があったりするじゃないですか。そういう、ストレスのないつまんなさっていうのがあって、そのつまらなさも大事なんじゃないかっておっしゃってたんです。
それを聞いて、「たしかに」と思って。最初YouTubeを始めたときに、エンタメ系の動画をやりたかったけど辞めたのって、面白いことを思いつけるのかなとか、滑るのが嫌だなって思ったからなんです。だからサブチャンネルはそうじゃなくて、もっと見やすくて、コンスタントに投稿できるチャンネルにしたいと思ったんです。作る自分としてもハードルが高くなくて、見ている方もハードルが高くない、ちょうどいいものがいいなと。
だから、お菓子作りの動画も本当は素材が3、4時間あるんですけど、自分が長い動画を見るのはしんどいので、めちゃくちゃカットしてます。
ーー結果、10分程度の尺になっているものもありますね。私だったらもったいないと感じてしまいそうです……!
たむら:いや、もう全然気にしてないです(笑)。自分で見ていて飽きないし、面白いと思えるか何度も考えて繰り返しいるうちに、どんどん尺が短くなっていきました。
たむら:いまはちょっと忙しくてできていないんですけど、サブチャンネルを開設した最初の1か月くらいは、毎日投稿をしていました。これぐらいの編集と、これぐらいの長さだったら毎日出せるなっていうのをテーマに作っていましたね。
ーー実際その作り方に変えて、どうでしたか?
たむら:内容も、友達とかに話してウケた話とかを語ったりして。自分のなかに貯金としてあったものを動画にしていたので、企画が枯渇することはなかったです。喋りたいことしかなかったので。
ーー現在はどのように動画を作っているのですか?
たむら:以前は過去の出来事をエピソード的に話していましたけど、いまは後々エピソードになりそうな瞬間があったらもう撮影してますね。人生のなかで「これ撮っておきたい!」と瞬間的に思う気持ちが、私はすごく強くて。
たとえば修論の締め切り4日前とか本当にヤバい状況なんですけど、こんな状況あんまりないなと思ってカメラを回しました。今後こんなに追い込まれることも多分ないし、実際にYouTubeに追い込まれている修論生の動画ってないので。
ーーたしかにないですね(笑)。
たむら:「こんな動画まだないかも」っていうものが出来るように意識しています。
ーーそんなサブチャンネルですが、2本目にしてかなり反響がありましたよね。
たむら:そうですね……。でもあれだけこだわったお菓子作りの動画が伸びなかったという経験をしていたので、サブチャンネルでバズるぞという気持ちはそこまでなかったんです。本当に、毎日出せるくらいの動画にすることを意識していました。
ーーサブチャンネルが伸びた理由については、どう考えていますか?
たむら:“物理学科”っていうのが大きかったのかなと思います。SNSを見てると、修士学部生とか、日常に鬱憤を持っているアカデミック界隈が自分含め一定数いるんです(笑)。そういう人たちからしたら、私みたいな動画を発信している存在は新鮮だったんじゃないかなと思います。ただ「東大生が動画を上げています」っていうだけだと、東大生はあまり見ないかもしれないです。
ーー“物理学科”というのが、ヒットの要因のひとつだったんですね。
たむら:私もそうなんですけど、アカデミック界隈は帰属意識が強いんです。だから、同じ界隈の人がちょっとポップな感じで「YouTube始めました」って活動していたら、私も見ると思います。友達とか親戚がyoutubeやってたら見ちゃうのと同じですね。
ーーたむらさんの動画は、ひと目で「東大物理学生」ということがわかりますよね。
たむら:見ただけで、ちょっと面白いと思ってもらえるようにしたかったんです。たとえば、芸人のジェラードンさんや粗品さんの動画も、サムネイルとタイトルだけでもうちょっと面白いじゃないですか。その方が、視聴者側も再生するハードルが低いと思うんです。
そのためには、サムネイルとタイトルを見ただけで自分が何者なのかわかる方がいいかなと。幸いこのブランドイメージがすごく強いので、わかりやすいフリとして使っちゃえと思って、タイトルにもずっと「東大物理学科女子」というワードを入れています。
ーーなるほど。
たむら:もし何もワードを入れなかったら、私が女性ということしかわからないと思うんです。なんか女性ひとりのYouTuberって、ひとりで深夜にご飯食べるとかそういうコンテンツに括られやすいと思うんですけど、そういう見方をされたくなくて。自分自身そういった動画はあまり見てきていないし、狙ってるのはそこではなくて。もちろん面白いと思われたいというのが大前提としてあるんですけど。
ーー視聴者側の視点にも立ちつつ、自身の見え方を考えているんですね。
たむら:そうですね。基本的に、「こんな動画がYouTubeにあったらいいな」と思いながら作っています。
・独特な世界観の根幹
ーーほかのクリエイターとのつながりについてもお伺いしたいのですが、雷獣のベテランちさんとは、かなり早い時期にコラボをされていますよね。
たむら:バズり始めたくらいで、声をかけていただきました。ベテランちさんや雷獣の永遠さんには動画のこととか相談に乗ってもらったりして、かなりお世話になっています。長尺動画の作り方に悩んでいるときに、「ラジオいいじゃん、撮ってほしいわ」っと、アドバイスをくれたこともありました。実際に投稿した動画も見て感想を送ってくれたりとかして。それでラジオ動画も継続的に続けてみようかなと思いました。
ーーすごくいい関係ですね。先輩後輩というか。
たむら:めちゃくちゃ大きな存在ですね……! サムネイルについてとか、細かいところまでいろいろと相談させてもらってます。
ーー基本的にたむらさんはおひとりで撮影されていることが多いかと思うのですが、ほかのクリエイターとのコラボについては、どう考えていますか?
たむら:企画が最初にあって、「こんな動画を撮りたいからこの人と撮影したい」という感じで声をかけさせていただいてます。たとえばmorgenさんとのコラボだったら、同じ日を別視点で撮影した動画が作りたいと思って。morgenさんはひとりで撮影・編集していて自分と近い雰囲気がありながらも、世界の見え方とか取り上げ方が違うだろうなと思って、一緒に撮影させてもらいました。
あとは大西拓真さんとは、変なテーマでディベートがしたいと思ってお誘いさせていただきました。そういうことをするなら、なんか天才っぽいやつがいいなと思って(笑)。
ーーなるほど(笑)。コラボも、企画先行で考えられているんですね。2つのチャンネルどちらも、いままでに“ないものを作る”という考えは共通しているように感じます。
たむら:基本的にすでにあるものをやっても……とは思っています。やっぱり自分から出てくるものを動画にしたいというか。たまに、YouTubeでよくあるフォーマットの動画を見て、「こんなんが再生されてんのかよ」っていう怒りをモチベーションに変えて作ったりもします。「私だったらこうするけどね!」みたいな。……めっちゃ性格悪いですよね(笑)。
ーーいやいや、そんなことないです!(笑)。一貫して、視聴者数や登録者数に対しての欲はあまりないんですね。
たむら:見てくれたらもちろん嬉しいですが、メインチャンネルも趣味みたいな感じで作ってて、せっかくなら投稿するかという気持ちでした。頑張ったから、友達とかに見てほしいなと思うくらい。いまも、未知の視聴者にたくさん見てほしいという気持ちはそこまで強くないです。より多くの人に見られるためにどうするかというよりは、自分が作りたいから、という気持ちで動画は作っています。
YouTubeも、自分が作って満足したものを勝手に載せられる場所みたいな感覚です。自分が満足する動画が作れて、「やった!」みたいな(笑)。それがすごい評価されるかどうかはそこまで重視していなくて、自分で見てて飽きないし、面白いと思えるかを大切にしています。
ーー今後の展望について、教えてください。
たむら:YouTubeは続けていこうと思ってますが、生活のメインにはしないと思います。そのあたりも含めて考えながら活動していくつもりです。
(取材/文=はるまきもえ)
