一ノ瀬ワタル、“フィジカル俳優”として発揮する武器 『おむすび』に新たな風を吹き込む
物語が陽気さと軽やかさを取り戻し、さらに勢いづく朝ドラ『おむすび』(NHK総合)。こういったドラマの転調は作劇や演出に拠るところが大きいのはもちろんだが、やはり俳優が負っているところも大きい。ドラマに新たなキャラクターが登場するたび、これを体現する俳優が新しい風を吹かせるというもの。現在の『おむすび』においては、一ノ瀬ワタルがこれに当たるだろう。
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本作で一ノ瀬が演じるのは佐々木佑馬という人物。主人公・米田結(橋本環奈)の姉である歩(仲里依紗)を東京から探しに追いかけてきた、自称・“米田歩のマネージャー”である。彼いわく、歩は「大女優」だとのこと。佑馬の歩に対する言動からは、彼がどれだけ彼女のことを想い、大切な存在だと考えているのかが伝わってくる。演じる一ノ瀬の声の具合や一挙一動がチャーミングで、初登場してすぐに惹きつけられた。佑馬の登場により作品のトーンが変わったのだと感じたのは私だけではないだろう。
しかし、歩を除いた米田家の面々からすれば、彼はなかなかに怪しい存在でもある。もしもこの男性の来訪を受けたのが結の父・聖人(北村有起哉)であれば、たちまち追い払われていたに違いない。けれども彼を出迎えたのが米田家のムードメーカーである祖父・永吉(松平健)だったため、すぐさま佑馬は糸島の人々と打ち解けることができた模様。本作における一ノ瀬と松平の演技はともに豪快なものであり、ふたりの“正(プラス)”のエネルギーが合わさって、物語の展開に強力な弾みをつけた印象がある。あのシーンはとても愉快なものだった。
一ノ瀬といえば、近年、一気に認知度を高めている俳優のひとりだろう。主演を務めた『サンクチュアリ -聖域-』(2023年/Netflix)の配信がスタートすると、誰もが「一ノ瀬ワタル」の名ばかりを口にするようになった。2024年でいえば、同じくNetflix配信シリーズの『地面師たち』や『極悪女王』の成功に大きく貢献した者たちのようにだ。ひとりの不良が相撲業界でのし上がっていく姿に胸を熱くさせられ、そんな若者の変化を体現する一ノ瀬の驚異のパフォーマンスには何度も唸らされたものである。
全日本女子プロレスをモチーフにした『極悪女王』もそうだが、作品に関わる俳優たちはまず各々の身体を説得力あるものに仕上げなければならない。見た目ももちろんだが、何よりも演じるキャラクターの所作をその身体に染みつけなければならない。『サンクチュアリ -聖域-』における一ノ瀬の振る舞いを見ていると、これをどれだけ時間をかけて自身の身体に落とし込んだのかが分かるものだった。 映画やドラマはフィクションであり、そこに登場するキャラクターを表現する、優れた俳優の存在がなければ成立はしない。そんな当たり前だが忘れてしまいがちなことを再認識させてくれるパフォーマンスだといえるものだっただろう。
そんな彼の最大の魅力は、やはり強靭なフィジカルだ。一ノ瀬は元格闘家ということもあり、身体を扱うことに非常に長けている。アクション映画『キングダム』(2019年)はもちろんのこと、『ヴィレッジ』(2023年)や『インフォーマ』(2023年/カンテレ)といったシリアスなエンターテインメント作品でも彼のフィジカルは活かされ、物語にダイナミズムを与えてきた。ひとつの作品の中で重厚さと軽快さという相反するものを一度に体現してみせる俳優は、彼のほかに誰がいるだろうか。
『おむすび』での一ノ瀬は、自身のフィジカルのベクトルを思い切りチャーミングなほうに振っている。本作が再び獲得した陽気さと軽やかさの大部分は、彼が担っているといえるのではないだろうか。一ノ瀬の存在が加わったことで、『おむすび』の物語はトーンを変えて加速しているのだ。『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』(ABEMA)もはじまったところなので、俳優・一ノ瀬ワタルを堪能できる素晴らしい季節になりそうである。(文=折田侑駿)

