STU48キャプテン・今村美月「人生最後のオーディションに」心に誓った第1期生オーディション【特別インタビュー?】

養成所で鍛錬を繰り返し、ようやくアイドルのスタートラインに。しかし、その技術が思わぬところで「足かせ」に…。葛藤を抱えながら活動を続ける彼女が考える「アイドル像」「リーダー像」に迫る。その第1回。
(取材・文 伏見学)
広島市内を南北に流れる旧太田川。川沿いの遊歩道には日差しを受けて鮮やかに輝く桜の木が並ぶ。その下に腰を下ろして談笑したり、お弁当を広げたりと、思い思いの時を過ごす人たち。穏やかな春日和となった2023年4月9日、平和記念公園内の国際会議場・フェニックスホールではSTU48の6周年コンサートが開かれていた。
このステージ上でひときわ躍動する一人のメンバーに目を奪われた。キレのあるダンス。前後左右の激しい動きにもぶれない体幹の強さ。一挙手一投足に無駄がない。そして、「神は細部に宿る」がごとく、伸ばした指先まで繊細にコントロールされている。
ダンスだけではない。ユニット曲やソロパートなどでは安定感のある美声を披露する。さらには、40人以上のメンバーを後ろに従えて、堂々たるスピーチをやってのける。常に笑顔で獅子奮迅の働きを見せていたのは、STU48のキャプテン・今村美月さんである。
ダンスの技術や歌唱力の高さは、彼女のキャリアに裏打ちされている。8歳から17歳までアクターズスクール広島(ASH)に在籍し、鍛錬に鍛錬を重ねてきた。ASHとは1999年の開校以来、PerfumeやBABYMETAL、モーニング娘。などのメンバーを数多く輩出してきた芸能養成所のこと。今村さんはここでSPL∞ASH(スプラッシュ)という地元・広島に根ざしたアイドルユニットのメンバーに選出され、Jリーグ・サンフレッチェ広島のPR活動をおこなったり、コンサートやイベントに多数出演したりした。10代半ばにしてすでに“プロ”として精力的に仕事をこなしていた。
2017年3月に今村さんがSTU48のメンバーとして活動を始めた後は、憧れの先輩に続けと、ASH出身者が次々とSTU48の門をくぐった。現在は今村さんを含めて9人のASH出身者がグループで活動している。
今でこそ誰もが認めるSTU48の顔だが、かつては今村さんの卓越した技術が“足かせ”となり、本人を大いに困惑させた。加えて、彼女のキャプテンシーが不安視されることもあった。これまでほとんど表には出してこなかったが、今村さんはさまざまな苦悩や葛藤を抱えながらも、STU48の活動を続けてきた。幾多のハードルをどう乗り越えて、現在地に辿り着いたのだろうか。
あの日のステージで見た、アグレッシブさを前面に押し出した姿とは対照的な、どこか控えめで、おっとりとした雰囲気が漂う今村さんの本心に迫った。
人生を変えた、8歳の夏の出会い
全国で119万人を超える「ミレニアムベイビー」の一人として、2000年2月日に広島市で生まれた今村さんは、一人っ子で、自由な幼少期を過ごした。幼稚園の頃にバレエダンスやピアノなどの習い事を始める一方で、セミやカマキリなどの虫捕りをしたり、近所の友達と「ごっこ遊び」をしたりと、毎日のように家の外を駆け回っていた。 家では両親と一緒にテレビを見ることが多かった。その時に画面越しに出会ったのが、キラキラと眩しいアイドルたちだった。
「ミニモニ。やプッチモニが好きになって、玩具のスタンドマイクとかを買ってもらいました。(アイドルの真似をして)ずっと歌って踊っていましたね」
そんな今村さんが歌とダンスに熱中するようになったのは、8歳の夏だった。
「夏休みにASHの3日間のサマースクールがあって、歌とダンスをみっちり体験できるというのをテレビCMで見たんです。アイドルに憧れていたから、私も行ってみたいと思って親にお願いしました」
その前年の2007年、Perfumeがブレイクするきっかけとなった『チョコレイト・ディスコ』や『ポリリズム』がリリースされていたが、小学生だった今村さんはASHのことは知らず、たまたまテレビで見かけただけに過ぎなかった。サマースクールでは、それまで習っていたバレエダンスにはない、仲間と一緒に歌って踊るという一体感を味わい、丁寧に指導してくれるスクールの先輩たちの優しさなどに感激した。今村さんは迷うことなく入学を決め、夏休み明けから正規のスクール生となった。
ASHでは基本的に毎週土曜もしくは日曜にレッスンを受けた。ヒップホップやジャズダンスなどは初めてだったが、今村さんののみ込みは早かった。「ピアノやバレエをやっていたので、歌えない、踊れないということはあまりなくて。うーん、ほとんど苦労はしなかったかもしれないですね。でも、ずば抜けてうまかったわけではないので…」と今村さんは回想しながら、「へへへ」と照れ笑いする。
それよりもASH時代のことといえば、オーディションばかりをやっていた記憶しかないそうだ。年に2回開かれる発表会に出演するためには自分たちで組んだユニットによるオーディションや、個人参加のソロオーディション、さらにはASHの講師陣が作品を企画、構成、演出する「P企画オーディション」というものにエントリーしなければならなかった。
「たとえばソロオーディションは、まずクラス内でオーディションして、そこで受かった子が本選のオーディションでパフォーマンスを披露できました。発表会にはクラス全員が出演できる曲もありましたが、その構成決めのオーディションも行われました」

他人をライバルだとは思わない
ASHに入るまでは、友達と和気藹々とした日々を送っていたのに、いきなり競争社会に放り込まれて、つらくはなかったのだろうか。
「多分、私、競争心がないのかな。あと、この子は本当に歌がうまいなとか、ダンスがすごくバキバキだなとか、尊敬できる人たちが周りに大勢いたので、たとえオーディションの結果が良くなくても、『まだ足りてないんだな』と納得しちゃう。悔しいというよりも、次はもっと頑張ろうと思っていました」
とはいえ、オーディションに落ちて悔し泣きしたこともあった。例えば、ソロオーディションでは、約8年間で1度しか合格しなかった。それでも、悔しい、負けたくないという感情よりも、今の自分なら仕方ないという考えが先に来ていた。
他人と比べてどうこうではない。とにかく歌って踊ることが好きだし、存分に楽しみたい。それが今村さんの何よりのモチベーションだった。だからつらい気持ちを顔に出すことなどほとんどなかった。今村さんのそうした明るく前向きな姿を見て、ASHに通い始めた地元の子もいた。
「小学校が同じだったことは後から知ったんですけど、1つ下の子がスクール見学に来たとき、ダンスレッスンしている私を見て、入りたいと思ってくれたらしくて。誰かの憧れや目標になるのがこんなにも嬉しいことなんだと実感しました」
パフォーマンス以外にASHで学んだものは何かと問うと、今村さんは「下積み経験」と「謙虚な精神」を挙げてくれた。
「スクール時代は、自分たちで衣装を集めたり、ご飯を調達したりするのが当たり前だったので、STUがすごく恵まれた環境にあることに感謝しています。あと、よく『謙虚だね』と言われるんですけど、それは今でも活躍している人たちが周りにたくさんいた場所で育って、自分なんてまだまだというマインドが常に頭にあるからです」
こうした経験が、STU48に入った後、ほかのメンバーとの技術レベルの差にも天狗にならずに、あくまで自己研鑽を貫くことができた以なのだろう。
アイドルという職業は現実的ではなかったが…
ASHに通い始めてからというもの、友達と遊べなくなっただけでなく、土日はレッスンなどですべて予定が埋まるため、家族旅行なども皆無だったという。
’13年7月にSPL∞ASHのメンバーになると、さらに多忙を極めた。グループでの仕事や、そのための自主練などで平日もレッスン場に足を運んだ。「スクールでの活動にすべてを捧げてきました」と今村さんは言い切る。
気がつくと今村さんは高校生になっていた。学校の成績は「中の下」くらいで、親から言われないと勉強しなかったというが、歯を食いしばって学業とアイドル活動を両立させてきた。
高校生活も半ばを過ぎ、進路を本格的に考える時期に差しかかった。今村さんは逡巡した。大学に進学するべきか、それともこのままダンスパフォーマンスの道を進むべきか。
「子どもの頃から夢を聞かれたら『アイドルになりたい』と言っていましたが、やっぱりテレビで見るような存在だったので、現実的だとは思っていませんでした。歌とダンスは好きだけど、ほぼ趣味のような感じでしたし」
ところが、いざ人生の分岐点に立ち、本当に自分がやりたいことは何なのかを自問自答し考え抜いた末、「歌って踊ることは生きがいだから、続けていきたい」と結論を出した。高校2年の冬のことだった。そんな今村さんに運命的なニュースが舞い込んでくる。地元・広島を中心とした瀬戸内エリアに新しいグループが誕生するというのだ。しかも、推しメンだったAKB48の渡辺麻友さんがオーディションのPR活動をしていた。
神様のお導きに違いないーー。これを人生最後のオーディションにしよう。駄目だったら大学に進学するか、ほかの道に進もう。今村さんはそう心に誓い、STU48の第1期生オーディションに臨んだ。
小学生の頃から山ほどオーディションを受けてきた今村さんでも緊張したという。ただ、広島での開催、しかも石田千穂さんや峯吉愛梨沙さんなど、ASHの仲間が一緒に受けていたため、終始アットホームな雰囲気があったそうだ。
’17年3月、今村さんはSTU48のメンバーに名を連ねた。

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