ロシア戦車などで車体に丸太を積んでいることが多々あります。丸太をどのように使うのか、陸自OBが解説。実は丸太はロシア戦車に限らず自衛隊でもよくあるそう。案外、使えるといいます。

ロシア戦車でよく見る丸太の意味

 ウクライナへ攻め込んだロシア軍の各種戦闘車両が連日のようにTVや雑誌、インターネット記事などを賑わせています。それらをよく見ると、戦車などに丸太を積んでいる姿が多いことに気付くかもしれません。

 戦車+丸太。ハンマーで叩いても凹まない装甲を持つ戦車や装甲車、果ては荷物を運ぶトラックまで丸太で覆われていますが、これはどのような理由からでしょうか。


車体後部に丸太を積んだ陸上自衛隊の74式戦車。赤い矢印で指したものが丸太(柘植優介撮影)。

 実はコレ、泥濘地でスタックした際に、履帯(いわゆるクローラー)の下に敷いて履帯の空転を防ぎ、そこから脱出するためのものです。とはいえ、開戦当初は多くのロシア軍戦車が泥濘地でスタックしている様子が確認されました。

 この時は、ウクライナ側の捕虜となったロシア兵が「ウクライナへ行くとは思っていなかった」というような趣旨の発言をしたとおり、こうした泥濘地への進軍は想定していなかったようです。ゆえに、丸太を搭載せずに出撃した戦車が多く、仮に丸太を搭載していたとしても、深すぎる泥沼では丸太どころの話ではなかったと見てとれます。

 一方、スタックした装甲車の前に丸太を並べて脱出を試みる映像もインターネット上などで確認できることから、この丸太が泥濘地から抜け出すために使われるというのは間違いありません。

自衛隊の戦車も丸太積むの?

 このように、ロシア軍では丸太を簡便な悪路脱出器材として用いていますが、自衛隊では使っているのでしょうか。その答えは「Yes」です。

 たとえば、北海道の東千歳駐屯地に所在する第11普通科連隊の73式装甲車は、車幅とほぼ同じ長さの丸太を搭載しています。各車両一本しか積んでいませんが、現場の隊員の話だとこれで十分だそう。もし足りない場合は、他の車両から融通してもらって複数本並べるそうです。


車体後部に丸太を積んだロシア軍のT-72B戦車。赤い矢印で指したのが丸太(画像:ロシア国防省)。

 この丸太ですが、自衛隊の戦車にはほとんど積まれていません。74式戦車などは積んでいる姿が見られましたが、90式戦車や10式戦車ではほぼ積んでいません。なぜならば、74式戦車以降の戦車は姿勢制御が可能で、車高を高くすることができるからです。そのため、スタックしたとしても車高を調整することで、自力脱出できるからのようです。そもそも、日本にはウクライナ周辺のような泥濘化する土地はほぼないことから、国内では考慮する必要がないともいえるでしょう。

 ちなみに、この戦車+丸太の組み合わせですが、始まりは戦車を本格的に運用し始めた第2次世界大戦の頃といわれており、当時の写真を見ると車体側面に丸太を積んでいる戦車などを確認することができます。

丸太は防御力強化にも

 このように泥濘地脱出のために用いられる丸太ですが、その一方で違う使い方をする場合もあります。それが防弾です。

 さすがに貫徹力が格段に強力な戦車の徹甲弾は防ぐことができませんが、りゅう弾などなら「ないよりマシ」程度の防護性能はもっています。この他、重機関銃の弾でも「ないよりマシ」です。

 この「ないよりマシ」ですが、兵士たちからすると、案外あるとないとでは精神的に大きな差があるようです。なぜなら、「装甲板ほどの安心感はないが、もしかしたら直撃は避けられるかもしれない」という気持ちの面で大きな要素になったりするからです。

 ただでさえ危険な戦場ですから、藁にもすがるほど助かりたいというのは誰しもが考えます。つまり、丸太は戦場における「お守り」という側面もあるのでしょう。


車体側面に丸太を吊るしたM4A3E8「シャーマン」戦車。第2次世界大戦当時の運用状況を再現している(柘植優介撮影)。

 一方で、この丸太が有効な防弾板になることもあります。それは口径の小さい小銃弾や拳銃弾、そして迫撃砲や榴弾砲などから発射される曵火射撃の場合です。

 曵火射撃とは、地上数十mの高さで砲弾を空中炸裂する射撃方法のことで、おおむね握りこぶし程度の大きさの砲弾の破片を広範囲に飛び散らせ、面制圧する時などに用いる射撃方法です。

 もちろん、撃ち込まれる砲弾の数が多いと丸太は破壊されてしまいますが、1〜2発程度なら丸太でも耐えられる、あるいは人員への直撃は回避できるでしょう。そのためか、今回のウクライナ侵攻に参加したロシア軍トラックのなかには、ルーフ上に丸太を敷き詰めている車体も確認できました。

 このように、戦場で丸太は重宝されるのです。その防護性能は微々たる物ですが、現場の兵士たちの士気を少しでも向上させ、本来の目的である泥濘地からの脱出という点でみれば、立派な装備品のひとつと言えるでしょう。