西岡徳馬「出たら電車に乗れなくなる」ドラマPの予言が的中した『東京ラブストーリー』

「ここのもつ鍋のもつは、においもなくて、プリプリして美味しいんだよ。つい飲んじゃうから、車で動いている俺は、帰れなくなっちゃう。だから、運転してくれる妻と一緒に来ることが多いね。酒は毎日飲みます。まずはビールだね」
そう話してビールを飲み干すのは西岡徳馬。彼が通うJR国分寺駅から数分の「博多風串焼もつ鍋 まる」は、長女の夫が営む店だ。
「長女が2歳になる前に離婚したから、俺には、小さいころに何もしてあげられなかった悔恨があってね。今の家族と長女は仲がいいし、真一郎(店主)とはゴルフにも行く。
この店のお客さんたちでゴルフコンペをやって、ここで表彰式をやるの。再婚してもこんな関係が築けているのは、すごく幸せでありがたい話だよ」
「俳優になられたきっかけは?」と聞くと、「聞いちゃう? 長くなるよ」といたずらっぽく笑いながら、話を続けた。
「小学校1年生から3年生まで、子役をやってたの。親戚の仕事絡みで、子役が足りないからと駆り出されたら、『うまい、天才だ』って褒められて続けちゃった。
でも小学校3年生のとき、俺の喘息の発作が出たせいで、ロケが数日中止になっちゃったんだよ。みんなに迷惑かけたのが本当に嫌で、その場でやめたんだ」
そんな彼が再び演劇の世界に飛び込んだきっかけは、息子に可能性を感じていた、父親のひと言だった。
「高校のころは、あんまり素行がよろしくなくてさ。男子校の硬派でバリバリだったの。高校2年のとき留年しちゃって、面談に来ていた親父が先生と喧嘩になっちゃって、俺の手を引いて『おい、やめるぞ』って(笑)。
親父は印刷会社を経営していたんだけど、『東宝芸能学校』のパンフレットを持ってきて、『お前はこういう道が合っているから、こっちに行け。会社は弟に継がせる』って言われてね」
こうして西岡は「東宝芸能学校」に入学。ここで、西岡の人生を決める恩師と出会う。
「最初の帝劇専属女優だった村田嘉久子さんが講師を務めていて、ものすごく怖くてみんなにダメ出しして、外見は“いじわるばあさん”みたいだった(笑)。
ある日、『西岡さん、あんたね、あんたはいい役者になるよ』と言われてね。今でも覚えてるんだけど、そのときに“いい役者って何?”と思って。あのひと言が大きかった」
それから、演劇を勉強するために高校に編入。大学は新設された玉川大学文学部芸術学科演劇専攻に進学し、2年間演劇漬けの日々を送る。ここでまた、将来を決める“ひと言”に出会う。
「大学に教えに来ていた文学座の演出家に『卒業したらどこへ行くんだ?』って聞かれてね。『劇団雲』か『劇団四季』に行きたいと答えたら『西岡は、いちばん文学座的なんだけどな』って。また、このひと言が決め手になったんだよね」
こうして文学座へ進んだ西岡は、多くの作品に出演。文学座以外でも、蜷川幸雄氏・つかこうへい氏・福田陽一郎氏といった売れっ子演出家から声がかかり、舞台に上がる。
「このときに文学座から、『規約があるから年に3本以上ほかの芝居に出ちゃダメ』と言われて、ちょうどこの世界をすすめてくれた親父も亡くなった。
俺は生来のんびり型で、大学のころのあだ名は『グズラ』。『逃げ場のない、断崖絶壁に自分を追い込まないとダメなんだ』って思ってね。ここからだね、『文学座』という金看板を外した“ただの西岡徳馬”がどこまで通用するのか、本気で頑張ったのは」
一念発起して、文学座を円満退座。33歳のときだった。それから10年後。つかこうへい作・演出の『幕末純情伝』が大ヒット。赤いブラジャーと赤い網タイツ姿で坂本龍馬を演じた西岡は、鮮烈な印象を残す。
「テレビ各局のプロデューサーが観に来て、フジテレビに呼ばれてね。『鈴木保奈美さん主演の東京ラブストーリーというドラマがあって、彼女が不倫をして妊娠しちゃうんですよ。鈴木さんを妊娠させる男は誰がいい? と役者さんを探していたところ、坂本龍馬を演じていた西岡さんに白羽の矢が立ったから、ぜひやってほしい』と言われてね。
『鈴木保奈美を妊娠させてもおかしくない男って……本当かよ』って(笑)。『ただし、このドラマに出たら電車に乗れなくなる』って言うから、ずいぶん大袈裟だなって思ったんだけど、実際そのとおりになったね。
ドラマの打ち上げで局のお偉いさんたちに『車は何に乗っているんですか?』って聞かれたから国産車名を答えたら『国産、なんですか』って言うんだよ。
腹が立ったから、『中古でもいいから、ベンツを買おう』と思って探しに行ったときに巡り合ったのが、新古車のジャガー。それからずっとジャガーに乗ってたよ」

高校時代は、男子校の硬派でバリバリだった
“国民的人気ドラマ”への出演でテレビドラマへのオファーが殺到。一日3本収録することもあったという。2年ほど映像作品に専念したあとの舞台出演時には、こんなことが。
「『西岡さんは、舞台もやられるんですね』って言われてね。俺は舞台出身なのに、逆になっちゃった。もうびっくりだよ。『テレビに対する認識ってすごいな』って思ったね」
彼の印象をさらに変えたのが、大晦日恒例のダウンタウンの『絶対に笑ってはいけない』シリーズで、吉本新喜劇のすっちーと吉田裕のネタ「乳首ドリル」を熱演したことだ。
「当時はセリフが多い舞台の稽古もあって、箸休めに『すな! すな! すな!』って練習して。本番一発勝負だし、彼らを笑わせなきゃいけないから、思いっきりやってくれって(すっちーに)言ってね。
そりゃ、ものすごい痛かったよ。しかもあれ以来、新幹線のホームで『あっ! 乳首ドリルだ!』ってよく言われる(笑)」
ヤクザの親分に主人公の父親、そして乳首ドリル。どれが本当の西岡徳馬なのか?
「自分でも、よくわからないんだよ、どれが本当の俺なのか。カメレオン俳優だね、俺は。でも俳優って化けるものだし、一回一回、いろんなものに化けたいと思って演じている。いろんな人生にいけるから楽しいよね。
バラエティもそう。客を相手にパフォーマンスするんだから、アカデミックな舞台もお笑いも、全部エンタテインメントだと思ったら、なんでもできるなって思ったの。
文学的なとこも、狂気的なとこも、コメディチックなとこも全部俺の中にある。内在しているものがあるから、それを自分の中から引っ張り出す。だから、どれも本当の俺なのかな」
「やれることはなんでも挑戦したい」と話す西岡。今年で芸能生活50周年を迎え、CDデビューを果たした。
「これまでいろいろな人に『歌を出せ』って言われてきたんだけど、『仲間内で歌うだけでいいよ』って言ってきたの。でも2020年は50周年だから、出してみるかってことでね。作曲は古い友人の鈴木キサブローさんに、作詞は信頼する作・演出家の福原充則さんとG2にお願いしてね。
『だろ?』は、同窓会に出席すると老けちゃった友人が多いから、まだまだイケるぜ、頑張ろうぜっていう応援歌。『娘に乾杯』は、下の娘(女優の優妃)が、そろそろ結婚しそうでね。
結婚式で花嫁の父親は、挨拶するタイミングがないでしょ。だから、『大事に育てた娘をよろしくお願いします』という想いと、ふだんは言えない娘への気持ちをこめて、歌詞の一部を考えました」
子煩悩で知られる西岡は、すっかり父親の顔に。「焼酎のお湯割りをお願い」。こう店主にオーダーした声には、「娘が世話になっています」という感謝の気持ちがこもっていた。
にしおかとくま
1946年10月5日生まれ 神奈川県出身 玉川大学文学部芸術学科演劇専攻卒業後、1970年に文学座に入座、1979年退座。蜷川幸雄・つかこうへい演出の舞台、ドラマ、映画など多方面で活躍。1991年に出演したドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)が大ヒット。『過保護のカホコ』(日本テレビ系)、映画『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』(2019年)など出演作多数。徳間ジャパンより『だろ?』C/W『娘に乾杯』が発売中
【SHOP DATA/博多風串焼もつ鍋 まる】
・住所/東京都国分寺市本町2-15-5 第3東財ビル3階
・営業時間/18:00〜23:00(L.O.22:00)
・休み/日曜
写真・野澤亘伸
(週刊FLASH 2020年12月15日号)
