船としては格別な高速性能を持つジェットフォイルが25年ぶりに新造され、東海汽船の伊豆諸島航路に就航。離島の足として欠かせないジェットフォイル、国内の船体はどれも老朽化が進んでいます。東海汽船に続く動きはあるのでしょうか。

老いるジェットフォイル 技術者も老いていく

 東海汽船が東京〜伊豆諸島航路へ、新しいジェットフォイル「セブンアイランド結(ゆい)」を2020年7月13日(月)に投入します。これは、国内では25年ぶりとなる新造のジェットフォイルです。

 ジェットフォイルは、水中翼によって船体を海面から完全に浮上させて翼走する超高速船で、80km/h(43ノット)以上での航行が可能です。もともと、ボーイングが航空機技術を駆使して開発し、川崎重工がその製造および販売権を引き継ぎ、1995(平成7)年までに15隻を建造しましたが、その後は製造を中止していました。


東海汽船「セブンアイランド結」(2020年7月、中島洋平撮影)。

 内航海運事業者による船の建造を支援する、鉄道・運輸機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)によると、2020年7月時点で国内7航路、21隻のジェットフォイルが運航されていますが、いずれも製造から年数が経過し、その置き換えが課題になっているといいます。この25年間、運航事業者は船齢の若い中古船を購入して若返りを図るなどしてきたものの、もはや老朽化への対策は待ったなしの状況です。

 一方、いまでは世界唯一のジェットフォイル製造企業である川崎重工においても、25年という期間を経て、その技術伝承が課題に。「セブンアイランド結」の建造にあたっては在職中のベテランに加え、かつてジェットフォイルに携わっていたOBも招集したそうです。

 いま造らなければ、その技術も部品の調達ルートも途絶えてしまう――そのような認識が東海汽船と川崎重工とで一致したからこそ、「結」の建造につながったといいます。

1隻51億円 新たな建造の動きも

 ジェットフォイルの置き換えが進まない最大の要因は、その価格です。「結」の建造費は51億円で、資材の高騰もあり25年前よりもかなり高額になっています。

 東海汽船は今回、鉄道・運輸機構が内航海運事業者と費用を分担して船舶の建造を共同発注する「共有建造制度」を使い、さらに東京都が建造費の45%を支援しています。鉄道・運輸機構によると、東京都の支援があってこそ、「結」の建造にこぎつけたとのこと。

 ただ、ジェットフォイルの基幹的な推進システムであるウォータージェットの生産再開は、1隻だけの発注では難しい状況です。新造ジェットフォイルの発注数を確保すべく、運航各社と話し合っていたものの、価格がネックになり難航。そこで「結」については、川崎重工が修理用などで用意していた既存のものが準用されました。

 そして、ここへきて「次」の動きが出てきました。

 新潟の佐渡汽船がジェットフォイルの新造を計画中です。新潟〜両津(佐渡市)航路で3隻のジェットフォイルを運用していますが、同航路へ新造船を投入し、既存船により同社の直江津(上越市)〜小木(佐渡市)航路でもジェットフォイルを運航する予定だといいます。


佐渡汽船の直江津〜小木航路に就航する高速カーフェリー「あかね」。今後売却される予定(画像:佐渡汽船)。

 直江津〜小木航路では2015年、北陸新幹線の開通による観光需要への期待もあり、新造の高速カーフェリーが投入されています。しかし、初年度こそよかったものの、その後は赤字に。様々な対応策を検討するなかで、この高速カーフェリーを売却し、さらに速いジェットフォイルを投入するという結論に至ったとのこと。

「この航路では以前にもジェットフォイルを運航しており、港の岸壁もそれに対応しています。また当社は自前のドックを持つため、ジェットフォイルは整備の面でも有利です」(佐渡汽船)

 ジェットフォイルになればクルマを載せることはできなくなりますが、時間短縮によるサービス向上を図るとしています。直江津港に自家用車を停め、小木港からレンタカーやバスで佐渡島内を周遊、といった利用が考えられるとのことです。

建造費支援はさらに充実 それでも…

 鉄道・運輸機構によると、「速い船」としてのジェットフォイルの有用性は、国も認めるところだといいます。運航時間が短縮されることで、ほかの交通との接続もしやすくなり、観光の活性化にもつながるとのこと。また、医療が不十分な離島から本土の病院へ患者を素早く運べるほか、伊豆諸島の場合は災害時にすぐ島から避難できる小回り性能の良さなどが、東京都による「結」の建造費支援につながりました。

 同機構はジェットフォイルの置き換えを推進すべく、2020年度からは、建造費に対する共有比率(支援額)の上限を一定の条件のもと70%まで引き上げるなど、制度の充実を図っています。「さらに自治体が20%を支援し、事業者の負担は10%」という枠組みだといいますが、それでもやはり、事業者や自治体にとっては価格がネックになっているといいます。


「セブンアイランド結」のコックピット。計器類はフルデジタル化されている(2020年7月、佐々木基博撮影)。

「新造船はバリアフリー対応になるため、船内環境はよくなり、運航面では最新のレーダーなども搭載され、操船もしやすくなります。現在、船舶業界は船員も船そのものも高齢化が進んでおり、ましてや特殊な船であるジェットフォイルは、その技術者までもいなくなりつつあります」(鉄道・運輸機構)

 なお、佐渡汽船もジェットフォイルの新造にあたり、鉄道・運輸機構の共有建造制度を活用するとのことですが、新型コロナの影響もあり契約などが遅れているとのこと。投入時期は未定だそうです。

25年ぶり新造ジェットフォイル「セブンアイランド結」を動画でチェック!