ソフトバンクの5Gの強みは「先行して取り入れた技術」と「グループシナジー」 “気が付けば便利な時代”を創る

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来春からの5Gの本格サービス開始に向け、各社のプレサービスが続々とはじまっている。

ソフトバンクは他社に先駆けて、
7月に「FUJI ROCK FESTIVAL '19」
8月に「International Basketball Games 2019」
この2つのイベントで、5Gのプレサービスを実施している。

5G(ファイブジー:5th Generation)とは、移動体通信における第5世代の通信システムのこと。
・高速かつ大容量
・低遅延
・多接続
これらが大きな特徴とされている。

5Gは、実際に、我々の生活をどのように変えていくのだろうか?

・5Gで目指す世界
・5G時代に向けた取り組み
本格サービス開始前の各社に迫ってみたい。

第3回はソフトバンクでモバイルネットワークを担当する
・モバイルネットワーク本部 本部長 野田真氏
・モバイルネットワーク本部 ネットワーク企画統括部 技術企画部 部長 浅倉智一氏
のお二人に、ソフトバンクの5Gの取り組みや、5Gで注目する点などを聞いた。


■5Gシステム3つの特徴についての見解
連載第1回目のNTTドコモ編でも触れたが、通信システムの世代変更は、前世代の通信システムと併用しながら、次第に新システムに移行していく手法がとられている。

5Gにおいても現行の第3.X世代や第4世代と併用しながら、次第に5Gシステムへと移行する。

また5Gシステム自体も、段階的に高度化し、フルパフォーマンスへと変化させていく。
そのため、5Gのサービスが開始されたからといって、突然、ガラっと世界が変わるわけでない。

野田真氏は、
「“変わる”という語感から得る印象としては、あるときを境にガラッと変わるイメージを抱かれる場合もあると思いますけど、そういうことだけを期待されると難しい。」
こう断ったうえで、5Gの3つの特徴とされている「高速・大容量、低遅延、多接続」についての見解を語ってくれた。



モバイルネットワーク本部 本部長 野田真氏

野田真氏によると、「高速・大容量」が5Gでどのように社会や環境が変わるのか?
それは、今よりもリッチなコンテンツが増えることだという。

高速・大容量化することで、映像の画質が現状よりもよくなることだけでなく、VRやAR技術を導入したコンテンツが浸透していくのではないかと指摘する。

野田真氏
「5年後、10年後に過去を振り返ったときに、
『普通にVRを見るようになったね』
だとか。

今ARと聞くとポケモン(Pokémon GO)などのスマホゲームを思い浮かべるかもしれませんが、よりリアルなポケモンのようなゲーム、サービス、アプリが、もっと普及している世界が5Gによってもたらされると思う。」

一方、低遅延や多接続においては、今では想像もつかないほど世界が変化する可能性があるという。

野田真氏
「超低遅延でいうと、自動運転に要素技術として使われる部分もあります。また、ロボットの遠隔制御にも必要不可欠な要素でもあります。

何かモノが自動的に動作していて、人間の代行をするようになる世界が、5Gのインフラのお陰でできるようになるかもしれません。
多分、今は想像できないくらい普及している可能性があります。

多接続でいうと、人間がひとり1台とか2台とか持っているようなモノじゃなくて、あらゆるモノに通信モジュールが入っていて、それによってビッグデータとして処理されて。

気付かないうちに、人々の生活を今よりも便利に、快適にするようなサービスが、当たり前のようにあるかもしれません。」

5Gの普及によって、今では想像できないほどの技術やサービスの広がりを期待できるが、それは、やはり振り返ってみてから実感できるものだという。

野田真氏
「5年後や10年後に、5年前、10年前を振り返ると、とても想像しなかったようなものが、5Gインフラによって、普及している世界になるのだろうなと思っています。」


■いつの間にか世界が変わっている
5Gの普及において、アンテナな基地局の整備だけではなく、技術的な観点からも1〜2年で完成に至るものではない。数年かけて成熟していくものだ。
また、IoT(Internet of Things)やAI、XR(ARやVRの総称)をはじめとする5Gシステムを取り巻く技術の進化も重要だ。
これらも数年かけて成熟し、さまざまなサービスに活用されることになっていく。

つまり、5Gを語る上では、5Gの技術やエリア構築だけではなく、5Gシステムを利用したさまざまな技術の進歩とサービス提供がセットになる。
5Gによる社会の変化とは、こうした複合的な変化で起こると認識しておかなければいけないのだ。


モバイルネットワーク本部 ネットワーク企画統括部 技術企画部 部長 浅倉智一氏

浅倉智一氏
「2Gから3Gの世界は、音声中心の時代でした。3Gから4GでYouTubeに代表されるような映像サービスが多く利用されるようになりました。

今考えると音声中心の時代は、聴覚の距離を縮めてきたと思います。3Gから4Gにかけては、どこでも映像を見られるようになったという意味で、視覚の距離を縮めてきたと思います。

5Gになったらどうなるのかというと、野田が言うように『いつの間にか世界が変わっている』と思うのですけど、聴覚も視覚も含めて五感すべての体感が、何か違ったものになってくるのではないかなというおぼろげな想像をしています。」

野田真氏
「ざっくり言うと、臨場感がレベルアップするようになると思います。そうすると何かコンテンツを楽しむこと自体もそうですし、コミュニケーションそのものも、すぐ横にいるような感覚になるのではないかと思います。

例えば、ネットワークを介して遠隔地の人同士が一緒にライブを観に行くことや、野球を観に行くことが、横にいるような感覚で楽しめるということです。

かつては用件を伝えるためにやっていたコミュニケーションが、時間や場所を問わず会っているような感覚でコミュニケーションができるようになるだろうと思っています。

しかし、5Gをサービスインしたタイミングで突然そうなるわけではなくて、アプリケーションも含めたサービスがじわじわ広がっていく中で、
『そう言えば(ネットワークを介して)一緒に野球を観に行くことが普通になったよね?』
みたいな会話が、いつの間にかされていると思います。

インフラは我々が一生懸命、5Gに変えていきますので、それに対応した端末だったり、サービスだったりが普及していくにしたがって、
『いつの間にかこんなことできるようになったね』
というイメージを持っています。」


■サービスの品質が大きな課題
5Gを普及させるための課題は、NTTドコモやKDDIにインタビューを試みた際にも、
・サービスエリアの展開
・料金の設定
・端末の種類や価格
これらのキーワードが登場した。

また、5Gシステムを活用したサービスにおいては、個人ユーザーだけではなく、IoTなどと組み合わせたビジネス用途や、産業向けサービスの発展も重要になってくることが垣間見えた。

ソフトバンクでも、個人利用に加え、産業向け利用が増えることを想定している。
この点については、これまでと異なる大きな課題だという。

野田真氏
「スマートフォンが4Gから5Gに変わって、回線を売っていくだけであれば、料金も今の延長線上にあると思います。
けれど、特定の企業向けに提供するサービスがあって、それに対して5Gの要素技術がインフラとして加わっている場合の料金付けは、単なる回線販売のような月額いくらという形態とは違ってくるものになると思います。
そこは本当に、ビジネス上の課題であると思っています。」

浅倉智一氏
「産業を支えるという意味でいうと、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)が重要だと思っています。

例えば、工場の運用が止まったら困ることは多々あると思う。
5Gベースのインフラを利用するということは
『5Gが止まってしまったら困る』
ということなのです。」

通話を含めたモバイル通信が生活インフラとなった現代でも、
通信障害など通信がストップしてしまうことは許される状況ではない。
それでも、機器の故障やイベントなど混雑した場所では、通信や通話がしづらくなる事態が少なからずある。

個人利用であれば、少し待つ、移動して違う場所から再接続を試みる、といった方法でトラブルに対応することができる。

しかし、これが産業向けに利用されるネットワークになると、話は大きく異なってくるのだ。

浅倉智一氏
「産業を支えるネットワークだと、
人の命に関わることがあるかもしれない、
工場の操業が止まってしまうこともあるかもしれない、
これまで以上に高いサービスレベルが求められると思っています。

我々が経験してこなかったSLAを求められると思っていて、大きな課題だと認識しています。」


■止まらないネットワークを構築するために
ソフトバンクは2018年12月6日、エリクソン製のパケット交換機(MME:Mobility Management Entity)のTLS証明書の期限切れにより、全国で約3060万回線に影響を与える大規模な通信障害を発生させてしまった。


野田真氏(手前)と浅倉智一氏(奥)

野田真氏
「昨年の冬に大きな障害を起こして、とにかくサービスを止めない対策や強靭化レベルをどんどん上げていっています。

昨年12月の件に関しては、MMEという交換設備を、今まで四重化していたものを、そのさらに倍の八重化対応にして堅牢性を高めています。納入ベンダーも1社から2社に増やして冗長性の確保も、2倍、4倍、8倍という感じでやっています。」

一方で、災害対策の強化も取り組んでいるという。

2011年3月11日に発生した「東日本大震災」の経験から、ソフトバンクは、それ以降の災害対策や災害復旧の対応スキームを迅速化してきた。

2019年9月9日に通過した台風15号の影響により、千葉県の大規模停電が長引いている状況においても、ソフトバンクの社員や取引先の応援部隊に呼びかけて、延べ3000人以上が動き、エリア復旧をとにかく早めようと取り組んだという。

過去の教訓から、ネットワークサービスをとにかく保持するという取り組みは、確実に進化し、充実しているそう。

野田真氏
「2Gや3Gの頃に比べると、あそこの携帯がつながらない、ここの携帯がつながらないというものをどんどん潰しています。それ以外にも、総務省が定める重大事故に該当するようなものも10年前に比べると、もの凄く減っています。

過去からさかのぼると、もの凄く色んな対策をやってきていますので、世代が上がるごとに堅牢性はどんどん上がっています。

5Gシステムの作り方も、災害対応も含めて、さらにレベルアップして作っていきます。そんな中でも、SLAをサービスごとにきっちり決めるというのは、確かにきめ細かく、今まで以上にやらないといけない課題ですね。」


■他社に負けないネットワーク構築とアドバンテージ
ソフトバンクには、現在サブブランドとしてワイモバイルがある。かつて、デジタルホンからはじまった通信キャリアが、ジェイフォン(J-PHONE)、ボーダフォン(Vodafone)を経てソフトバンクになった一方、イー・アクセスとウィルコムを前身とするワイモバイルを吸収合併した後、ソフトバンクのサブブランドとして展開している。

こうした複雑な歴史的背景が、実は他社にはない強みになるという。

野田真氏
「ネットワークの話ですと、既存の基地局に5Gの無線機を追加するのが、もっとも早く5Gを展開する方法になるのですが、その既存基地局の場所数が他社に比べて当社は、イー・アクセスやウィルコムをグループに加えてきた歴史のお陰で、たくさんのロケーションを持っています。全国23万カ所ぐらい持っているので、そこを活用して5Gの展開が、より早く充実してできるのはひとつの武器だと思っています。

そのほかに、これも技術的なことですが『Massive MIMO(マッシブ マイモ)』という、混雑している場所でも、ひとりひとりのお客様に対するスループットが低下しない、電波を効率的に使う技術があります。

これは5Gの要素技術って言われていますが、我々は3年前、4Gからその技術を導入しています。お客様がたくさんいるところに、ビームをたくさん向ける技術ですけど、その制御がもの凄く難しいです。

そういった技術的な運用ノウハウを我々は3年前から学習して溜めてきているので、Massive MIMOという技術を使って効率的に5Gの面を作りかつ、それを運用する技術に、他社よりも長けているという自負があります。」

さらに、ソフトバンクグループ内のソフトバンク・ビジョン・ファンドが、AIなどを活用したビジネスモデルの企業に、世界規模で投資している点も強みだという。

野田真氏
「世界中のAI活用のサービスモデルというものを、いち早く日本に持ち込めることで、それがソフトバンクの5Gインフラと結びついているというのが、他社にはない強みです。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資した、世界の企業の技術やサービスを我々が活用するだけではなく、投資された企業群も、日本に参入しやすいという相乗効果があるので、そこはドコモやKDDI、あるいは楽天モバイルに比べて、ソフトバンクとしてのアドバンテージになるのではないかなと考えています。」


■想像もできないくらい便利な世界に
冒頭で触れたように、ソフトバンクは他社に先駆けて、7月と8月にプレサービスを開始している。技術面やサービス面において一定の成果は果たせたというが、そのソフトバンクでも、将来の5G像を具体的にイメージするのは難しいという。



野田真氏(奥)と浅倉智一氏(手前)

野田真氏
「あらゆるものが想像もできないくらい便利になっているのだろうと、それが5Gの世界だと思います。

繰り返しになりますけど、5年経って、あるいは10年経って振り返ったときに、『そういえば昔はこんなことできなかったよね?』というものだと思います、実際には。

プレサービスでやったのは、わりと近い未来でもしかしたら未来が変わるかも?という一例で、VRやARで、スポーツや音楽を楽しむことが普通になる世界は5Gの時代にはあるのかなと思います。」

浅倉智一氏
「キーワードになってくるのは、臨場感だと思います。今まで体感できなかったものが、遠くにいても体感できる、臨場感があるものが体感できる、ここが今までと大きく変わってくるのだろうなと思っています。

それがどんな世界になるのかっていうのは、我々も逆に楽しみだなと思っています。」


取材時点では、決まっていても具体的に言及することができない内容はもちろんあったと思われる。しかし、将来的に過去を振り返った際、こんなことができるようになったね?それは5Gのお陰だね。と言える未来は、確実にやってくるだろう。

モバイル通信キャリアとして、複雑な歴史を持つソフトバンクだが、過去の買収や吸収合併が強みとなり、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて、世界中の企業に投資している点も、他社とは大きく異なる強みだ。

そんなソフトバンク5Gの展開に、今後も注目していきたい。

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執筆:2106bpm