コクヨ「大人キュンパス」公式ページより

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 便利なデジタルツールが増えているなかで、さぞかし文具業界は苦戦しているに違いないと思ってみると、そんな仮説は一気に吹き飛ぶ。

 書店の文房具売り場では、平日というのにビジネスパーソンが足を止め、老舗文房具専門店のリニューアルオープンのニュースは後を絶たない。

 いま、文房具が存在感を増しているように感じるのはなぜか。

 「文房具屋さん大賞2017」を受賞したコクヨ「大人キャンパス」の発売は2015年1月。17年は販売数で前年比80%増を記録し、累計販売数は410万冊に上っている。

 国内の文房具市場は、08年秋のリーマン・ショック以降、一度は落ち込んだが、個人向けの需要が伸び、ここ数年は4600億円規模で推移している(矢野経済研究所推計)。中でも筆記具は、高付加価値品を中心にヒット商品が生まれている。

 イノベーションとは無縁に見えるローテク分野で、世界を驚かす技術革新が起きている。ITやバイオなどの先端分野と異なり、革新を起こしている主役はいずれも日本企業である。ローテクイノベーションをモノにすれば、日本の製造業が生き残る確率は大きく高まる。

 完全に時代遅れとみなされてきた技術が、再評価され一躍脚光を浴びるケースもある。最近は使い方を知らない子どもも多いというビデオテープ。そこに使われてきた「磁気テープ」がその典型である。

 データを記録するメディアの代表格といえば、ハードディスク駆動装置(HDD)。しかし、磁気テープは、コスト安と長期保存性でHDDをはるかにしのぐ。運用にかかる総費用は数分の1、寿命は10倍に達する。

 ただ、磁気テープには大きな弱点が二つある。一つは、データにアクセスするまでに時間がかかる点。もう一つが、保存できるデータ容量が限られていたことである。

 一見地味ながら、着実にノウハウを蓄積してきたローテク分野のイノベーションが、今後も日本の製造業が生き延びる突破口になるはずである。
(文=上野延城・日本経営士会)