【FC東京】データが示すエースの偉大な功績。武藤ロス症候群に陥る危険も
【J1 PHOTOハイライト】1stステージ・17節
そうした風景が物語っていたように、武藤が渡独前のラストゲームは一種異様なムードに包まれていた。「よっち(武藤の愛称)のために」(東)という特別なパワーが宿ったFC東京は、技術や戦術よりも“気持ち”で清水を寄り切った印象が強かった。個々のパフォーマンスを見ても、いつも以上に気合いが入っている選手が少なからずいた。
一方で引き立て役になりたくなかった清水は、武藤に気を取られすぎていた。このアタッカーにだけは仕事をさせまいと“一点集中”に近いディフェンスが仇となり、他の選手を比較的フリーにした結果、東や前田にノーマークの状態からあっけなくゴールを叩き込まれた。
巡ってきた決定機をしっかりとモノにした東と前田のシュートテクニックは確かに素晴らしかったが、誤解を恐れずに言えば、この日のFC東京は武藤のおかげで勝てたのだろう。
スタジアムに詰めかけた観衆は、4万1363人。FC東京のホームゲームで今季三度目の大入りになったのも、“武藤効果”があったからに他ならない。
スタジアムは紛れもなく最高の雰囲気だったが、ただ、会場のボルテージが高まれば高まるほど記者のなかで膨らんでいったのは不安だった。
Jリーグ屈指のスター・武藤が清水戦を最後に移籍するFC東京は、今後どうなってしまうのか。果たしてエースなき青赤軍団を観るために、どれほどの人たちが第2ステージで味の素スタジアムに足を運ぶのだろうか。
つまり、危惧されるのは武藤ロス症候群だ。確固たるエースがいなくなった喪失感を引きずり、チームが第2ステージで失速する事態になると、サポーターもメディアも一気に冷めてしまう。結局は武藤頼みだったのか、と。
クラブ関係者のひとりは「今季ここまでのFC東京は、組織の上に武藤が乗っている感じ。彼が抜けても、そこまで大きな心配はない」と言うが、第1ステージのトラッキングデータが示すのは武藤の極めて高い貢献度だ。
チーム内ランク
●総走行距離
<17試合トータル>
1位 武藤 191.37?
2位 太田 167.13?
3位 梶山 163.19?
<1試合平均>
1位 武藤 11.26?
2位 梶山 10.88?
3位 米本 10.33?
●スプリント回数
<17試合トータル>
1位 武藤 453回
2位 太田 241回
3位 徳永 233回
<1試合平均>
1位 武藤 26.6回
2位 河野 18.3回
3位 石川 16.2回
どの項目も断トツで武藤が1位。そんなデータから推察できるのは、FC東京のカウンター戦術は“武藤ありきの戦い方”なのではないかということである。
武藤の縦への推進力、圧倒的なスピード、さらに前線からの献身的なプレッシングがなくなっても、FC東京が第1ステージと同じスタイルで戦えるかは疑問だ。裏のスペースを活かすサッカーを実践できたのは、カウンターの終着点となる武藤が存在したからであり、その終着点を失った途端、チームが混乱する恐れは十分にある。
仮にスピードを重視するなら、武藤の憧れの先輩・石川を前線の軸にする選択肢はある。ただ、攻撃はさて置き、このベテランに守備面で武藤レベルのタフな仕事を要求するのは酷だろう。
またポストプレーヤータイプの前田や平山にしても、武藤ほどの局面打開力はない。
たとえ優秀な助っ人を補強したとしても、戦術に馴染むまでに相応の時間がかかるはずだ。いずれにしても、若きエースの抜ける穴は大きい。
「Jリーグで最高の1年半を過ごした」と笑顔で語った武藤、清水戦の勝利で2位に浮上したFC東京。大団円を迎えたように見えるが、迫りくるクライシスへの対応策を考えなくてはいけない。少なくとも、「よっちのために」をカンフル剤にして戦うことはもうできない。
第2ステージ開幕(7月11日)まで時間は限られているが、フィッカデンティ監督、そして選手たちは再開初戦──川崎との「多摩川クラシコ」でどんな答を出すのだろうか。
この日の異様なムード(超満員のスタジアム、ごったがえすメディア)を通常の風景にするには、第2ステージの最終節まで覇権争いをする必要があるだろう。内容はともかく勝ち星を積み上げることで、武藤ロス症候群に陥る可能性は低くなる。
取材・文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)

