北里大学附属順天中学校・高等学校/写真提供:ONETES(旧・首都圏模試センター)


 財務省は4月、財政制度等審議会の分科会で、2024年時点で624校ある私立大学について、2040年までに少なくとも250校程度の削減が必要だとする案を示した。いわゆる「私立大学4割削減案」として大きな話題を呼んだ。

 18歳人口の減少が今後も続くなか、私立大学にとって学生確保はますます重要な課題となる。そのため、この議論は「私立大学が生き残りをかけて高校を囲い込む動き」と結びつけて語られることもある。

 一方、中学受験の世界に目を向けると、この数年、私立中高一貫校と大学との高大連携や教育提携、さらには大学の付属校化・系属校化の動きが急速に広がっている。そうした話題で注目された私立中学校の人気が高まるケースも目立つ。

 なかでも、有名大学や医学部を持つ大学との付属校化・系属校化は、受験生の家庭や塾業界にとって大きなインパクトがある。中学入試でも人気と難易度が一段と高まる傾向にあるといえるだろう。

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明治、法政、順天堂、北里…相次ぐ「高大連携」のインパクト

 2024年4月には、宝仙学園中学校・高等学校(東京・中野区、共学校)が順天堂大学医学部と系属校協定を結び、紹介時の通称名を「宝仙学園 順天堂大学系属理数インター中学校・高等学校」に改めた。

 同校は、大学進学実績を年々高めてきたところに、順天堂大学医学部への推薦入学という新たな進路の道が加わった。さらに2025年からは、中高で「医学進学コース」を立ち上げている。

 中学入試では、10年ほど前から導入したプレゼンテーション型の「リベラルアーツ入試」や、通称名を入試名に冠したグループワーク型の「入試『理数インター』」など、多様な新タイプ入試を展開してきた。いまでは「日本一入試の種類が多い私立中学校」と堂々と謳い、ユニークなバックボーンを持つ小学生を受け入れている。そうした同校に、「医学部への進学」という、もうひとつの進路の選択肢が加わったことになる。

 2026年には、順天中学校・高等学校(東京・北区、共学校)が、北里大学を経営する北里研究所と法人合併することで合意し、付属校となることを前提に、校名も「北里大学附属順天中学校・高等学校」に変更している。

 順天中高は、もともとグローバル教育や理系教育に定評があり、その成果も年々高めてきた。そこに医学部への推薦進学の道が開けたことで、新たな魅力が加わった。

 同じく2026年4月からは、日本学園中学校・高等学校(東京・世田谷区、男子校)が明治大学の付属校となった。共学化と同時に、校名も「明治大学付属世田谷中学校・高等学校」と改めている。

 明治大学の付属校化の予定は、2年以上前から公表されていた。そのため、今春の共学化を待たず、男子校であった日本学園中学校の人気と難易度は、3年続きで急速に高まった。

 さらに来春2027年4月からは、東京家政学院中学校・高等学校(東京・千代田区、女子校)が法政大学の系列校となる。校名も「法政大学千代田三番町中学校・高等学校」になる予定だ。3月末に公表されて以降、2027年入試での注目校となっている。

法政大学千代田三番町中学校・高等学校(仮称)/写真提供:ONETES(旧・首都圏模試センター)


 ただし、法政大学の系列校になることに伴い、女子校であった東京家政学院中高が共学化するかどうかは、現時点では未公表である。法政大学への推薦進学の割合の見通しなども明らかになっていないため、今後の情報発信が注視されている。

「大学の囲い込み」ではなく中高の進路拡大につながるウィンウィンの関係

 こうした動きは、私立大学の「高校囲い込み」として語られることもある。財務省が示した私立大学250校削減案と結びつけ、「私立大学が生き残りをかけて高大連携を進めている」という文脈で受け止められている面もあるだろう。

 しかし、中学入試に長く関わってきた当社ONETES(旧・首都圏模試センター)や多くの中学受験関係者の見方は少し異なる。少なくとも現時点で目立っている動きは、「私立大学の生き残りのための高校囲い込み」というより、「私立中高の生き残りのための教育改革」という側面の方が強いと考えられる。

 しかも、それは決してネガティブな動きではない。中学受験生と保護者から見れば、「選べる進路と教育環境の多様化」にほかならないからだ。多くの中学受験生の家庭や塾関係者は、この動きを歓迎していると見てよいだろう。

 仮に大学側に「私立大学の生き残りのための高校囲い込み」という意図があったとしても、首都圏の中学入試で顕在化しているケースは、経営難や学生募集ですでにピンチを迎えている私立大学によるものではない。安定した人気を集める総合大学や、医学部という強い専門性を持つ大学との連携が中心である。

 その意味では、この3〜4年に見られる私立中高一貫校の大学付属校化・系属校化は、大学側からすれば「より優秀で意欲的な学生を確保するための募集・広報活動の一環」といえる。

 一方、私立中高にとっては、生徒が中高在学中の早い時期から大学での学問・研究の一端に触れられる機会になる。それによって、自らの進路を考え、中高時代の学習へのモチベーションを高めることにもつながる。つまり、双方にとって「ウィンウィン(win-win)」の関係にあると考えてよいだろう。

 もちろん、こうした大学付属校化・系属校化については、「生徒の進路選択が早期に固定化される懸念がある」という指摘も一部にある。

 しかし、先に挙げた私立中高一貫校は、いずれも、もともと系列大学を持たない中高のみの、いわゆる「進学校」だった。系列の東京家政学院大学を持つ東京家政学院中高も、他の国公私立大学を受験し、他大学を目指すことができる「半進学校」であった。

 したがって、「生徒の進路選択が早期に固定化される」と見るよりは、これまでの進学校としての進路に加え、系列大学への推薦進学の道も開けたと捉えるべきだろう。進路を狭める改革ではなく、むしろ進路を広げる学校改革と見ることができる。

定員割れや「リメディアル教育」を迫られる地方大学の苦境

 ただし、こうした見方は、私立中高一貫校が全国で最も数多く存在し、中学受験率も非常に高い首都圏、特に東京都だからこそ成り立つ面があるかもしれない。

 中学受験が盛んな首都圏や京阪神エリアを除けば、かなりの大都市であっても、少子化による募集活動の難しさや定員充足に苦心している私立中高は少なくない。その苦労は、首都圏の比ではないのが実情である。

 こうした地方の私立中高と、同じく少子化による学生募集に苦労している私立大学との間では、今後、「私立大学の生き残りのための高校囲い込み」と見られる動きが増えていく可能性は高い。

 その一方で、すでに定員割れしている、特に地方の私立大学のなかには、義務教育や中等教育で学ぶような内容の授業、すなわち「リメディアル教育=補習教育・学び直し教育」が行われている大学もある。その点が問題視されていることも、もう一つの実情といえる。

1990年代から続く、時代とニーズに応じた付属校の歴史

 本稿では、私立大学250校削減案を背景に、私立大学による高校の囲い込み、高大連携が生き残り策になるという側面からレポートしてきた。

 しかし、中学受験における大学付属校の変化は今に始まったことではない。バブル景気直後の1992年、第1次「中学受験ブーム」の象徴として、慶應義塾大学が同大初の共学の付属校となる慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部を新設した。

 これを契機に、早稲田大学やMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)の5大学でも、それまで男子校だった付属校が次々と共学化に踏み切った。さらに日本大学の付属校の多くも共学化し、優秀な女子の推薦進学者の確保につなげる動きが見られた。その後は、私立女子大学の付属校が女子校から共学化する動きも、最近まで続いてきた。

 これらの動きは、「私立大学の生き残り策」というより、社会の変化や受験生・保護者のニーズの変化に対応するものだった。結果として、優秀で意欲的な生徒、ひいては学生の確保につながっていったのである。

 今後も、私立大学の付属校化・系属校化にまでは至らなくても、近隣にある、あるいは創立の系譜などで何らかの縁がある私立大学と私立中高との間で、高大連携や教育提携が進む可能性は高い。あわせて、推薦入学者を増やす動きも年々広がっていくのではないかと当社では予想している。

 そうしたなかで、これからわが子の中学受験を考える保護者には、各私立中高がどの大学と連携・教育提携をしているのか、そして大学への推薦進学の道がどのように開けていくのかを確認してほしい。

 同時に、私立中高一貫校での学びが、その先の高等教育、つまり大学や大学院での学問研究、さらには海外大学への進学も含めた進路選択にどうつながるのか。さらに、将来の職業選択や国家資格取得にどう結びついていくのか──。そこまで意識して、わが子にとって最良の受験校選択のための「学校調べ・学校選び」を心がけることをお勧めしたい。

筆者:北 一成