歌舞伎座(C)日刊ゲンダイ

写真拡大

 5月の歌舞伎座は團菊祭。昨年は八代目尾上菊五郎とその子、菊之助の襲名披露興行だったが、今年は尾上松緑の子・左近が、三代目辰之助を襲名した。これで子ども世代は、新之助・菊之助・辰之助と揃ったことになるが、3人の共演はまだ先のようだ。

歌舞伎座での尾上菊五郎(八代目)と中村勘九郎の対局的なポジション

 辰之助は、昼は「寿曽我対面」で曽我五郎、夜は「鬼一法眼三略巻」の「菊畑」で虎蔵実は牛若丸で、父・松緑、七代目と八代目の菊五郎、團十郎などが支える。「菊畑」の牛若は見かけは繊細で細いのだが、度胸と気品があり、近い将来の義経に期待できる。

「菊畑」ではラスト近くになって、團十郎が「しばらく、しばらく」と花道に現れると、一瞬にして劇場の空気が変わる。刀を届けにくるだけの役だが、その瞬間だけは團十郎が主役になってしまう。

 團十郎と菊五郎(八代目)は、昼夜にそれぞれ大役を務める。昼は菊五郎が変化舞踊「六歌仙容彩」。5つの舞踊を全て上演するのもたまにしかないが、ひとりの役者が5役を全てつとめるのは、2009年の坂東三津五郎以来。それだけの難役だが、菊五郎はさらっとやってしまうので、それを感じさせない。相手役の小野小町は中村時蔵で、今月も古典の大役に挑んでいる。

 夜の部は團十郎が自身の襲名披露以来の「助六由縁江戸桜」。團十郎の助六は、以前よりもヤンチャさが薄まった感じがする。これまでは年上の役者を相手に遠慮なく暴れまわっていたが、年下の役者を率いる立場になっているためか。助六の前にいろんな人が次々と現れるが、なかでも、尾上右近の通人が、粋で楽しい。

 揚巻は菊五郎(八代目)で、昼の部に続いて大役だ。玉三郎を別格とすれば、團十郎の相手役がつとまるのは、菊五郎しかいない。團十郎・菊五郎が組むのが、大きな襲名と團菊祭くらいなのは残念だが、年に一回だからいいのかもしれない。

 意休は男女蔵で、父・左團次に、声だけはよく似てきた。同じことは「菊畑」で鬼一法眼をつとめた坂東彦三郎にも言える。2人とも、いかにも作った感じの老け役で重量感はないが、声がよく通るのは気持ちがいい。

 七代目菊五郎、中村梅玉といった團十郎・菊五郎の父親世代も健在。客の入りもよく、劇場全体が爽快感に満ちていた。

 (作家・中川右介)

■明治から令和まで、劇界を動かしてきた10大名家の興亡史。世襲と門閥が織りなす波瀾万丈の人間ドラマ。歌舞伎ファン必携の中川右介氏の新刊「増補新版 歌舞伎 家と血と藝」(講談社現代新書)が発売中。