「高学歴って自慢にならない」祖父はデパート経営者、裕福な家で生まれ育った男が【サングラス・焼けた肌・豹柄シャツ】のぼったくりに変身したワケ〉から続く

 祖父は百貨店経営者、本人は高学歴――。そんな“エリート育ち”の男は、なぜ歌舞伎町最大のぼったくりグループを率いるまでになったのか。

《秘蔵グラビア》「ほぼハダカ姿も…」ぼったくりの帝王がホレた『美人女優』

 警察への裏金、ヤクザとの抗争、刑務所での生活……“ぼったくりの帝王”影野臣直が明かした、欲望と裏社会の実態とは? 作家・本橋信宏氏『歌舞伎町アンダーグラウンド』(新潮社)より一部抜粋でお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)


写真はイメージ ©getty

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ポン引きの手口

 ポン引きは客を店に連れ込んでから、「すいません。次につく女の子が生理になってしまって、別の子なら高くなるんですけど、あと1万円出してもらえますか」とカネをつり上げる。ところがいつまでたっても肝心の女の子がこない。

「入会料がいるんです。その代わりモデルクラスがきますから」とまたカネを取る。

 1万2000円を女の子に渡せばあとはいくら客から取ってもポン引きの取り分になる。ポン引きは歌舞伎町で自由に動いて、客を店に誘い込み、やりたい放題やる。客に女の子をあてがうが、女は手でやるだけで、最後まではやらせない。

 まだ客からむしり取れそうだと踏んだら、「六本木からいい女の子連れてきますから、タクシー代、1万円いただけますか」と吹っかける。

 客は一度財布を開けたら最後、発射できるまで払ってしまう。

 よく見るとポン引きはニコニコ笑顔で話しかけるが、目つきが怖いので、客はついポン引きの言い値で払ってしまう。

 80年代前半、フードルとして一世を風靡したイヴちゃんも、静岡から上京して最初に飛び込んだプチぼったくり風俗店が、影野がバイトしていた店だったという。

 キャッチというのは店専属で契約しているいわばフリーランスの業者である。

「お客さん、5000円ぽっきり!」

 歌舞伎町で何か物ほしそうに歩いている酔客にキャッチが「お客さん、5000円ぽっきり!」と声をかけて店に連れていく。ホステスが客の横につき、鼻の下を伸ばしてグラスを干し、いざ会計になると、10万の請求が突きつけられる。

 このとき、客からぼったくったカネの2割はキャッチにバックされる。

 20数年前、歌舞伎町のぼったくり店に友人が連れ込まれそうになり、私があとを追い、結果的に2人で18万円ぼったくられそうになったことがある。熱くなった相棒をなだめ、両者の間に入った格好になった私は、奇跡的に3万円で切り抜けた。

「その店どの辺ですか? うちの系列店かな?」
「たしか、コマ劇場そばで3階にあった……」
「 (小声で)うちに近いなあ」
「『V』という店名だったような……」
「ああ! そこはうちのライバル店」

 稼いだカネは酒と遊びに費やした。

「とにかく遊び好きだから。ゴルフ、野球、アウトドア、女、酒、麻雀、なんでもやります。付き合ってるおねえちゃんは4人」

毎月2300万円の純利益

 歌舞伎町最大のぼったくりグループ、Kグループを率いた影野臣直が、ブラックボックスだったぼったくり店のカネの流れを打ち明ける。

「うちは歌舞伎町で5店舗出してたんですけど、従業員やホステスはみんなその日払いです。日当で払う。残った額が店の儲もうけ。1日で15万残るんです。それが5店舗だから1日75万。かける31日としてだいたい毎月2300万円の純利益になりました」

 仕事は楽だった、と影野はうそぶく。

 元来の人なつっこさから、ぼったくると、被害にあった客と一緒に店で酒を飲んだりからかったりして遊んでいた。

「200万取った客とも遊んでましたよ。だから揉めたこともないし、捕まらなかった」

 警察にもカネをまいた。

 ポーカーゲーム屋を港区のある繁華街で開業した際には、地元警察署の刑事に毎月20万円渡していた。

警察と毎月ゴルフに行く理由

「一度、贈賄で捕まりそうになりましたけどね。警察とはうまくやるように、ゴルフは毎月一緒に回ってました。警察のほうから俺のポケベルに連絡が入るんです。“ポケベル鳴らした?”って尋ねると、『あ、そろそろ月末ですね。一杯やりたいですね』って。カネせびる合図なんですよ。マルボウ(暴力団対策セクション)にもコネクションがあったから。そこから情報が入るんですよ。

『いま、韓国クラブなんだけど、ちょっと顔出してくれない? 紹介したいから』っていうんで出向くと、『ちょっと小遣いもらえる?』っていうからその場で3万渡したりね。家にも電話かかってきて、『急ぎだけど20万貸してくれないか』って。メリットありますよ。少々のことではパクられなかったな。ガサ入れの前には必ず連絡入りますから。『いまから行きますから』って」

 交番の警官にも交通取り締まりの警官にも、現金をつかませる。

「最初ビール券渡すんです。現金渡そうとすると警戒されるから。関越道でスピード違反で捕まったとき、ビール券渡して見逃してもらいました。警察ではビール券が金代わりに流通してたんです。本に挟んで渡すとか、ビール券挟んだ週刊誌を置いておくとか」

 私も取材中にマントル(マンショントルコ)の待合室で制帽を脱いだ若い警官2名がかしこまって座っているのを目撃したことがあった。2人はそれぞれ店側から封筒を手渡され、礼を述べると去っていった。

 店主に尋ねると、意味ありげな微笑を浮かべるだけだ。封筒の中身は感謝状や伝達事項などではなく、ましてやラブレターではないだろう。

日本一のぼったくりグループに

 影野臣直のKグループは毎夜ぼったくりを繰り広げ、遂に歌舞伎町一、ということは日本一のぼったくりグループになった。

 歌舞伎町で暇そうにしている若い女たちがいる。

 男から声をかけられるのを待っているかのようなそぶりである。

 ここは歌舞伎町だ、声をかけてみるのもいいだろう。

 声をかけると、乗ってくる。

 飲みに行こうと誘うと、断らない。

「わたしの知ってる店、行かない? そこなら安心して飲めるし」

 彼女が勧める店に入り、このあと、あわよくばと夢想しながらグラスを飲み干す。

 ほろ酔い、会計になると、20万円の料金が殴り書きされている。

 店と女が組んだぼったくりの一種だ。

ヤクザとの揉め事

「ガールキャッチというんですよ。うちは3店舗ありましたから。連れてきた女と店が折半ですから」

 現場で取り締まり側にカネをばらまき、ぼったくり店だと目をつけられると、すぐに引っ越し新たな店名で営業する。11回、店を引っ越したこともあった。

 ヤクザとの揉め事もしょっちゅうあった。

 店の前に屋台を出された。

 立ち退き代目当てだった。

 ヤクザの事務所に、「屋台、引っ込めろ!」と怒鳴り込んだ。

 背後からパイプ椅子が降りかかり、30発以上殴打された。

「殺すなら殺せ!」

 血まみれの影野が叫んだ。

「いい度胸だな」

 さらにパイプ椅子が乱打される。

 意識が朦朧としてくる。

 ぼったくりの帝王と一悶着起こすのは、これ以上避けたいと思ったのだろう。

 和解となった。

 人なつっこさではアンダーグラウンドの世界でもずば抜けている影野臣直である。

 特定のヤクザ組織とかかわりがあるわけではなく、多くのヤクザ組織と面識があるので、口の堅い影野のもとに様々な情報が入ってくる。

 闇で発生したトラブルもいち早く影野のもとに情報が入ってくる。

 アンダーグラウンド界の共同通信とでもいうべき存在なのだ。

「パイプ椅子で殴ったやつとは仲がいいですよ。“きみに殴られたところ痛いなあ”ってからかうと、びびってた」

 パイプ椅子で影野を殴ったヤクザは2022年に亡くなった。

梅酒1杯15万円事件

 1999年3月某日。

 歌舞伎町で連日ぼったくり、儲けたカネはほとんどが酒で消えた。

 梅酒1杯15万円事件と呼ばれる事件が起きた。

 影野の店に格子柄のシャツとリュックを背負ったオタク風の若者が入ってきた。東北弁で故宅八郎のような長い髪をしている。歌舞伎町の風俗店をハシゴする30代の風俗オタクだった。店の女の子たちをはべらせて、はしゃぐ。

「金払わないんなら警察行くぞ」

「梅酒を女の子たちに飲ませて、本人は1杯しか飲んでないんです。両親と暮らし、働いていないので、さほど現金を持っていない。それでもホステスの乳はさんざん揉んだが、請求の金額24万は高いといって払わない。6時間も支払いを拒否してたんです。俺も頭にきて“そのウザい髪を切れ!”って、ハサミを持ち出した。“金払わないんなら警察行くぞ”っていったら、オタクは『勘弁してください』ってやっと払ったんですよ。まけてやったんですよ。東北までの汽車賃も必要だろうと15万に。

 オタクはハサミを突きつけたとかいってるけど、突きつけてない。“払わないならいいよ。息子はこんな馬鹿な遊びしてるんだ”ってお父さんに電話するよっていうと、『ごめんなさい!』って泣き出す。お父さんが怖いんだ」

 このときの金額が梅酒1杯15万円ということで、Kグループの悪辣さを象徴する事件になった。

 悪運尽きて影野は逮捕される。

 逮捕容疑は強盗罪、恐喝罪、風俗営業等取締法違反により求刑は懲役8年。

 一審判決は懲役5年。控訴して高裁判決懲役4年6カ月を受け入れ、新潟刑務所に下獄した。

 さぞや辛い獄中生活だっただろうと尋ねると――

刑務所ダイエット

「天国でしたね。皆さんも一度入ってみるといいですよ。娑婆で食うメシより低カロリーで健康的だし、刑務所ダイエットって呼んでるんです」

 囚人が陰茎に玉を入れる手術に何度も付き合った。

「箸を折って、ゴルフのティーのようになるまでコンクリでこするんです。入れる玉は碁石か歯ブラシの柄とか、工場のなかでプラスチックの玉とか見つけるんです。それを磨いて、ティーの後ろに玉を置いて、陰茎の皮をつまんで貫通させてそのまま押し込むんですよ。ティーを抜き取ると玉だけ残る。オロナイン軟膏塗って、私物のティッシュで巻く。金曜日やれば土日、休みだから看守に気づかれずにくっつくんです。

 そりゃ痛いですよ。唾で消毒するけど化膿するし。ヤクザ以外も堅気だって入れるんですよ。窃盗犯でも。俺? 入れません。あんなの入れても女にモテませんから」

 陰茎に玉を埋め込むと、挿入した際、膣壁に摩擦をあたえ、通常の性交よりもはるかに刺激的な性交になる、といにしえから遊び人たちの間では伝説化されているのだ。

 出所後、特異な体験を本にしようとみずから少しずつ書きはじめていた。

 文章力が河出書房新社の女性編集者の目に留まり、作家デビューを果たす。

「利用価値があるんです」

「それにしても歌舞伎町で暴れまくりながら、よく生き延びましたね」

「利用価値があるんですよ、俺みたいなやつ」

 不夜城で数々の悪事をしでかした男がサングラスを取ると、愛嬌のある笑顔を見せた。

(本橋 信宏/Webオリジナル(外部転載))