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高校生4人と20代夫婦が逮捕された強盗殺人事件 被害の裏で一体何が?

 5月14日、栃木県上三川町の住宅に複数の人物が押し入り、住人の富山英子さん(69)が殺害された事件。これまでに、実行役とみられる16歳の男子高校生4人と、指示役とみられる20代の夫婦が逮捕されています。

【写真で見る】トクリュウ型犯罪が起きるまで 犯行者募集の手口とは?

 警察は「トクリュウ」(匿名・流動型犯罪グループ)の犯行を視野に捜査していますが、今回の事件から見えるトクリュウの手口の変化と、被害から身を守るための方法とは。元兵庫県警幹部・棚瀬誠氏が解説します。

◎棚瀬誠 元警察庁キャリア・元兵庫県警察本部刑事部長 捜査の最前線に身を置き、国内・海外で従事

「SNSから人づてへ」トクリュウの犯行者募集の手口に変化?

 これまでのトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)の一般的な手口は、SNS上で「高額案件」などと称して実行役を募集するというものでした。

【トクリュウの一般的な組織図】
首謀者(ピラミッドの頂点)
指示役
リクルーター
末端(実行役、下見役、道具調達役など)

 しかし、現在その構図に変化が生じていると棚瀬氏は指摘します。

 SNSでの募集が警察やSNS事業者の対策によって困難になったため、知人関係を利用した「マルチ・ねずみ講型」のリクルートが主流になりつつあるというのです。

(棚瀬氏)「マルチ・ねずみ講型は、例えば最初に声をかけられた人のバイト代が10万円だとすると、“1人連れてきたらバイト代を増やしてあげる”という形で、要は横展開で実行役を増やしていくというリクルートの仕方。今回の事件も16歳の少年1人を軸にして、別の少年が誘われたのではないでしょうか 」

連続逮捕の背景「横のつながりが容易に明らかにされる環境だったのでは」

 今回の事件でも、逮捕された16歳の少年たちは、以前同じ高校に通っていた、または知人といった関係性がありました。

少年(1):14日逮捕 相模原市在住 少年(1)と以前同じ高校
少年(2):15日逮捕 相模原市在住
少年(3):16日逮捕 相模原市在住 少年(2)の知人
少年(4):16日逮捕 川崎市在住

(棚瀬氏)「実行役の4人であったり、追加で逮捕された夫婦2人は、誰が容疑者なのかという人物の特定が容易にできた、すなわち横のつながり・やり取りが容易に明らかにされる環境にあったということだと思います」

警察が実行犯になりすます「仮想身分捜査」を警戒か

 犯罪グループがネット上ではなく「人づて」(友達づて)での実行役募集にシフトしている背景には、警察による新たな捜査手法「仮想身分捜査」への警戒があります。

 「仮想身分捜査」とは、SNSでの募集などから警察官が実行犯になりすまして犯罪グループに接触し、より組織の中枢に近づく捜査手法です。

(棚瀬氏)「(仮想身分捜査では)現場での集合時に、実行役のメンバーを思いとどまらせることがあるほか、場合によってはホームセンターで縄やバールを買う際に強盗予備罪(強盗の一歩手前の罪)で容疑者を検挙し、組織の内部をえぐり出すというように、実際に強盗の手前で犯罪を止めるということがいくつも行われています」

実行役の多くが“思慮が浅い若年層”という実態

 首謀者が誰であるかを組織の中でも分からない構造にして、捜査の手を逃れるトクリュウ型の犯罪。組織の中枢はお金さえ手に入れば実行役がどうなってもよく、実行役の多くは思慮が浅い若年層となっている実態があると棚瀬氏はいいます。

(棚瀬氏)「(実行役の)未成年4人は、直感的には最初から強盗であるとは分かっていなかったのではないかと思います。指示役ないし首謀者から『行ってこい』と言われれば、もう強盗に関与せざるを得ない環境に置かれていたのではないか」

「過去の闇バイトでも、免許証や自宅住所、家族関係も組織側に把握をされてしまっていて、『家族、本人を襲うぞ』と脅されて犯行をせざるを得なかったというケースが実際にあります。本件がそうかは分かりませんが、脅されていた可能性は考えられます」

指示役とみられる夫婦も「使い捨ての駒だったのでは」

 また、指示役とみられる20代の夫婦も逮捕されましたが、棚瀬氏は、彼らも「使い捨ての駒」だったのではないかとみています。

(棚瀬氏) 「(夫婦は)指示役でありリクルーターという立ち回りだったのだと思いますが、言い方を変えると『実行役の一番偉い人間』というだけで、首謀者から見ればあくまで実行役の1人ということなのだと思います」

防犯カメラもお構いなし」通常の防犯対策が通用しない…どう身を守る?

 トクリュウ型の犯罪においては、防犯カメラやセンサーライトといった一般的な対策だけでは不十分であると棚瀬氏は警鐘を鳴らします。

(棚瀬氏)「窓ガラスを割ってバールを持って、防犯カメラがある住宅でもお構いなしに侵入するという組織なので、トクリュウのターゲットになってしまった後だと、一般的な防犯対策が機能しない」

 トクリュウは事前に「リスト屋」と呼ばれる役割の人間が、ターゲットとなる家にどれほどの現金があるかを周到にリサーチしているといいます。

 一度リストに載り、組織から犯行命令が下されれば、実行役は防犯カメラなどのリスクを承知の上で強行突破を図るため、物理的な対策だけでは防ぎきれない側面があるのです。

金融機関や警察装い“現金情報”を巧みにリサーチ

 私たちが身を守るために最も重要なのは、そもそもトクリュウのターゲットリストに載らないことです。

 そのためには「自宅に現金を置かない」「あっても他人に漏らさない」という情報の管理を徹底する必要があります。

 棚瀬氏は、リサーチの手口として「電話」の危険性を指摘します。 

(棚瀬氏)「金融機関・保険業者を装って、『タンス預金にしておくともったいないから銀行に預けましょう』、定期預金の金利が上昇しているという会話の中で『今タンス預金いくらあるの?』と聞かれて『実は2000万円ある』などと答えてしまうと、リストに記載されてしまうことになります」 

 また、警察官を装い「近所で泥棒があったので、防犯のために現金の有無を確認している」といった巧妙な嘘で情報を引き出すケースもあるといいます。

リストに載らないために…「電話対策」と「SNS投稿への注意」

 こうしたリサーチ手口に対して、MBS米澤飛鳥解説委員は以下を対策として挙げます。

(米澤解説委員)「NTTは70歳以上の契約者を対象に、ナンバーディスプレイを無償化しているほか、犯罪被害が理由であれば番号変更の手数料を無償化するなどの取り組みを行っています。そして、知らない番号からの電話は、留守番設定にして出ないことも一つ有効な対策だと思います」

 また、SNSへの不用意な投稿も厳禁です。

 ボーナスや高価な買い物などに関する投稿は、リスト屋にとって絶好の情報源となります。「どこにどれだけの資産があるか」という情報を、自宅であれ企業であれ、外部に漏らさないことが最大の防衛策になると棚瀬氏は指摘します。

 トクリュウ型の犯罪による被害が後を絶たない中、まず私たちができるのは、自分で自分の身を守ること。そして、実行役になってしまわないためには、「割のいいバイトがある」などといった甘い言葉にのらないことが大切です。