高市早苗首相

写真拡大

【全2回(前編/後編)の後編】

 世界では今SNSを駆使した「情報戦争」が激化している。目下、日本に対し攻勢を強める国といえば、かの厄介な隣人である。高市政権は新法成立で対抗策を模索するが、敵もさるもの。情報工作に長けた彼らは、あの手この手で日本人を惑わそうと企んでいるのだ。

 ***

【実際の画像】“日本語ではあり得ない文字”が…! 中国政府の関与が疑われる「ニセ情報」の投稿

 前編では、中国の「情報工作部隊」の規模や、偽情報の見分け方などについて、専門家に解説してもらった。

 中国は遅くとも2010年代から、ネットを使った情報工作を仕掛けていたという。

「SNSを通じた情報操作がいつから熾烈(しれつ)化したか、時期を特定するのは容易ではありませんが、少なくとも3年前の福島原発での処理水放出を巡っては、“核汚染水だ”などの悪意ある情報が相次ぎました。“ホットボタンを押す”と呼ばれる手法ですが、影響工作では世論が割れる“女性天皇”“夫婦別姓”“女性の人権”など、一見中国と無関係になるテーマでも、日本社会を分断できる話であれば利用価値があるという発想です」(国際政治や影響工作に詳しい一橋大学大学院法学研究科教授の市原麻衣子氏)

 まさに先の衆院選でも高市氏が言及した「国論を二分する政策」が、中国は大好物のようである。

高市早苗首相

 キヤノングローバル戦略研究所上席研究員兼中国研究センター長の峯村健司氏が解説する。

「よく誤解されるのは、中国は決して自国に都合の良い情報ばかりを流そうとしているわけではないことです。もちろん“高市は軍国主義者”といった発信は当たり前のようにしていますが、最も多いのは国論を二分する話題に影響を与える投稿です。夫婦別姓問題は日本の中でも世論が割れ、自民党内にもさまざまな意見があります。そうした論点を利用して、SNS上で賛成派の国会議員を名指しで“ふざけるな”と批判する投稿をしたり、逆に支持してみせたりとあおる。つまりは、世論を分断できれば何でもいいわけです」

「マークしていたアカウントの大半が中国発とみられるものだった」

 選挙期間中は盛んに夫婦別姓の話題がSNS上で語られていたが、

「選挙が終わった途端、ほとんど話題にならなくなった点に鑑みれば、非常に違和感のある動きでした。怪しいアカウントは開示請求するようにして情報源を探っていますが、一時期『X』で発信源を表示する機能が導入された際には、マークしていたアカウントの大半が中国発とみられるものでした」(峯村氏)

 国会審議中の「皇室典範」改正問題についても、中国が横やりを入れた形跡が確認されている。

 元内閣官房国家安全保障局参事官補佐で、笹川平和財団上席フェローの大澤淳氏に聞くと、

「フェイスブックで『日本の魅力』という名前のアカウントがあって、やたらと愛子さまを持ち上げて、秋篠宮家をおとしめる内容を投稿しています。このアカウントを分析すると、発信元が香港であることが分かりました。さらにアカウント名が途中で何度も変わるなど、不自然な動きを繰り返しています。男系男子で皇統を続けていくか、女性天皇を認めるのか、宮家を増やすのかがテーマなだけに、皇位継承の安定と皇室に対する国民の総意が崩れると、天皇制そのものが危うくなってしまいます」

 国家の安定に直結する事象が、影響工作の対象になりやすいというのだ。

「中国に狙われやすいのは、やはり歴史問題でしょう。ここ3年くらいの傾向として、沖縄の独立をあおる日本語での発信が、SNS上でも頻繁に見られるようになりました。中国からの発信か確定できていませんが、日本人の感覚からすれば思い付かない投稿も多い。“沖縄の主権が簒奪された”“琉球独立”といった言葉を交えた投稿があるのですが、こういった発想は中国の研究機関が公に言い始めたことなのです」(同)

 そうした投稿が、翻っては“米軍基地に沖縄の人は虐げられている”“米軍は迷惑”などといった投稿と結び付き、日米安保を疑問視する方向へと世論を導く。これで利を得るのは中国に他ならない。

「他国のAIに“事実”だと学ばせる」

 再び大澤氏に聞くと、

「日本語は複雑な言語なので、影響工作は難しいとされてきました。ところが生成AIの進化で学習が進んで、今回の衆院選にも介入を疑われる事例が相次ぎました。中国はAIに偽情報を学ばせることで拡散させようとしています。その典型が一時期、話題になった偽ニュースサイト。NHKから全国紙の読売、朝日、そして実在しない名前の地方紙などを装ったサイトを作り、中国に有利なフェイクニュースを報じて欧米など他国のAIに“事実”だと学ばせるのです」

 閉鎖されたが、本誌(「週刊新潮」)をもじった「Shincho News」まで作られた。制作者の狙いは何なのか。

「人々が真実を知る上で、生成AIに何を学習させるのかは非常に重要で、その教材として偽サイトは作られたと思われます。中国は戦略的に自国に有利な偽情報を拡散させようとしている。現段階で、多くのAIは“尖閣諸島はどの国の領土か”と尋ねると、“日本をはじめ中国、台湾が領有権を主張しています”など中立的な答えを出しますが、すでに中国系AIだと“中国領です”と即答するありさまです」(同)

 前出の峯村氏は、こんな懸念を口にする。

「AIの急速な進化で、今後は中国からの投稿も見分けることが難しくなると思います。蔡英文政権時代の台湾では、『反浸透法』が制定されて、中国の影響工作への防御はかなり進んでいます。日本は学ぶべき点が多いのですが、台湾で非常に増えているのが若者の間で人気のショート動画SNS『TikTok』を舞台にした工作です。あるユーザーが“台湾は中国と一緒になった方がよい”と発信すれば、一般人を装った中国側のユーザーから投げ銭がもらえるのです」

 しかも日本円で1万円前後と相場より高いという。もらったユーザーはうれしくなって、自ずと中国寄りの投稿を続けるわけだ。

「そうやって“餌付け”された投稿者を100人、200人と増やしてインフルエンサーに仕立てることができれば、あっという間にSNSは親中的な投稿で埋まってしまう。かような中国の影響工作の実態をつかみ国民に知らせていかないと、取り返しのつかないことになりますよ」(同)

 人間の認知機能の支配をもくろむ中国では、「制空権」ならぬ「制脳権」という概念が定着しつつあるという。高市政権肝いりの情報機関は、したたかな中国にどう抗していくのだろうか。

 前編では、中国の「情報工作部隊」の規模や、偽情報の見分け方などについて、専門家に解説してもらっている。

「週刊新潮」2026年5月7・14日号 掲載