【内田雅也の追球】やさしさが力の剛腕
◇セ・リーグ 阪神2―0中日(2026年5月6日 バンテリンドーム)
球団60年ぶりという3試合連続完封をやってのけた阪神・高橋遥人が苦手なはずのヒーローインタビューで懸命に答えようとしていた。
大型連休最終日。見つめた子どもたちへのエールを聞かれると「えー、まあ野球が好きな人は野球をもっと好きになってもらえるように……」と言って間を置き「あとはまあ、好きなことを好きでいられるように……」と言ってまた間が空いた。「いや、ちょっと、いいや……。大丈夫です」
子どもたちのなかには野球好きの子もいれば、そうでない他のことが好きな子もいる。そんな子らに気をつかい、言葉に詰まったのだろう。
同じ趣旨の話を今年1月17日、阪神大震災の被災地、神戸・長田で行った野球教室で聞いていた。野球少年や少女だけでなく、何か熱中できることを大切にしてほしいという気持ちだった。
生いたちを話す際も、少しでも自慢に聞こえそうな話になると、すぐ打ち消して言い直した。
前回4月29日、ヤクルト戦(神宮)で完封した後のヒーローインタビューで「キャッチャーの人」という言葉が変に注目されていた。リードしてくれた伏見寅威だけでなく、助言や激励をくれた梅野隆太郎や坂本誠志郎も含めた「キャッチャーの人たち」の意味だった。伏見の名前だけを出しては不十分だと気をつかったと理解できた。
マイナーリーグが舞台の映画『さよならゲーム』で若手投手をメジャーに送り出すベテラン捕手が言って聞かせる。「メジャーではインタビューに答えるのも仕事だ。とにかく謙虚に話すんだ」
この謙虚さ、誠実さを高橋はもともと備えている。これが強みである。
当欄で何度か書いてきたが、ランディ・ジョンソン(当時ダイヤモンドバックス)の印象的なインタビューを聞いた。2001年の地区シリーズ第1戦、敗戦投手となったジョンソンは会見場に現れると目の前のマイクを手に取り、投げつけるようなしぐさをした。
「昔はこうやって怒りをぶちまけていたよ」と言って笑った。「怒りが力の源だった。何くそ、見てろよという気持ちだった。今は怒りより強い力があるのを知っている。それはやさしさだ」
周囲への気配りは捕手の思いや打者の狙いを知ることにつながる。やはり、やさしさは力なのだ。高橋は心やさしき剛腕だった。 =敬称略= (編集委員)
