【マクロ経済・投資環境2026年5月】高まる株式と債券の相関をどう考えるか
株式と債券価格の連動が強まり、伝統的な分散効果が低下
地政学リスクの高まりを受け、金融市場では株式と債券の関係に変化がみられています。イラン情勢の悪化後の米国市場を振り返ると、リスク回避局面では米国株が下落する一方で米金利は上昇し、その後の反発局面では株価が上昇すると同時に米金利がピークアウトする動きとなりました。
【図表1】3月以降の米国株(左軸)と米10年金利(右逆目盛)の推移
出所:Bloomberg 金利上昇は債券価格の下落を意味します。したがって、足元では「株安・債券安」、あるいは「株高・債券高」という形で、株式と債券価格が同じ方向に動きやすくなっています。これは、株式と債券を組み合わせることで価格変動をならすという、従来の分散投資の効果が薄れていることを示しています。
実際、米国株と米国債の時系列データで相関係数を確認しても、コロナ禍以降、両者の相関は高まる傾向が鮮明です。2000年代には株式と債券の相関がマイナス圏で推移し、株価下落時に債券価格が上昇することで分散効果を発揮しやすい環境が続きました。しかし現在の状況は、むしろ1990年代に近いといえます。
【図表2】米国株と米国債券の相関指数の推移
SP500指数とBloomberg米国債指数から算出した5年相関 出所:Bloomberg 株式と債券の相関が高まる2つの背景
物価上昇率が高まっている
では、現在の市場環境と1990年代には、どのような共通点があるのでしょうか。大きく2つの要因を指摘できます。
1つ目は、物価上昇率が高まっていることです。物価が安定している局面では、景気減速懸念が強まると金利が低下しやすく、債券価格は上昇しやすくなります。この場合、株式が下落しても債券が下支え役となり、分散効果が働きます。
一方、インフレ圧力が意識される局面では、景気への不安があっても、中央銀行の利下げ余地が限られるとの見方が強まりやすくなります。さらに、供給制約や原油高が物価を押し上げる場合には、株価にとってはコスト増や消費鈍化への懸念となる一方、債券にとっては金利上昇要因となります。このため、株式と債券が同方向に動きやすくなります。
【図表3】米消費者物価指数(前年比)の推移
出所:Bloomberg グロース株が主導する相場である
2つ目は、グロース株が主導する相場であることです。グロース株は将来の利益成長への期待を織り込む度合いが高く、金利変動の影響を受けやすい資産です。金利が上昇すれば将来利益の現在価値が低下しやすく、金利が低下すれば評価が押し上げられやすくなります。このため、テクノロジー株などのグロース株が相場全体をけん引する局面では、株式市場全体も金利に対する感応度を高めやすくなります。
【図表4】グロース株(対バリュー株)の推移
出所:Bloomberg 短期的にはインフレ圧力が意識されやすい
当面は、インフレ率の上昇が経済指標にも表れてくる可能性があります。企業の仕入れ環境を示すISM製造業景況感指数の供給納期指数には、供給制約の強まりを示す動きがみられます。また、CPI(消費者物価指数)にも上昇の兆しが確認されつつあります。
【図表5】直近の経済指標の動向
出所:Bloomberg 地政学リスクの高まりや原油価格の上昇、特にホルムズ海峡を巡る不透明感は、エネルギー価格だけでなく、物流コストや肥料など、海峡を通る幅広い品目に影響します。このため、短期的には市場でインフレ再燃への警戒が強まり、金利上昇圧力が意識されやすいでしょう。
もっとも、原油価格の上昇が常に金利上昇要因であり続けるわけではありません。原油価格が50%上昇するケースを想定し、過去のデータからその後の金利見通しへの影響を計量的に確認すると、半年程度は利上げ圧力として作用しやすい一方、それ以降は利下げ圧力に転じる傾向がみられます。
【図表6】原油価格上昇の金融政策に対する影響
出所: マネックス証券作成 これは、原油高が当初はインフレ率を押し上げる一方で、時間の経過とともに景気減速懸念を強めるためと考えられます。原油高は短期的にはインフレ要因ですが、中期的には景気下押し要因でもあります。
原油価格の動向はなお予断を許しませんが、物価上昇による金利上昇だけでなく、実体経済への影響がいずれ金利低下要因となる可能性もあわせて考える必要があります。
グロース相場の持続性が相関を左右する
もう1つの注目点は、グロース株主導の相場が続くかどうかです。米国株は再び高値更新となりましたが、戦争前と現在を比較すると、相場のけん引役は引き続きテクノロジー業種です。なかでも半導体関連企業の業績見通し改善が、株価上昇を支える大きな要因となっています。
一方で、テクノロジー以外の業種では、業績見通しが改善しない分野も少なくありません。相場全体が上昇しているように見えても、その内側では物色の偏りが強まっています。
【図表7-1】業種別・業績予想の変化
1月末から改善した業種は情報通信と資源関連のエネルギー、素材 出所:Bloomberg【図表7-2】情報通信業種内の業績予想の変化
出所:Bloomberg この傾向は米国だけではありません。日本ではテクノロジー関連株が相場をけん引し、日経平均株価と東証株価指数の相対的な強さを示すNT倍率は過去最高水準にあります。また、台湾や韓国でも半導体・テクノロジー関連を中心に株価上昇が目立ちます。一方で、こうしたテクノロジー主導の恩恵を受けにくいインド株などでは、相対的な不振もみられます。
今後、物色がテクノロジー以外の業種へ広がるのか、あるいは過熱感が高まるテクノロジー株が調整を迫られるのか。どちらの場合でも、相場全体の金利感応度が低下すれば、株式と債券の相関は低下し、分散効果が再び高まりやすくなるでしょう。
相関が高まるなかでも、債券の役割は失われていない
株式と債券の相関が高まっていることは、分散投資にとって重要な変化です。ただし、それは債券の役割が失われたことを意味するわけではありません。
債券は株式と同じ方向に動く場面が増えているとはいえ、株式に対する価格感応度は、他の多くの資産クラスと比べて圧倒的に低い資産です。株式と債券の相関が高まったからといって、債券を避け、他の資産に置き換えれば、結果としてポートフォリオ全体の株式リスクを高めることになりかねません。
【図表8】各資産クラスの株式に対する感応度
感応度:米国株(SP500指数)が1%動くときに、各資産クラスが何%動くかを示す数値 出所:マネックス証券作成
インフレが長期化し、金利上昇が続く局面では債券価格に下押し圧力がかかりやすいものの、景気減速懸念が強まれば、金利低下を通じて債券価格が上昇する余地があります。しかし、インフレの持続性、原油価格の実体経済への波及、そしてグロース株主導相場の行方によって、両者の関係は変化していくでしょう。したがって、シナリオ分散の役割が期待されます。
相関の高まりを債券の魅力低下と捉えるべきではありません。今後のシナリオ変化への備えとなります。分散投資の効果が見えにくい局面だからこそ、資産ごとの役割を改めて確認する必要があるといえるでしょう。
塚本 憲弘 マネックス証券 インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー
