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東京ガスに入社し、子会社に出向していた男性社員(当時24)の自死をめぐり、両親が遺族補償を不支給とした処分の取り消しを求めた訴訟で、東京地裁(小原一人裁判長)は、労働基準監督署の処分を取り消す判決を言い渡した。判決は4月13日付。

判決は、入社2年目の男性に対する職場の支援が適切にされておらず、上司とのトラブルや会社側の事後対応の不十分さが重なり、男性に「強い心理的負荷」が生じていたと認定した。

両親の代理人をつとめる蟹江鬼太郎弁護士と大久保修一弁護士が4月21日、厚生労働省で記者会見を開き、国に対して控訴を断念するよう求めた。

●入社2年目、3人体制の職場に配属数カ月で自死

代理人らによると、男性は2017年4月に東京ガスに入社。1年間の研修を経て、2018年4月から子会社の財務グループに出向し、経理・財務の仕事を担当した。

配属先は3人の小規模な部署で、直属の上司だった男性グループマネージャー(GM)と、子会社採用の先輩のもとで働いていたが、同年8月に自ら命を絶った。

両親は2021年4月に労災を申請したが、三田労働基準監督署は2022年1月、不支給処分とした。これを不服として、両親は2024年8月に提訴していた。

●「心理的負荷」の評価、労基署と裁判所で分かれる

労基署は「配置転換」や「上司(GM)とのトラブル」「会社の事後対応」などを個別に評価し、男性の心理的負荷の総合判断を「中」とした。

これに対して、判決はこれらの出来事を一体的に捉え直し、心理的負荷は「強」にあたると判断し、結論を覆した。

●経験不足と業務のギャップ、支援は「ごく限定的」

判決によると、配属先の財務グループの業務は一定の困難性を伴うもので、研修を終えたばかりの男性にとっては、能力や経験との間にギャップがあったという。

しかし、職場からの支援や協力は「ごく限定的なもの」だったとされる。上司であるGMから具体的な役割が明確に指示されず、2018年5月下旬頃まで実質的な業務がほとんど与えられていない状態だったと指摘した。

裁判所は、このような「支援・協力が欠如した状態であること」が心理的負荷を強める要素になったと認定した。

●職場で相当の疎外感や無力感を味わった

上司のGMは、事前の指導がないまま「そんなこと書く?」などと感情に任せて言い放ったり、実質的に初めて任せた業務について「今作ってもしょうがないじゃん」などと強い口調で指導し、業務を取り上げたりしたとされる。

こうした対応により、男性は深い絶望感を抱き、職場で相当の疎外感や無力感を味わうことになったとしている。

その後、男性から相談を受けた会社側は、「GMと男性が直接2人きりで話さず、必ず先輩を交えた3人で話す」という対策をとったが、自らが怖がられていることを認識したGMは、男性との会話を極端に減らし、仕事上必要なことしか話さなくなっていた。

また、先輩社員もGMの不適切な言動に注意せず、男性の心身の異常(うつ状態の兆候)を感じていながら、組織に報告しなかったという。

裁判所は、GMの言動単独では明確なパワハラになるとまでは認定できないとしたが、会社側の事後対応が心理的負荷を助長するような不適切なものであったと判断した。

●代理人「先輩も上司も新人をフォローする自覚なし」

両親の代理人らは会見で、GM(東京ガス採用)は「先輩が世話をするだろう」、先輩(子会社採用)は「GMが見るだろう」と考え、結果的にどちらも指導責任を負わない状態だったと指摘した。

GMは、男性に対する指導で不満げな態度を示したり、「いつまでもお客さまじゃどうかな?」と発言したりしたとされる。

こうした明白なパワハラとまでは言い難い「不機嫌ハラスメント」(フキハラ)であっても、労災認定の根拠となりえることを裁判所が認めたことは意義があると強調した。

●制度が整っている企業でも、同様の問題は起こり得る

代理人らは「長時間労働があった事案ではなく、殴る・怒鳴るといった明白なパワハラ言動が認定されたわけでもない。それでも『職場の支援・協力の欠如』を重く見て労災と認めた点に意味がある」などと述べた。

制度が整っている企業でも、同様の問題は起こり得ると警鐘を鳴らした。

両親は「止まっていた時間がようやく進み始め、わずかに光が差してきたような気持ちです」とコメントし、国に対して控訴断念を求めている。

代理人らは控訴断念を求める意見書を国(法務省)に提出している。

(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)