「購買力」はどのように生み出されるのか──米国経済の発展を支える「信用創造」のしくみ
アメリカの金融資本制は、これまでさまざまな危機に直面しながらも、その時々の情勢に柔軟に適応することで進化を続けてきた。そんな“融通無碍(ゆうずうむげ)”な米国経済を特徴づけるのが、無から有を生み出す「需要創造力」の強さであると言えるだろう。本記事では、武者陵司氏の著書『トランプの資本主義革命』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、アメリカ経済の「需要創造力」の根源をひも解いていく。
米国発展の根源は融通無碍(米国で正当性を証明した信用貨幣論)
米国経済を特徴づける需要創造力の強さの根源に、信用創造がある。さまざまな危機に直面したときに米国資本主義は、一見すると融通無碍に見える延命策を繰り出してきた。1933年の金本位制離脱、1971年のドル金交換停止、2008年の量的金融緩和、2023年の預金保護上限の一時的撤廃、などである。それらは禁じ手として批判されたが、結果的には資本主義体制の進化形として定着した。その変化の根源にあるのが、実利主義、あるいは融通無碍である。つまり何ものにも囚われることなく、自由に、その時々の情勢に合わせて変化をし続けたのが、米国の金融である。「正しい・間違い」ではなく、うまくいきそうなことをやっていくのである。
需要を創造する手段は2つしかない。ひとつは手元にある所得だ。私たち一人一人が働くことによって所得を得て、それによって生活に必要なモノを買ったり、食事をしたり、あるいは旅行に行ったりすることによって、需要が創造されていく。
では、所得がなければ需要は創造されないのだろうか。そんなことはない。たとえば持ち家を買う場合、所得のみで買える人はほとんどいないだろう。多くの人は銀行などで住宅ローンを組み、持ち家を購入する。あるいは自動車もそうだ。これらは、所得がなくても需要を創造できる典型例である。つまり借金をして消費・投資に回すということだ。
無から有を生み出す「信用創造」
このように、無から有を生み出す需要創造の方法が「信用創造」である。この信用創造がどのように推移してきたか。あらためて米国における信用創造の3つの担い手である、民間信用(銀行融資・債券発行)、公的信用(政府債務)、株式信用(株式時価総額)の、GDPに対する比率の推移を見てみよう[図表1]。
[図表1]米国債務残高と株式時価総額/GDP推移(対GDP比%) 出所:FRB、武者リサーチ
戦後の民間信用の推移を債務/GDP比で振り返ると、2008年のリーマンショック時に画期が起きたことがわかる。それまでの信用の増加はもっぱら民間債務であり、1987年のブラックマンデーまでは企業金融が牽引していたことがわかる。しかしそれ以降は持ち家ブームもあり家計債務が信用創造のエンジンになっていく。家計債務対GDPは1960年38%、1970年43%、1980年48%、1990年59%、2000年68%、2008年98%まで駆け上がりサブプライムバブル崩壊まで、米国経済を一手にけん引してきたことが明瞭である。しかしその後急低下し、現在は60%台で推移している。
リーマンショック以降は民間信用の比重が大きく低下しているのに対して、政府債務と株式信用の役割が増している。とくに株式時価総額/GDPは、リーマンショック直後の69%から244%(2025年2Q)へと駆け上がっている。株式時価総額/GDPをバフェット指数と称し、この比率の増大がバブル化の現れとのコメントが散見されるが、そうした評価は一面的である。[図表2]に見るように、株価など資産価格の上昇が、家計保有純資産を大きく増やした。
[図表2]家計純資産、鯰資産、債務の推移 出所:FRB、武者リサーチ
リーマンショックで民間信用の増加が望めなくなったときに救世主として現れたものが株式信用+住宅価格信用である。バーナンキFRB議長が導入したQEによって株価と住宅価格は急騰し、あらたな需要創造の担い手となった。民間信用が伸びないなかで資産価格を押し上げるためには、中央銀行がバランスシートを極端に拡大し、資産市場に実弾を投げ込むしかない。FRBの総資産は2兆ドルから8兆ドルまで急拡大した。
バーナンキ議長はQEの目的をリスクプレミアムの引下げと説明したが、それは、銀行の信用創造が機能しなくなったからには、資産価格を引き上げて購買力創造を行うしかない、と言うに等しい。
AI時代の新たな需要創造
このようにして米国経済は、大きな危機に直面しても銀行貸出、政府の財政出動、そしてQEによって信用創造を行い、大いに需要を喚起していた。
しかし、ここにきて需要創造の手段にも手詰まり感が見えてきた。というよりも、需要創造の手段は、ほぼ出し尽くしたというべきだろうか。
ところが、ここでどうやら4つ目の需要創造の手段が実現化しようとしている。それが暗号資産だ。AI時代における新たな通貨の仕組みが、トランプの改革によって実現する可能性が高まってきた。ステーブルコインによる新たな信用創造である。詳細は3章に譲るが、新たに成立したGENIUS法により、米国政府は民間企業に仮想通貨(暗号資産)の発行を認め、それが既存の法定通貨と同様に流通する仕組みをつくった。ステーブルコインの発行には米国債等の担保資産が求められるため、米国国債需要の増加にもつながる。実施までには曲折も予想されるが、米国経済の次の需要創造につながっていくのではないかというのが、現時点における私の仮説である。
このように米国経済の歴史を振り返ると、「商品貨幣論か信用貨幣論か」の論争に対する結論はすでに下されているといえる。米国の強みは、融通無碍である。貨幣や信用に実態があるかないかという神学論争ではなく、機能し持続可能性があればそれでいいのだ、究極の信用貨幣論を実践している国といえる。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
