風邪で「抗生物質」を飲むのはNG? 将来薬が効かなくなる危険な理由とは

抗生物質を不適切に使い続けることで、薬剤耐性菌という深刻な問題が生まれます。本章では、耐性菌が生まれるメカニズムや世界的な取り組み、日本における現状について詳しく解説します。将来世代にも有効な抗生物質を残すためにも、抗生物質の適正使用が今まさに求められていることをご理解いただければと思います。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

薬剤耐性菌の問題と抗生物質の適正使用

抗生物質の不適切な使用は、薬剤耐性菌の増加という深刻な問題を引き起こしています。薬剤耐性菌は従来の抗生物質が効かない細菌であり、感染症治療を困難にします。

薬剤耐性菌が生まれるメカニズム

細菌は遺伝子の突然変異や他の細菌からの耐性遺伝子の獲得により、抗生物質に対する耐性を獲得します。抗生物質が投与されると、耐性を持たない細菌は死滅しますが、たまたま耐性を持った細菌は生き残り増殖します。これを「選択圧」といい、抗生物質の使用が多いほど耐性菌が選択的に生き残る機会が増えるのです。不必要な抗生物質の使用や、処方された量を守らない中途半端な使用は、細菌に耐性を獲得する機会を与えることになります。特に、風邪などウイルス性疾患に対する抗生物質投与は、本来必要のない薬剤曝露により、体内の常在細菌に耐性を獲得させるリスクがあります。こうして生まれた耐性菌は人から人へと広がり、将来的に本当に抗生物質が必要な感染症が治療できなくなる可能性があるのです。

世界的な取り組みと日本の現状

世界保健機関(WHO)は薬剤耐性を世界的な健康危機の一つと位置づけ、各国に抗生物質の適正使用を呼びかけています。日本でも厚生労働省が「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定し、抗生物質の適正使用を推進しています。具体的には、医療従事者への教育、患者さんへの啓発活動、抗生物質使用量のモニタリングなどが行われています。データによれば、日本における抗生物質の使用量は国際的に見て中程度ですが、特定の抗生物質に使用が偏っている傾向があり、改善の余地があるとされています。医療機関では抗菌薬適正使用支援チーム(AST)が組織され、適切な抗生物質の選択と使用期間の管理が行われるようになってきました。こうした取り組みにより、薬剤耐性菌の増加を抑制し、将来世代にも有効な抗生物質を残していくことが目指されています。

まとめ

抗生物質は細菌感染症の治療に不可欠な医薬品ですが、風邪などのウイルス性疾患には効果がなく、不適切な使用は腸内細菌叢を乱し、薬剤耐性菌を生み出す原因となります。処方された抗生物質は指示通りに最後まで飲みきり、残薬を自己判断で使用しないことが重要です。症状や疑問があれば医師や薬剤師に相談し、抗生物質の適正使用を心がけることで、自分自身の健康と将来世代のために有効な治療手段を守ることができます。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関を受診し、専門家の診断を受けることをおすすめします。

参考文献

厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」

国立感染症研究所「薬剤耐性菌感染症」

日本化学療法学会「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」