長距離界の異端児を直撃!″全身パワーテープ男″吉田響「日本初のマラソン2時間3分台は僕が出す!」
レースもキャラクターも規格外
「反響は凄かったですね。インドネシアの友達からも『記事になっていたよ』って連絡が来ましたから。海外では″ドットキッズ(水玉の少年)″なんてあだ名を付けられていたみたいです」
今年2月の大阪マラソン、吉田響(ひびき・23、サンベルクス)は足首から顔まで黒い丸形のパワーテープを全身に貼り付けた異様な姿でスタートラインに立つと、8km手前からペースメーカーを置き去りにして独走(上写真)。中間点まで日本記録(2時間4分55秒)を大きく上回るハイペースで突き進み、レースの主役となった。
吉田は単なる話題先行のランナーではない。’25年の箱根駅伝では創価大のエースとして花の2区を走り、日本人歴代最高となる1時間5分43秒をマーク。今年元日のニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)でも、22人抜きの快走で区間新記録を樹立している。
初マラソンとなった大阪で、吉田は’28年ロサンゼルス五輪代表入りが″最短で決まる″「2時間3分59秒以内でのゴール」(MGCファストパス)を狙っていた。
当初はペースメーカーの背後で体力を温存しながら25km付近での仕掛けを想定していた。吉田はそう明かした。
「ただ、ペースメーカーの動きが遅く感じてしまって……。無理にブレーキをかけるほうがかえって体力を消耗する感覚があったんです。だから、記録を意識して飛び出したというより、自分の感覚で自然に出た感じです。すごく冷静でした」
結果的にラスト5kmで大きく失速。2時間9分35秒の34位に終わったが、「リミッターを振り切って走る」吉田の果敢なスタイルは確かな可能性を示した。
「35kmまでは日本記録をねらえるペースで来ていたので、あとは残り7kmをどう押し切れるか、ですね。先日の東京マラソンを見ても、外国人選手は当たり前のように2時間3分台を出しています。僕らも進化しないと。
セオリー通り、30kmあたりまでは抑えて後半勝負という展開も理解はできます。ただ、逆に大阪での僕のように、どこかで飛び出して最後までトップで走り切れたら世界に近づけると思います。自分がその走りを日本で最初にできたら、という思いは強いです」
吉田が″規格外″なのは、レース展開にとどまらない。あらためて、大阪で話題をさらった″全身パワーテープ″について水を向けると「写真を見返すと、自分でもちょっと怖い」と苦笑いした。
「レース前の合宿で頑張り過ぎて、上半身や顔のまわりに張りが残っていた。それを和らげるために貼ったんですよ。学生時代から使っているファイテン製のテープで効果はあったと思います。ただ、元青学でいまはGMOインターネットグループで走っている鶴川正也くん(23)や太田蒼生くん(23)にも『なんであんなに貼ったの?』って突っ込まれました」
進化を続ける異端児
今後、全身パワーテープは″自粛″するとのことだが、東海大から創価大への編入、大学卒業直後のプロ転向、マラソンとトレイルランの二刀流挑戦と、吉田の発想や歩みは既成の枠に収まらない。
「実業団の選手は、ケガのリスクがあるから(舗装されていない道でアップダウンも多い)トレイルなんて絶対にやらないですよね。でも、僕は普段から瀧川(大地)コーチと2人で柔軟に練習場所を変えながらトレーニングをしています」
取材時の練習場所は、休日で多くの観光客で賑わう横浜の山下公園。″走ることそのもの″を楽しんでいるような吉田の姿が印象的だった(2枚目写真)。
時折、練習中にランナーから声をかけられることもあるそうだが、「気にかけてもらえることは嬉しい」と言う。
「レースではまったく緊張しないのですが、ファンミーティングは心臓が飛び出そうでした(笑)。でもファンの方々と交流することで頑張れる部分はあります。大阪マラソンも終盤はフラフラでしたが、『響、ガンバレ!』と声をかけていただいて、最後まで走ることができました」
プロ1年目は将来に向けた″土台作り″の時間だった。視線はすでにその先に向いている。目指すは2時間3分台と’28年ロサンゼルス五輪でのメダル奪取だ。
「ロス五輪まで約2年。相当の熱量と覚悟を持って物凄い速さで成長しないと間に合わない。今年の箱根駅伝では、5区の山登りで青学の黒田(朝日・22)くんが凄い走りをしましたよね(区間記録を1分55秒更新)。
彼もこの春からは実業団(GMOインターネットグループ)ですし、今後は下の世代もどんどん出てくると思うので、負けないよう進化していきたい。見る人の予想を超えるような走りをすることをテーマにしてきましたが、これからもそこを貫きながら挑んでいきたいと思います」
日本長距離界の異端児は、常識も世界の壁も越えていけるか。
『FRIDAY』2026年4月17・24日合併号より
取材・文:栗原正夫
