令和ロマン 松井ケムリが語る、相方・高比良くるまの生態。「だから強いんだなって感じる」
4月23日に刊行される、令和ロマン・松井ケムリさんの初著書『ナマケモノの朝は、午後からはじまる。』は、子どもの頃から動物好きなケムリさんが30種類の動物たちの知恵と工夫から、人間の生き方を考えるエッセイ。インタビュー前編では、その動物たちの生態を通して、ケムリさんにとっての“生きやすさの条件”を見出しながら話を伺った。その視線は、自然と人へと向かっていく。ケムリさんが身を置くお笑いの世界もまた、個性の異なる人たちがそれぞれのやり方で生きている場所だ。自分とは違う性質をどう受け止めているのか。そして、その中で自分はどんな立ち位置にいるのか。後編では、自然と、相方・高比良くるまという存在にも及んでいった。
芸人の世界で僕は異質かもしれない
ケムリさん自身が身を置く“お笑いの世界”では、芸人という生態をどう見ているのか。その話になると、まず返ってきたのは、かなり率直な言葉だった。
「信じられないことばかりです。ごく普通に借金をする人も多いじゃないですか。そういう芸人を見ていると、別に僕が金持ちとか関係なく、普通に“計算できないからお金が足りなくなってんじゃん!”と思っちゃって。どうしてやりくりできないのかなと、信じられないです」
ただ、その“信じられなさ”は、見下しているわけではなく、あくまで自分の感覚とかけ離れている驚きから生まれているもの。
「でもやっぱり、生き抜く力はすごいんですよ。僕にはない生存本能を持っている。もちろん淘汰されていく人もいるけど、厳しい状況をサバイブしてきた人たちばかり。僕なんかよりも、ずっと度胸もあるし、前にも出ていける。芸人としては、その人たちが正解なのかなと思ったりします。むしろ僕のほうが芸人の世界では異質なのかもしれない。前に出ることをためらうし、スベるのも怖い。できれば失敗を避けたい人間なので」
コンビは「正義と正義」がぶつかる場所
その流れで、コンビについての話へ。コンビとは、異なる生態同士の共存でもある。うまく成立している理由を尋ねると?
「令和ロマンは割とお互いリスペクトを持っているタイプだと思います。人間が2人きりの状況って、実はすごく難しくて。誰が悪いか、問題の原因がわからなくなってしまうんですよね。
もっと言えば、悪い人なんていないというか。もし4人だったら、1人の意見に3人が反対したら、別にどっちが正しいとは限らないけど、“1”の方が少数派になるので答えが出る。でも1対1だと、多数決は成立しないし、雰囲気で処理することができない。どちらもそれぞれの理屈を持っていて、どちらも間違っていない。本当に正義と正義のぶつかり合いでしかないんです。
だからこそ、リスペクトが大事になる。2人でやっていく以上、ぶつからないことなんてたぶん無いので、ぶつかることを前提にした上で、相手にどんなリスペクトを持って接せられるかじゃないですかね」
僕とはかなり逆、相方・くるまの生き方
そして、相方・高比良くるまさんの生態について。その分析は、ケムリさんの“観察者”としての目線が際立った。
「まず、くるまはよく喋ります。僕とかなり逆というか、あの人は、“自分が生まれたからには何かやらなきゃいけないことがある”と使命を抱えている人。それが何かはまだわかっていないながらも、自分には何かやるべきことがあるはずだ、という潜在的な使命をもっている。だから強いんだなって感じがします」
では、そんな世界でケムリさんの生存戦略とは? その答えもまた、驚くほど実務的だった。
「うーん。マジで、いい人であることですね。誰にも嫌われないような存在でいたい。昔、千鳥のノブさんが雑誌のインタビューで、『芸能界は、ほんまにええヤツしか売れない』みたいなことをおっしゃっていて。先日、ノブさんにお会いする機会があったので、この言葉について聞いてみると、『本当にそれしかない』と改めて断言していました。
もちろん、それだけでやっていける世界ではないのは承知の上で、最低限の実力があってこそ。実力があることを前提として、僕ができるのは、いい人でいることしかない。なるべく嫌われないように生きていけたらいいですね」
松井ケムリ
1993年5月29日、神奈川県生まれ。吉本興業所属。慶應義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」で出会った相方・郄比良くるまと令和ロマンを結成。コンビではツッコミを担当。「M-1グランプリ」では2023・2024年に優勝し、大会史上初となる二連覇を達成。芸人界随一の無類の動物好きとして知られ、生き物の生態への関心も深い。その深い愛情をにじませながら、テレビ・ラジオなどで活躍している。
撮影/廣江雅美 取材・文/長嶺葉月
