旅客機の2段式シート、新たに「究極の決定版」デザインを公開

(CNN)航空機の客室に設ける「2段式シート」のコンセプトが帰ってきた。スペインの首都マドリードを拠点とする設計者アレハンドロ・ヌニェス・ビセンテ氏(26)が「究極の決定版」として、今週の見本市に最新の模型を出展した。
ヌニェス・ビセンテ氏は2020年、大学のプロジェクトとして2段式シートのデザインを発表。22年に初期の試作モデルを公開した。「シェーズ・ロング」(フランス語で「寝椅子」の意味)と呼ばれるこのデザインは、それ以来SNSでたびたび話題を呼び、ミームの種になり、テレビの深夜トーク番組やインターネット上のコメント欄で盛んに議論されてきた。
だがヌニェス・ビセンテ氏にとって、2段式シートは「ネット上で5年前に始まった何かのジョーク」どころか、自身のキャリアそのものだ。学生時代の部屋のベッドで初めてスケッチを描いてからずっと、変わらない情熱で取り組んできた。
シェ―ズ・ロングは、客室の上部にある荷物棚を取り払い、上下2段の座席を設けるというコンセプトだ。下の段の座席は足元が広くなり、体を伸ばしてくつろげる設計になっている。
このコンセプトをめぐっては、閉所恐怖症が起きるとの懸念が指摘されたり、客室にもっと乗客を詰め込もうとする策略だという説が流れたりしてきた。ヌニェス・ビセンテ氏は、客室の定員増を目的にしたことは一度もないと主張する一方、航空会社にとってはそれがメリットになる可能性もあると話す。同氏はこれまでも一貫して、目的は空の旅を快適にすることだと強調してきた。
同氏は20代に入ってからのここ数年、人生とビジネスのパートナーであるクララ・セルビセ・ソト氏とともに、コンセプトの微調整に打ち込んできた。
そして今週、独ハンブルクで開催された世界最大規模の航空機内装見本市「エアクラフトインテリアエキスポ(AIX)」に、最新の実物大模型を出展した。
同氏はハンブルクからのビデオ通話で、新たな模型をCNN Travelに独占先行公開し、「わが社レベルの新興企業が作れる究極の模型だ」「私たちのベストだ」と述べた。
課題はプライバシーとスペースSNSでは、上の段の乗客がおならをしたらどうなるかといったジョークが飛び交ってきた。ヌニェス・ビセンテ氏は「遊び半分の軽口」と笑い飛ばしながらも、コメントを見渡して建設的な批判を探し、プライバシーとスペースに関する懸念が繰り返し指摘されていることに気づいた。
そこで最新版ではプライバシー向上のため、下の段の座席間隔をさらに広げた。上の段まで伸びたパネルを座席後部に設け、上の段との分離を強化。上の人から下の人に物が落ちる心配を減らした。
過去の模型では下の段のスペースが限られ、とにかく体を伸ばして眠りたい人以外にとっては魅力が乏しかったが、最新版ではずっと広いスペースが確保されている。
「以前の狭い間隔から大きく変わった」と、ヌニェス・ビセンテ氏は説明する。「当初は少し閉所恐怖症の心配があった」
座席がバリアフリーでないという指摘も考慮した。最新版では、最前列の席が運動機能に制限のある乗客に対応している。業界内で開発が進む、車いすのまま搭乗できる座席のデザインを参考にした。
同氏はビデオ通話で模型の周りを歩きながら、広くなった座席の間隔を示し、立った姿勢で脚のストレッチができることを実演してみせた。さらに、中央の座席をフルフラットにできる仕組みも紹介した。
節約志向か高級志向かより広いスペースを確保するということは、手頃なクラスの座席という位置づけを損なうことになりかねない。ヌニェス・ビセンテ氏はシェ―ズ・ロングを初めて考案した時、金欠の学生だった。身長188センチの体にエコノミークラスの足元スペースは狭すぎて、のびのびと乗れる安く快適な座席があればと思ったのがきっかけだ。
だが現状ではエコノミーというより、プレミアムエコノミーの方向に話が動いているという。航空会社の幹部や最高経営責任者(CEO)、顧客体験(CX)担当者との話し合いで、エコノミーより上位クラスへの採用を望む声を直接聞いている。
ヌニェス・ビセンテ氏は24年にもAIXに出展していた。「エレベーテッド(高架)クラス」という、同じ2段式だがフルフラットベッドとソファ式の座席をそろえたファーストクラスのコンセプトだった。これは同氏が当初描いた構想とは異なる、苦渋の選択だったという。
「高い料金を払えない人々に、より快適な乗り心地とスペースを提供するのが私たちの願いだった」と、同氏は語る。
だが同氏によると、変革が起きるのはほぼ上位クラス限定、という航空会社の思考パターンを変えることは難しい。各社ともエコノミークラスはほぼ同じだが、ビジネスクラスやファーストクラスになると、シンガポール航空のダブルスイートやエミレーツ航空のバーチャル窓などバラエティに富んだ、ぜいたくなタイプが出てくる。
今の同氏は数年前よりも現実的な視点で「この時代、この業界で、エコノミーの乗客に広いスペースが提供されることはなく、プレミアムエコノミー寄りの話になるだろう」と話している。
そのうえで、上位クラスで2段式シートが実現すれば、いずれは手頃なバージョンにもつながると期待を寄せた。
いずれにせよ、通常の座席をすべて取り払うという提案ではない。ワイドボディ機の客室中央にシェ―ズ・ロングのプレミアムエコノミーシートを配置し、両側に通常のエコノミーシートを並べるというのが、同氏の構想だ。
まだ長い道のりどこまでがどんな形で実現するかは航空会社や航空機メーカーにかかっているが、今のところ2段式シートの製造を約束している企業はない。機体の改造は費用も時間もかかり、新たなデザインの承認を得るには長々とした複雑な手続きが必要だ。最寄りの機内で近いうちにシェ―ズ・ロングの座席を見かけるようになる可能性は低い。
とはいえ、このコンセプトには業界の大物から引き続き関心が寄せられている。欧州の航空機大手エアバスの担当者は昨年、CNN Travelとのインタビューで「エアバス商業機向けの2段式座席案について、シェ―ズ・ロング社が当社との間で初期段階のコンセプトを検討している」と述べた。
ヌニェス・ビセンテ氏は今年出展した「決定版」で提携先が見つかり、来年のAIXで生産に向けた試作モデルを公開できれば「理想的なシナリオ」になると述べた。今回の模型は展示用で、実際に搭載できる材料を使っているわけではないという。
同氏はネット上の面白おかしいコメントを一緒になって笑いつつ、航空業界からの反応には影響がないようだと指摘。「SNSのおかしなコメントのせいでわが社が業界からはねつけられていないなら、それは舞台裏で実は私たちに追い風が吹いているからかもしれない」と、期待を込めた。
