●話を聞きながら泣きそうに…
福井県小浜市の高校生が、14年間にわたって代々タスキをつなぎ宇宙食を実現した実話に基づくフジテレビ系ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』(毎週月曜21:00〜)。原案は、生徒と長年伴走してき小坂康之氏と筆者の共著『さばの缶づめ、宇宙へいく』(イースト・プレス)だ。

これまでも映画化やドラマ化の話は多数あったが、なかなか思いがかみ合わず、今回ようやく実現することに。北村匠海さんが小坂氏をモデルに、神木隆之介さんがJAXA(宇宙航空開発研究機構)の宇宙日本食開発担当を演じるということで、「ぜひおふたりにお話を聞いてみたい!」と願っていたところ、インタビューの機会が舞い込んできた。期待以上に熱かったおふたりの思いを、ぜひ受け取っていただきたい。

(左から)北村匠海、神木隆之介

○「こんなに自分の考えとぴったりな実話があったんだ」

まずお聞きしたのは、高校生が作ったサバ缶が宇宙に届いたという実話や、原案本のどこに感動したかについて。北村さんはコトの始まりから語り始めた。

「そもそもプロデューサーさんと『教師がやりたい』という話をしている中で、『どういう教育理念に賛同するか』『どういう先生でいたいか』という話になりました。僕は、大人が答えを与えてあげることはしたくない。生徒が何かに向かって進んでいくときに見守るというか、共に歩んでいくような物語がいい。(その背景には)自分が児童役だった『ブタがいた教室』(2008年)のように子どもファーストで進んでいく作品にたくさん出会ったっていうのもありました。

 その議論の中で、高校生たちが開発した宇宙食のサバ缶の話があがって。本を読ませていただいた時に、自分が考えていたことを、まさに小坂先生はやってらして、共感や尊敬を覚えました。先生はJAXAなどに対しては裏でいろいろ頑張るけど、学校という現場では見守り、生徒たちの背中に手を添えることぐらいしかしない。そこに僕はすごくドラマとしての魅力を感じたんです。生徒たちと先生が夢をかなえたということよりも、夢に向かっていく道を一緒にどう歩んできたかというところに、ものすごい感銘を受けた。読んでいて、こんなに自分の考えとぴったりな実話があったんだと」と、運命の出会いを饒舌に語ってくれた。



○「こんなにも素敵な物語は見たことがない」

神木さんは「ひたすら感動した」とストレートな想いをまず口にした。「いろいろな物語を見てきた中で、夢や意思、想いが代々受け継がれていってそれをかなえたという、こんなにも素敵な物語は見たことがないという印象でした。大きな一歩を踏み出して進むこともあれば、時間的にもすごく悔しい想いをして卒業していった方々もいらっしゃって。でもその方たちは、後輩たちが絶対に自分たちの夢をかなえてくれるっていう確信があった。現実の厳しい面もありつつ夢が継がれてかなえられていくというのにすごく感動しましたし、いっぱい元気を頂きました」

神木さんが演じるのはJAXAの宇宙日本食開発担当・木島真。胸にJAXAロゴが記されたジャケットに身を包む姿が、めちゃくちゃ似合ってカッコイイ!

「僕は今回、JAXA職員さんの役で。時に厳しいことを(宇宙食の)規定として言わないといけないわけです。生徒、教師、JAXA、地域の方々が心を一つにした結果が実際に宇宙まで届いたんだなと思うと、自分が今やっているお芝居も、もっと頑張ろうと後押ししてくれたストーリーだとすごく思いました」

想像以上におふたりが本を読み込んで、宇宙食実現までのコアとなる部分をしっかりつかんでくれていることが伝わってきて、聞きながら泣きそうになるのを必死に我慢していた。



●ラジオ番組で今回のドラマ出演を予言!?
北村さんは、宇宙好きと聞いている。いつ頃どんなきっかけで宇宙に興味をもったかを尋ねると、意外にも小説が入り口だったという。

「宇宙にまつわる、とてもやさしい物語に出会うタイミングがあったんです。2020年頃にそういう小説に出会って元気をもらうタイミングがあって。ファンタジーみたいなところから宇宙に入っていろいろ調べていくと、惑星のことなどの知識にたどりついて、DISH//で『宇宙船』という曲も作りました。SF映画も元々好きでしたね」

そして自身が担当するラジオ番組『THE KINGS PLACE』(J-WAVE)で、今回のドラマ出演を予言するような出来事もあったそう。

「ラジオのコーナーで、宇宙に関連する話などを紹介していたんです。このコーナーがある回は“神回”と呼ばれていました(笑)。実はラジオ局の人が、2022年の僕の誕生日にJAXAの帽子と宇宙サバ缶をプレゼントしてくれたんです。このドラマの予言みたいで、思い出してびっくりしてました(笑)」

(C)フジテレビ

○「宇宙に対していちばん情熱をもっている人間でありたい」

神木さんはJAXA職員を演じるが、JAXAというと宇宙飛行士やロケットエンジニアが脚光を浴びがち。実はプロジェクトには大勢の裏方が存在する。宇宙食についてもしかり。神木さんが宇宙日本食開発担当や、今回のオリジナル部分である宇宙飛行士の夢破れた人物を演じてくれることで、そんな人たちにも光が当たることを期待する。

神木さんはJAXA職員に抱いていたイメージについてこんな風に語った。

「計算とか数字や知識、例えば科学や物理のスペシャリストが集まっている印象でした。でも、どの部署にいる方でも宇宙へ向ける思いは一緒なのかなと思います。JAXA筑波宇宙センターを見学させていただいて感じたのは、皆さん純粋に宇宙が好きな方たちであるということ。

 僕が演じる木島も、そもそも宇宙飛行士を目指していたのに宇宙日本食開発の部署に移動して、最初は『え? 僕は宇宙を知りたいんですけど』というところから始まります。一見クールなキャラに見えると思いますが、誰よりも宇宙飛行士や宇宙のことを考えて『この規定まで届かなければ許可できません』と言う。高校生、教師、知識あるなしは関係なく『一緒に宇宙を目指すんでしょ。それなら高い基準を目指そうよ』と青い炎を燃やす。宇宙に対していちばん情熱をもっている人間でありたいというのは、役を演じる上で最も気を付けていることです」

木島という役柄は複数の人物を組み合わせたドラマのオリジナル。もちろん、宇宙日本食の担当職員は実在するし、実は宇宙飛行士を目指して最終選抜で夢破れ、ISS(国際宇宙ステーション)への補給船を開発している職員もいる。

今回のドラマの制作発表に登場した野口聡一宇宙飛行士も「神木さんのJAXA職員がぴったりハマりすぎて、設定も含めて『あの人をベースにしてるんじゃないか?』みたいな雰囲気がよく出ている」と太鼓判。クールな木島が高校生とどんな化学反応を起こし、彼自身が変わっていくのか、楽しみでしかない。

神木さん自身も宇宙食のことを知り、「なぜ乾燥させないといけないのか。お湯をどう入れるか、入れたら宇宙食がどうなるかを知ると、宇宙食への印象がガラッと変わった」と言う。宇宙食にはNASAやJAXAのすごい技術が詰まっており、「科学館とかでもっと宇宙食の展示をしてもいいんじゃないか」と宇宙食への愛が高まっているようだ。

(C)フジテレビ

●教育もドラマもクリエイティブ!
(左から)筆者、北村匠海、神木隆之介

ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』には地元福井県や、宇宙業界から熱い期待が寄せられている。JAXAの知人は休暇をとってロケ地の小浜までエキストラ出演に出かけているほどだ。

北村さん演じる浅野峻一のモデルは、福井県立若狭高校教諭だった小坂康之氏(※現在は小浜市教育長)。実は、小坂氏が頻繁に使う言葉がある。それは「教育はクリエイティブ」という言葉。ロケを見守っていた小坂氏から、「『教育はクリエイティブなものだから、アーティストである北村さんにやっていただけて良かったです』と小坂先生におっしゃってもらえた」と北村さんはうれしそうに語る。見た目はかなり違うけれど(笑)、2人の共通点を感じた。

「僕自身もすごく勇気がいる選択でしたけど、朝野は何もしない。はっきりしたキャラクターというよりは生徒に火を点けられる。(神木演じる)木島とは対極なんです。同じ熱量だけど僕は生徒たちの熱さだったり、情熱だったり、夢に向かっていく熱量に灯されていくような。小坂先生と話して、正解を投げるんじゃなくて、それぞれの行く末を見守るだけでいいんだってヒントを頂きました」(北村さん)

最後に神木さんから筆者へ「今まで取材してきた中で、『この人のこういう情熱がすごいな』と思ったエピソードはありますか?」と尋ねられた。

とっさの問いに動揺しつつも「ロケット打ち上げや月着陸の失敗が続いていますが、月着陸を目指す民間企業のCEOさんが、貯金がほとんど底をついて何度失敗しても、絶対に月を諦めない姿を見て、この人が成功した時に喜びを爆発させる姿を見てみたいと取材を続けてます」と話すと、神木さんはキラキラした瞳で「本当に人生を懸けているってそういうことなんでしょうね」と答えてくれた。そして、「何度失敗してもあきらめない。宇宙サバ缶も同じですよね」と互いに納得し合った。

北村さんも神木さんも超人気スターであるにもかかわらず自然体であり、こちらの問いに対して熟慮しながら自分の言葉で自分の考えを紡ぎ出し熱く語ってくださることに、心からの感動を覚えた。同時にこのドラマがきっと事実の大事な部分をコアに、より視聴者に伝わるドラマになるであろうと確信した。



林公代 はやし・きみよ 福井県生まれ。神戸大学文学部英米文学科卒業。 日本宇宙少年団・情報誌編集長を経てライターに。世界のロケット発射、すばる望遠鏡(ハワイ島)、アルマ望遠鏡(南米チリ)など宇宙・天文分野の取材・執筆歴20年以上。 この著者の記事一覧はこちら