「寂しい、情けない…」子どもの自立で“空の巣症候群”に?「存在価値がわからない」「子どもの分まで買い物してしまう」悩みに識者が助言「寂しさを感じる許可を自分に」

新年度になり、進学や就職などで子どもが家から巣立っていくタイミング。子どもが成長して自立することをきっかけに、言葉にできないような寂しさや心身の不調を感じる親がいる。それを「空の巣症候群」という。
ニュース番組『わたしとニュース』では、この空の巣症候群についてハーバード大学医学部准教授の内田舞氏とともに考えた。
■ “空の巣症候群”とは…親たちの切実な声「自分の存在価値がわからず」

子どもが成長し、家を出ていくことに対して、親が言葉にならない寂しさや心身の不調を感じてしまう、いわゆる「空の巣症候群」。巣からヒナが巣立った空の巣と似ていることからそう呼ばれている。
投稿サイト「発言小町」でも、就職や進学で特に子どもが家から出るこのシーズン、親からの声が多数寄せられている。
「娘が東京の大学に進学、家を出ました。寂しくて寂しくて仕方がありません」
「長男が4月から就職して家を出ます。離れ離れになることを想像するだけで涙が出ます」
「今まで子どものために食事や家事、買い物をしていたことを実感し、寂しいというより、何をしていいのか、自分の存在価値がわからず」(発言小町より)
臨床心理士で公認心理士の佐瀬りさ氏によると、空の巣症候群は病気ではなく、心や体の変化がセットで起こりやすいことから症候群と呼ばれているという。また、子どもの自立は本来喜ばしいことであるため、それがきっかけで具合が悪くなるわけがないと思い込むことにより、自分では気づきづらいという点が特徴だ。
実際に子どもの巣立ちを経験した親たちの声は…。
「子どもとかみんな巣立っちゃって。心の中が空っぽになったような状態でしょ。4人家族だったんだけど、最初の子が出て行った時に、お皿を4つ用意しちゃったんですよ。いないんだと思って、慌てて1つどけましたけどね」(80代・女性)
「(子どもが)2人いるんですけど、1人は会社に入ってすぐに大阪に転勤になっちゃって。みんな住まいが別々になった時に、なんかホッとはしなかったかな。やっぱりちょっと寂しかったかな。ご飯作るのとかもいっぱい作るのに慣れていたから、急に1人分って作りづらい。いつも3人分を作って、しかも男の子だからいっぱい食べるじゃないですか。買い物もいっぱい買っても結局1人だとそんなにいらなくて。切ってある野菜とかの方が安かったりするから」(60代・女性)
「娘3人なんですけど、上2人は結婚するんで、家を出るっていうのはありましたけど。やっぱり最初はちょっと拍子抜けするような。買うものも3つ買っちゃうみたいな時もあったりしたので」(60代・妻)
「一番下の子は、去年の6月までずっと32年間ウチにいたんですけどね。ずっと一緒にいるんだなっていう感じはしていたので、やっぱり独立したいと言った時はちょっと寂しいなって気持ちはありましたね」(70代・夫)
こうしたリアルな声に対し、内田氏も共感を示した。「やっぱり習慣は何か1つのイベントが起きたことでなくなるわけではないので、いつも通りにやってしまうのはありそうだなとよく想像できた」。
■子育ては「人生で一番大きなプロジェクト」“寂しさ”は頑張ってきた証

株式会社はぐくみプラスの調査では、子どもが家を離れた時の感情について「寂しい」や「心配だ」という回答が半数以上で、「ホッとした」というポジティブな感情は約37.6%にとどまった。また、約3割の親が空の巣症候群を感じているという。
この結果について、内田氏は次のように語る。「何か1つのことを一生懸命やっている時は、そのために頑張っているわけであって、例えばスポーツでたとえてみると、全速力で走って、ゴールした後もまだ心拍数は高いし、呼吸も苦しいし、体は少し混乱してるわけであって、そのあとクールダウンが必要だ。なので同じように全力投球してきた育児の役割を終えたというか、1つのチャプターを終えた時に、一時的にその役割を手放せなかったりとか、次のペースがつかめなかったりと揺らぐことは当然。それは弱さではなく、むしろ子育てと深く真剣に関わってきた証だと思うので、過渡期というものを悪いものとして取らなくてもいいと思う」
また、「発言小町」には、3人の子どもを育て上げたシングルマザーから切実な投稿が寄せられていた。「子ども3人を育てているシングルマザーです。十代のときに生んだ長男が4月から就職して家を出ます。浪人して大学院に行ったのでもう25歳。十分、一緒に居たと思います。私は地元に住んでいるので私の実家も歩いて行けるし、近所にはいつでも会える友達がたくさん居ます。趣味もたくさんあります。なのに寂しい‥情けないです」(一部抜粋)
この投稿には「寂しく思うのって当たり前だよ。その気持ち、全く正常!ごく自然!!」「慣れるまでの辛抱なので頑張って乗り越えましょう」「そのうちその生活も慣れて、また息子さんとの新しい付き合い方が生まれます」「子育て終了からの人生は、自分の好きなことをして生きましょう」など、投稿者を労いつつ励ます声が多く寄せられている。
内田氏も次のようにエールを送る。「本当にお疲れ様でしたって拍手を送りたい。この方、『情けない』という言葉で投稿を終えられているが、全くそんなことはなくて。やっぱり子育てって人生で一番大きなプロジェクトじゃないですか。それが一区切りした時に、これから自分は何をすればいいんだろうって感じるのも、ずっと一緒にいた人が突然いなくなった後に寂しいって思うのも、全て自然なプロセス。どんなに喜ばしいことであったとしても、そこに寂しいっていう思いだったりとか悲しいっていう思いっていうのが共存することは全然悪いことじゃない。むしろ頑張ってきた証であって、『自分は偉い』という褒め言葉と同時に、自分が寂しさを感じる許可をあげてほしい」。
■原因は「目標と役割の喪失」自分の感情を否定せずに受け止めることが大切

空の巣症候群を引き起こす原因について、佐瀬氏によると「喪失体験」によるものだという。1つ目は「目標の喪失」で、子育てに全てを注いできた場合「一種の燃え尽き症候群」のようなものが発生してしまうこと。2つ目は「役割の喪失」で、子どもが自分を必要としてくれることに生きる意味を見出しすぎてしまうと、子どもの自立によって自分の役割を見失ってしまうことだという。
これについて、内田氏も次のように見解を述べる。「やっぱり“喪失”っていろいろな種類があって、それぞれの喪失が喜びや安心感とともに、悲しみなどの様々な感情を含む体験。こういう風に私は感じるべき、自立を喜ばしいものと捉えて、悲しさだったり寂しさだったりを感じてはいけないんだって、そんなルール全くない。やっぱり人生っていろいろなことを、いろいろな場面で感じて、その場合の感情っていうのが1つでないことの方が実は多い。なので、大切なものに対しては、全力で向き合った後、何かを成し遂げたという場面でも、同じような空白が生まれることもあるし、喜ばしい場面であっても、それが喪失でもあるということなのだろう」。
空の巣症候群では、倦怠感や不眠などの体の不調や、気分の落ち込み、不安、孤独感といった心の不調が表れる場合もある。子どもの自立は嬉しいことだから喜ばなければならないと思い込み、不調の原因が子どもの自立だと結びつかない人も多いという。
「嬉しいはずなのに苦しいっていうギャップがあると、自分でもその辛さに気づきにくいところがあると思う。でもやっぱり人の感情っていうのは、1つの感情を常に感じているわけではない。さらに、こう感じるべきではないって頭で整理できたとしても、実際に感じているものはそれはそれで本物。その感情には必ず意味があるので、だからこそ理由がわからないような不調を感じた時には、それを否定したり押し込めたりするのではなく、大丈夫なはずではあるかもしれないけど、私苦しいんだなと感じて、一度受け止めてあげる。それが一番大切なのではないか」(内田氏)
佐瀬氏によると、これまでの日本では女性が子育てを中心に担ってきた背景もあり、実感としては女性に多いという。しかし近年は男性も家事や育児に積極的に参加するようになり、今後は男性も空の巣症候群を感じる人が増えてくると考えているそうだ。
最後に内田氏は「きっと変わってくると思う。育児は目に見えるものだけではなく、いろいろな場面で、いろいろな判断、いろいろな予測をするため、脳の中のエネルギーを使いまくるものなので、そういった経験があればあるほど、それをしなくてもよくなった時に、空白が生まれるのではないかと思うので、どれだけ関わってきたか、どれだけ密接に育児に向き合ってきたかが直接影響してくるのだと思う」と結んだ。
(『わたしとニュース』より)
